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仲裁手続について、韓国メディアの報道をいくつか眺めてみた

 当ウェブサイトでも既報のとおり、日本政府は昨日、韓国人自称元徴用工の問題で、日韓請求権協定に基づく仲裁手続の付託を韓国政府に通告しました。これについては、「なぜ、今このタイミングで日本政府が仲裁付託を行ったのか」という点もさることながら、韓国側がこれでどう出て来るかという点は非常に気になるところです。本稿では、現時点までに出て来ている韓国メディア(日本語版)の反応をざっとレビューするとともに、相変わらず出て来る韓国側からの無責任な主張にも言及しておきたいと思います。


韓国メディアの反応を眺める

 昨日の『日本が仲裁手続の付託決定:国際的ルールで韓国を裁く第一歩』や今朝の『対韓仲裁手続付託通告 タイミングと狙いについて考えてみる』で紹介したとおり、日本政府は昨日、韓国人自称元徴用工の問題で、日韓請求権
 協定に基づく仲裁手続の付託を韓国政府に通告しました。

 これについては、とくに「なぜ、今このタイミングで日本政府が仲裁付託を行ったのか」という点に関しては、読者の皆さまにとっても気になる点でしょう。

 当ウェブサイトでは、いちおう、次のような仮説を立てています。


■(表向きの理由)


・日本政府の外交協議申し入れから4ヵ月が経過したのに、李洛淵首相自身も匙を投げるなど、韓国側が何ら回答をしないから

・差し押さえられている日本企業の資産(日本製鉄や不二越の合弁会社株式持分)の売却手続が取られたから



■(本当の理由に関する仮説)


・昨年10月30日の大法院判決から半年が経過し、日本企業の間でも「韓国切捨て」の準備が整いつつあるから

・G20直前のタイミングで、訪日する文在寅大統領に一種の「踏み絵」を突き付ける良い機会になるから

・日本政府が1月9日に協議申し入れを行い、このタイミングまで仲裁を引き延ばしたのは、韓国側の「自爆」を誘発するため


 これらの仮説が正しいのかどうかはわかりません。

 また、韓国側が仲裁手続に応じて来た場合には、それはそれで波乱要因でもあるため、予断を許さないところです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ところで、本件についてはもう1つ、どうしても追いかけておきたい点があります。

 それは、「韓国メディア側の反応」です。

 といっても、私には朝鮮語を読む能力がありませんので、ここで専ら参考にするのは、日本語メディアを設けている通信社・『聯合ニュース』、「保守派」とされる新聞社『東亜日報』『中央日報』『朝鮮日報』、「左派」とされる『ハンギョレ新聞』の各社です。

月並みな解説

●聯合ニュースと中央日報「韓国政府は慎重姿勢」

 さっそく中身を確認していきましょう。

 『聯合ニュース』(日本語版)の第一報が、これです。

■強制徴用問題 日本の仲裁委開催要請「慎重に検討」=韓国外交部(2019.05.20 16:13付 聯合ニュース日本語版より)


 この聯合ニュースによると、韓国の外交部当局者は20日、日本政府が外交ルートを通して仲裁付託を通告してきたことについて、「諸般の要素を勘案し、慎重に検討していく」とコメントしたそうです。

 ある意味でまったく予想どおりのコメントです。

 当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』では今朝の『対韓仲裁手続付託通告 タイミングと狙いについて考えてみる』のなかで申し上げたとおり、日本が求めて来た仲裁手続を韓国が「受けて立つ」ことが波乱要因だと考えていますが、現状ではその心配はないと考えて良いでしょう。

 ちなみに、1月9日に日本政府が韓国政府に外交的解決を申し入れた際にも、韓国政府政府内では「日本政府の対応は外交欠礼だ」などとする反応が出ていたと中央日報が報じています。

日本、強制徴用協議を要請して「30日以内に答えよ」要求…「外交欠礼」の指摘も(2019年01月14日07時49分付 中央日報日本語版より)


 何か困ったことがあったときに、相手を非難するだけで何も動けないのは、まさに韓国政府の特徴でしょう。

次に、中央日報の報道を眺めてみましょう。

日本「仲裁委員会」速やかに開催を…韓国拒絶時にはICJへの提訴も検討(2019年05月21日08時32分付 中央日報日本語版より)


 中央日報によると、日本の河野太郎外相と韓国の康京和(こう・きょうわ)外交部長官は、フランスのパリで22日から2日間にわたり開かれるOECD閣僚理事会に参加する際に日韓外相会談を行う予定だと指摘。

そのうえで、先ほどの聯合ニュースの報道と同様、


・日本側の要請に対し韓国外交部は「諸般要素を考慮して慎重に検討していく予定」とだけ明らかにした

・これまで韓国政府は二国間協議だけでなく仲裁委員会開催を受け入れる場合、国際問題に飛び火する恐れがあるとして慎重な姿勢を見せてきた


と述べたうえで、「日本政府は韓国政府が応じない場合、国際司法裁判所(ICJ)への提訴も検討している」とする毎日新聞の報道を引用しています。

●朝鮮日報「人選が困難」

 一方、韓国政府の最初の反応だけでなく、もう少し踏み込んで記述しているのが、次の朝鮮日報の報道です。

強制徴用:日本の仲裁委要請に識者「韓国が承諾しても人選が困難」(2019/05/20 21:49付 朝鮮日報日本語版より)


朝鮮日報の記事を要約し、箇条書きにしておきましょう(※ただし、大意を変更しない範囲で日本語表現を整えている箇所があります)。


・韓国外交部は「外交ルートを通じ、日本側から韓日請求権協定に基づく仲裁委員会の開催を要請する外交文書を受け取った」とした上で「韓国政府は日本側の措置について諸般の要素を勘案し、慎重に検討していく予定」と説明した

・日本政府は今年1月9日、強制徴用賠償判決に関連し、韓日請求権協定に基づく紛争解決手続きである二国間協議を要請し、30日以内に回答するよう求めたが、これに対し韓国政府は「検討する」として回答を保留してきた

・6月のG20サミットを意識し、韓日首脳会談の開催にこぎつけるために、韓国が柔軟な姿勢を見せる可能性があるとの見方も出ているものの、仲裁に合意したとしても、第三国の仲裁委員を合意のうえ指名するのは容易ではないし、韓国政府が自国の仲裁委員を任命しない可能性もある

・ソウル大学のパク・チョルヒ教授は「韓日両国が仲裁委員会で強制徴用問題を話し合うことで合意したとしても、仲裁委の構成や人選の面では簡単に結論は出せないだろう」との見方を示した


 このあたりの記述も、ある意味ではまったく想定通りであり、残念ながらそれほどの新味はありません。

 正直、韓国政府が自国の仲裁委員を任命しない可能性の方がはるかに高いのではないでしょうか。

少し個性的な解説

●ハンギョレ新聞

 ただ、聯合ニュース、中央日報、朝鮮日報の報道については、正直、月並みな感じがして、個人的にはそれほど興味を感じませんでした。

 これに対し、左派メディアとされるハンギョレ新聞は、興味深い視点を示しています。

日本政府、「強制徴用賠償判決」韓国に仲裁委の設置を要求(2019-05-21 07:29付 ハンギョレ新聞日本語版より)


ハンギョレ新聞によると、仲裁手続については


韓国政府が同意しなければ仲裁委を設けることはできない(が)日本は韓国政府を圧迫して国際世論を有利に導いていくために仲裁委設置カードを切ったと見られる


との見方を提示。そのうえで、日本がこの仲裁付託に続いて取り得る手順として、


・韓国政府を国際司法裁判所(ICJ)に提訴すること

・いわゆる「対抗措置」(一部の日本製品の韓国供給中断、ビザの発給制限などの報復措置)


の2点を挙げ、とくに「対抗措置」については


「日本では、弁護団が資産売却を申請した日本製鉄と不二越の株式などの現金化が完了する時点で、日本がこれに着手するという見方が多い」


と述べています。

 そのうえで、ハンギョレ新聞は


「日本外務省の秋葉剛男次官はこの日午前、徳仁天皇に信任状を提出したナム・グァンピョ新任駐日韓国大使を外務省に呼び、韓国政府は仲裁委の設置に応じるよう要求した」

と指摘し、いわば、「新任駐日大使が天皇に信任状を提出した日に仲裁手続を通告した」と述べているのです。

(※なお、当ウェブサイトとしては天皇陛下の御名を軽々しく呼ぶのは憚られるものの、ここでは原文通りに引用しています。)

●東亜日報が本質を突いている

 これらのメディアのなかで、比較的本質を突いているのが、次の『東亜日報』の記事です。

日本、第3国を含む「元徴用工賠償判決の仲裁委」要請(2019/05/21 10:30付 東亜日報日本語版より)


といっても、記事の中身自体、その大部分はすでに他社が報じたものの繰り返しなので、ここでは東亜日報独自の視点が出ている下りを紹介しておきましょう。


「実質的な結果を得ることが難しいにもかかわらず、請求権協定の手続きを踏んでいく日本政府の動きは、国際世論戦を考えたものという分析もある。「日本は法的手続きに則って行動しているが、韓国は手続きを無視する」と国内外に伝える狙いがあるということだ。」

 はい。

 日本政府の狙いとは、まさにこれでしょうね。

 日本としては、韓国が仲裁手続に乗ってくれば儲けものですし、乗って来なければ「日本は法的手続を大切にしているのに、韓国は法的手続を無視する無法国家だ」と日本国民と全世界に対して強く印象付けることができます。

 むろん、当ウェブサイトのコメント欄にもご指摘があったとおり、韓国が第三国の委員を抱き込み、「徴用工財団の設立」を日韓両国政府に勧告する、などというリスクがないわけではありませんが、基本的に日韓請求権協定第3条の手続は、あくまでも、

「日韓請求権協定の解釈および実施に関する両国間の紛争の解決」

について定めているものです。日韓請求権協定の原文の同第3条第1項(PDFファイルの9ページ目以降)には、こうあります。


日韓請求権協定 第3条第1項


この協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。


 この点、「徴用工財団の設立」は、日韓請求権協定の解釈および実施と無関係ですし、「第三国」に日本の同盟国である米国が入るとすれば、基本的にはそのような結論が入る可能性は排除して良いでしょう。

 つまり、韓国政府が仲裁手続を「受けて立った」場合には、「第三国」として、米国(あるいは米国に準じる西側法治国家)を指名することができるかどうかが最大のポイントでもある、ということです。

東亜日報の無責任極まりない社説

 さて、本稿はここで締めようと思ったのですが、もう1つだけ、なかなか驚くべき社説が出ていましたので紹介しておきましょう。

元徴用工賠償問題の国際紛争化の手続きに入る日本…韓日関係をこれ以上放置してはならない(2019/05/21 10:29付 東亜日報日本語版より)
全篇ツッコミどころだらけなのですが、


「文在寅(ムン・ジェイン)政府は、歴史問題の解決と未来指向的な関係発展を並行推進する「ツートラック」基調を公式の立場としているが、関係悪化を事実上、放置すること以外に特に努力をしていない。6月末に大阪で開かれる主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議を機に、韓日首脳の対話が復元されなければならない。首脳間で対話が始まれば、元徴用工賠償判決に対して政府と民間サイドの双方で解決に向けた糸口が少しずつ見出されるだろう。」


 この、「両国首脳で対話が行われれば、解決に向けた糸口が少しずつ見出される」という表現、まことに無責任と言わざるを得ません。

 そもそも、日韓請求権協定に違反する判決を下し、日本の哨戒機に火器管制レーダーを当て、旭日旗にイチャモンを付け、国会議長が上皇陛下を侮辱するなど、日韓の信頼関係を破壊したのは一方的に韓国の側です。

 これらについて総括もせずに、「日韓両国が」関係を復元するために歩み寄らなければならない、といった主張は、非常識極まりないものであり、とうてい受け入れられません。

 いずれにせよ、現在の日韓関係悪化の背景には、文在寅(ぶん・ざいいん)政権のみに責任があるというよりも、日韓関係破壊の実情を正面から見据えることすら放棄している韓国保守論壇の無責任さも存在することは間違いないと言えるでしょう。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20190521-02/

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