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「日韓関係悪化は中国を利する」、その何が問題なのですか?

 以前、『国際関係アナリスト・北野幸伯氏の優れた論考』で、国際関係アナリストの北野幸伯氏の論考を紹介したことがあります。同氏の論考は非常に読みやすく、かつ、具体例も豊富であり、私自身もこれまでずいぶんと参考にさせていただきました。ただ、同氏の最新論考を読んでいると、どうしても同意できない部分があることも事実です。それは、「日米は中国を喜ばせすぎないよう、文在寅政権崩壊後の韓国に親日・親米政権が立つよう努力すべきだ」とする主張です。無能な味方は有能な敵を上回る脅威である、という視点を忘れてはなりません。

総論は正しい

●北野氏の論考は優れているのだが…

 北野幸伯(きたの・よしのり)氏といえば、メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で有名になった人物です。この人物の文章は非常に読みやすく、また、具体例も豊富であり、説得力も非常に高いため、私自身もずいぶんと参考にさせていただきました。

 もっとも、当ウェブサイトでも『国際関係アナリスト・北野幸伯氏の優れた論考』でも取り上げたとおり、同氏の論考については確かに視点が独自で優れているものの、朝鮮半島情勢に関していえば、個人的には同意できない部分もあります。

 具体的には、『ダイヤモンドオンライン』に今年5月7日付で掲載された次の記事に関して考察したのですが、端的に言えば内容も非常に濃く、かなり読み応えがあるものの、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領や韓国自体のことを、どうも高く評価し過ぎているように見受けられたからです。

「裏切り者」韓国を冷遇するトランプ、八方塞がりの文在寅の末路(2019.5.7 5:00付 ダイヤモンドオンライン)


 論考が今年5月の時点で執筆されたものであるという点を割り引く必要はありますが、北野氏は米韓同盟について、次のように予想していました。


「この八方ふさがりの状況の中でおそらく文は、日本への態度を変え、和解を目指すだろう。これまでの数々の行状を考えると、袖にしたくなる気持ちは当然だ。しかし、対中国戦略を考えると、日本は韓国をバッサリ切り捨てるべきではない。」(※「文」とは文在寅大統領のこと)


これをどう見るべきでしょうか。

●文在寅氏、日本への態度を変えたのか?

 「この八方ふさがりの状況」とは、文在寅氏が中国、北朝鮮、米国から「使えない男」と認定され、韓国が外交的に孤立している、という状況のことです。当然、文在寅氏が合理的な判断を下す人物であれば、北野氏が指摘する通り、文在寅政権は日本への態度を変え、和解を目指すに違いありませんでした。

 では、北野氏がこの論考を執筆してから現時点までの4ヵ月弱、いったい何があったのか振り返ってみましょう。

 5月15日に韓国の李洛淵(り・らくえん)首相が自称元徴用工問題を巡り、「韓国政府にできることには限界がある」と匙を投げてしまいました(『【速報】韓国首相、自称徴用工問題巡り「対応には限界がある」』参照)。

 これを受けて日本政府は5月20日、それまで控えていた『日韓請求権協定』第3条第2項に基づく仲裁手続の付託https://shinjukuacc.com/20190520-03/を決定しましたが、結局、韓国政府は期日の6月18日までに仲裁委員の任命をしませんでした(『【速報】韓国首相、自称徴用工問題巡り「対応には限界がある」』参照)。

 こうしたなか、当然のごとく6月28日から2日間の日程で開催された大阪G20サミットでは安倍晋三総理大臣と文在寅氏の日韓首脳会談は実現しませんでしたし、韓国政府が日韓請求権協定第3条第3項の手続を無視したときには、7月19日には河野太郎外相が「キレる」展開もありました。

 これとは別に、日本政府は7月1日に韓国向けの輸出管理体制の運用見直しを公表(『対韓対抗措置を経産省が正式発表、そして韓国の反応』参照)。日本が実際に韓国を「(旧)ホワイト国」から除外する決定を行ったところ、は日本に対して、


「日本は過去を直視することから出発し、世界と協力して未来に進まなければいけない。過去を記憶して省察することには終わりがない。一度反省をしたので反省が終わったとか、一度合意したので過去として過ぎ去ったとして終えられるものではない」


と言い放ったのです(『「日本は永遠に謝れ」からの脱却』参照)。

 少なくともこの4ヵ月間で見る限り、文在寅氏が日本に対して態度を変え、和解を目指そうとする兆候どころか、むしろ日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)を破棄するなど、米国を巻き込んで大騒ぎしている状況にあります(『もう日本は関係ありません、今後は米韓間で直接どうぞ』参照)。

●合理的じゃないから読み誤る

 以上、北野氏ほど優れた評論家であっても、予測を大きく外すことがあるということについては事実です(※もちろん、これから文在寅氏が任期満了を迎える2年半後までの期間に、日本に対して土下座をしてくる可能性もゼロではないとは思いますが…)。

 いや、むしろこうした読み誤りの理由は、全世界すべての国が合理的に動くとは限らないという点を過小評価したからであって、どんなに優れた評論家であっても犯しかねない点であることは間違いありません。

 ちなみに当ウェブサイトでもしつこく紹介してきた、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の名著『米韓同盟消滅』のエッセンスを私なりに読み解けば、韓国は国としての合理的な行動の前に、永年の宗主国である中国への恐怖が先に立つ、という側面があるように思えてなりません。

 また、米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問のエドワード・ルトワック氏が今から7年前の2012年に刊行した名著 “The rise of China vs. the logic of strategy” の邦訳版『自滅する中国』(※邦訳版の出版は2013年)でも、韓国については


「真の脅威である中国や北朝鮮に対し何ら立ち向かうことなく、最も脅威をもたらさない日本との争いを欲する歪んだ情熱」


を抱く無責任な国だと指摘されています。

 つまり、北野氏の論考のうち、文在寅政権の行動について予測した部分については、正直、結果的にはあまり正しいようには見えません。ただ、それ以外の部分については、リアリストの北野氏らしく、わかりやすくも正確な現状認識が綴られているため、依然として読む価値はあるといえるでしょう。

韓国のオウンゴール

●北野氏の最新論考は「GSOMIA神風論」
ところで、北野氏は不定期で論考を『ダイヤモンドオンライン』に寄稿されているらしく、また、同サイトの記事はうれしいことに、(現在のところは)無料で読めるようです。こうしたなか、本日、北野氏の最新論考が掲載されていました。

■韓国・文在寅はGSOMIA破棄で自爆、安倍政権に吹いた「神風」とは(2019.8.30 5:50付 ダイヤモンドオンラインより)
いったいどんなことが書かれているのでしょうか。

 冒頭のリード文には、こうあります。


「韓国への半導体材料の輸出規制強化からはじまった『日韓戦争』。日本のメディアはあまり報じていないが、情報戦で日本は劣勢だった。しかし、文政権が米国の要求を無視して『GSOMIA破棄』を決めたことで、形勢は逆転した。」


 日本の韓国に対する半導体材料等の「輸出規制」とありますが、これについて日本政府は「輸出規制」ではなく「輸出管理」だ、と主張しています。ただ、北野氏の論考を読む限りは、北野氏はおそらくわざと「輸出規制」という表現を使っているのだと思います。

 なぜなら、日本政府がこの措置を7月1日に発表して以降、欧米を中心とする外国メディアは、「日本が圧倒的に強い立場を利用して韓国を苛めに来ている」、といったニュアンスで本件を報道しているからです。

●情報プロパガンダで敗ける日本

 北野氏はこれをこう述べます。


「『ついにやってくれた』という熱狂の中で忘れられがちなのは、『海外で日韓戦争はどう見られているのか?』という視点である。実をいうと、欧米では、『日韓対立の原因は『歴史問題』であり、日本が韓国をいじめている』という報道が多いのだ。」


 この点については事実です。

 私自身も仕事がら、外国(とくに英米)のメディアの報道を読む機会が多いのですが、本件に限らず、慰安婦問題ではいまだに韓国側の主張を全面的に垂れ流すなど、英米メディアの報道は歪んでいます(これについては『「米国が日韓を仲裁へ」 巧妙化する情報ロンダリング』等もご参照ください)。

 もっとも、北野氏の


「実際、半導体材料の輸出管理強化が『徴用工問題への報復』であることは、全日本国民が知っている。政府高官もそう語り、全マスコミがそう報じていた。」

「しばらくして日本政府も、『ロジックがおかしい』ことに気がついた。それで現在は、『これらの措置は、いわゆる徴用工問題とは関係ない。安全保障上の問題だ』などと言うようになった。しかし、『時すでに遅し』である。」


という下りについては、若干の事実認識の誤りがあります。

 日本政府が7月1日に輸出管理の運用見直しを発表した直後から、日本政府側は、今回の措置を巡っては「対抗措置ではない」「あくまでも輸出管理の一環だ」と即座に説明していたからです(『西村副長官「対抗措置ではない」→そうか、そういう狙いか!』などをご参照ください)。

 ただし、日本政府の説明はともかく、結果として今回の措置が「自称元徴用工問題に対する経済報復である」という印象を与えたことは事実であり、このことが世界で「日本の韓国いじめ」と受け取られていることの原因でもあることは留意する必要があるでしょう。

 北野氏はまた、昨年の自称元徴用工判決については「1965年の日韓請求権協定に違反しているものである」という点を、日本政府がきちんと説明していないという点において、日本が「情報戦で韓国に後れを取っている」と指摘するのです。

●日韓GSOMIA破棄というオウンゴール

 つまり、北野氏によれば、日本は「経済戦では圧勝だが情報戦では惨敗」していた、ということですが、この下りについても私たち日本人には耳が痛い指摘です(※余談ですが、こうした指摘に対してこそ、私たちは真摯に向き合う必要があるのだと思います)。

 ただ、こうした「情報戦の惨敗」という状況をひっくり返してくれたのは、いうまでもなく、先週の韓国政府による日韓GSOMIA破棄という決定です。北野氏はこれについて、「米国が破棄しないよう要求していたのを、韓国が無視した」のがポイントだと指摘します。


「文大統領は、GSOMIA破棄を断行した。/米国はこれまで、2つの同盟国の対立で中立の立場を貫いてきた。だが、その米国の要求を完全無視した文政権は、米国を敵に回してしまった。トランプも相当憤っていたらしく、フランスG7の席で、文在寅を批判している。(中略)GSOMIA破棄は、まさに文在寅の『自爆』であった。逆に、日本にとっては『神風』だった。」


 この点についても、ほぼ全面的に同意します。

 米国側には日本にもGSOMIA破棄の責任を押し付けようとする動きはないわけではありませんが(『日韓GSOMIA破棄問題、米国の「逃げ得」を許すな』参照)、それでも日韓GSOMIA破棄は、日韓間というよりも米韓間でより問題になっているからです。

 いわば、北野氏に言わせれば、日本は「輸出管理」(実質的には「輸出規制」)の問題で韓国のプロパガンダに敗けつつあったが、日韓GSOMIA破棄という愚かなオウンゴールに救われた、ということでしょう。

 もっとも、いちおう公正のために付言しておきますが、今回の輸出管理の運用変更を巡っては、日本政府の説明が稚拙だったと決めつけるのは行き過ぎでしょう。どちらかといえば日本のマスコミが「内なる敵」として、日本政府を背中から撃ったという側面が強かったのではないかと思うからです。

〈h4>「中国を喜ばせる」、それが何か?

 ただし、今回の北野氏の論考に対しては、最後の最後でまったく同意できません。

 北野氏は『日韓対立で大喜びなのは習近平である』としたうえで、次のように述べます。

「文の愚かな行動のおかげで、日本は情報戦の劣勢を挽回することができた。しかし、『大局的視点』も持っておく必要があるだろう。/それは、東アジアの安全は、『中国、ロシア、北朝鮮陣営vs日本、アメリカ、韓国陣営』のバランスで成り立っているという事実だ。日本と米国は同盟国であり、米国と韓国も同盟国である。そして、米国の同盟国である日本と韓国の争いを一番喜ぶのは、いうまでもなく習近平である。」

 この点は、「現状認識」としては正解ですが、「あるべき東アジア新秩序」という意味では落第点です。なぜなら、韓国は日米陣営に属していながらも、経済的には中国に、政治的には北朝鮮に、深く肩入れしているからです。

 むかしから、「無能な味方は有能な敵を上回る脅威である」と言われます。日米にとって、韓国を同盟国に組み込んでおくことが、地政学的にはそれなりの意味があったことは確かですが、それと同時に、韓国がすぐに日米を「裏切る」国である、という事実については忘れてはなりません。

 要するに、韓国を同盟国として維持しておくための「コスト」が、韓国を同盟国にしておくことで得られる「利益」を大きく上回り始めているのであり、この視点が欠落しているように思えてなりません。

 北野氏は文在寅政権崩壊後について、次のように主張します。

「日本と米国は、習近平を喜ばせすぎないよう、『文が大統領を辞めた後の韓国に親日、親米政権が立つよう』努力すべきだろう。」

 では、「文在寅政権崩壊後の韓国に親日、親米政権が立つ」可能性は、どれほどあるのでしょうか?北野氏自身お忘れになったわけではないと思いますが、前任の朴槿恵(ぼく・きんけい)、さらにその前任の李明博(り・めいはく)の両政権が「親日政権」「親米政権」だったとお思いでしょうか?

 いずれの政権も「保守派政権」と目されていながら、中国や北朝鮮に対してはほぼ一切何も抵抗せず、自国に最も脅威をもたらさない国である日本に対しては、大使館前の慰安婦像の設置や日韓通貨スワップの食い逃げ、竹島上陸や世界遺産登録妨害などの不法行為を繰り返しました。

 国レベルで信頼できない韓国をいつまでも「味方」に留めておくことが、中国や北朝鮮、ロシアと対峙するうえで、いったいどれだけ有益なのでしょうか。

 たしかに対馬海峡が日本列島防衛の最前線になることは、日本にとっても大きな脅威ですし、国防体制の抜本的な見直しも不可避です。さらには釜山や済州島に中国人民解放軍やロシア海軍の基地ができるのは悪夢でもあります。

 しかし、それと同時に、いっそのこと「どこからが味方」で「どこからが敵」かが明確になれば、私たち日本国民にとっては覚悟を決めて大陸不法国家と対峙するというきっかけにもなります。

 日本はいつまでも韓国に拘泥するのではなく、むしろ、インド太平洋戦略を大切にすべきですし、日米同盟を基軸として、日米印、日米豪、あるいは台湾やASEAN、ニュージーランド、カナダ、さらには英仏などの諸国との連携を目指すべきでしょう。

 その意味で、私はあえて「中国を喜ばせる?その何が問題なのですか?」と言いたいと思います。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20190830-03/

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