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    細川 珠生
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    井上 政典
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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    北外交官が「韓国亡命」避ける理由

     昨年11月に行方をくらました駐イタリアのチョ・ソンギル北朝鮮大使代理の亡命がハッピーエンドで幕を閉じることを願う。イタリア日刊紙コリエレ・デラ・セラによると、チョ大使代理は昨年9月、平壌から帰任通知を受けた。その後、引き継ぎ作業を始めたが、11月の段階で行方をくらましている。すなわち、昨年9月から11月の間にチョ大使代理は帰国ではなく、政治亡命を決意したとみて間違いない。

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    北朝鮮金正恩委員長の文在寅大統領宛て書簡(韓国大統領府公式サイトから、2018年12月31日)

     駐英北朝鮮公使で韓国に亡命した太永浩氏は5日、自身のブログで、第3国への政治亡命を求めているといわれるチョ大使代理に対し、「民族の一構成員であり北朝鮮外交官だった私や君にとって韓国に来るのは選択ではなく義務だ。ソウルで待つ」(韓国中央日報日本語版6日付)と呼び掛けている。

     太永浩元駐英北朝鮮公使の意気込みと心情は理解できるし、そうなればいいが、海外駐在の北外交官が亡命先に韓国を選ぶことは難しくなってきた。はっきりいえば、親北派の文在寅大統領がソウルの政権を握っているからだ。韓国は「2018国防白書」で「北朝鮮は国防上の主敵」という個所を削除することを決めている。

     文大統領は北朝鮮の独裁者、金正恩労働党委員長と昨年3度も南北首脳会談を開催し、今年も南北融和路線を推進することで一致している。そこに海外駐在の北外交官が韓国に政治亡命すれば南北融和路線を実施する文政権にとって大きな障害となることは明らかだ。

     北朝鮮の国境兵士ならば韓国に亡命するかもしれないが、国際情勢に精通した海外駐在北外交官は文在寅政権下の韓国に政治亡命すれば歓迎されないばかりか、生命の危険すらあることを知っているはずだ。

     イタリア日刊紙ラ・レプブリカによると、チョ・ソンギル大使代理は「米国への亡命を望んでおり、現在イタリア情報当局の保護を受けている」という。現実的に判断すれば、チョ大使代理の米国亡命は正しい選択だろう。家族を連れて韓国に政治亡命することがどれだけ冒険かを知っている北外交官の判断だ。一方、米国側は「北大使代理」という地位からチョ氏が北の国家情報を知っている可能性があると判断、同氏の米国政治亡命を積極的に進めていくことが考えられる。

     冷戦時代、当方は旧東欧共産圏から逃げてきた亡命者や中国反体制派知識人と会見した。2000年後は英国やオーストリアに政治亡命した脱北者とも会見した。共産圏や中国、北朝鮮といった独裁国家から逃げてきた亡命者は悲しい立場だ。故郷に残した家族、親族のことだけではなく、母国を捨てたという一種の罪悪感がやはり払しょくできないからだ。亡命した北外交官の場合、自身が知っている情報、知識、体験を西側情報機関関係者に高く売りつけなければならない。だから、情報は大げさにになり、尾びれ背びれが付く。異国で生きていく上で必要だからだ。北外交官発の情報は受け手がその真偽を慎重に判断すべきだろう。

     太元公使は自身のブログで、チョ大使代理に「韓国に来れば身辺の安全は心配しなくても良い。韓国に来れば政府で徹底した身辺警護を保障し、職業も望む所で解決されるだろう」と説明し、韓国亡命を強く勧めている。太元公使の発言は間違っていないが、文政権下で南北融和路線がさらに進展していけば、脱北者、特に元外交官の立場は決して「安全」とは言えない。文政権が進める「積弊清算」がある日、脱北者に向かうことがないと言えるだろうか。

     イタリアのメディアはチョ大使代理がイタリアに亡命する可能性があると報じている。このシナリオはかなり厳しい。北側がチョ氏を見つけだすために特殊部隊をローマに派遣済みだからだ。チョ氏にとってイタリア亡命は危険すぎる。第3国に亡命する以外にない。亡命先としては米国、英国が考えられる。英国には多数の脱北者が住んでいる。ただし、どの国に亡命したとしても、危険を完全には排除できない。

     韓国が脱北者の最初の亡命先にならないという事実は悲しいことだ。文在寅大統領が金正恩氏に人権弾圧の停止を要求し、言論・結社・宗教の自由の保障を強く説得するまで、韓国は脱北者にとって危険な亡命先に留まるだろう。中国経由で逃げようとした多数の脱北者が平壌当局の要請を受け中国共産政権から強制送還されてきた。同じことが、文政権下で行われないと誰が言えるだろうか。

     参考までに、イタリアは2000年1月、当時の先進7カ国(G7)の中で先駆けて北朝鮮と国交を樹立した。イタリアの政治的勇断に鼓舞されたイギリス、カナダなど他の主要国もその直後、平壌と次々と外交関係を樹立していった。その意味で、北朝鮮にとって、イタリアは文字通り、先進諸国への門を開いてくれた大恩人だ。それだけではない。イタリアの自動車メーカー、フィアット社が北朝鮮企業の自動車産業を支援するなど、経済的繋がりも結構深い。また、イタリアの首都ローマは国連都市だ。例えば、国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)はローマに本部や事務局を構えている。食糧問題を抱えている北朝鮮にとって、これらの国際機関との接触は非常に重要だ(「北朝鮮、イタリアを再発見」2007年9月1日参考)。

     北の大恩人イタリアから北大使代理が亡命した。チョ・ソンギル氏の政治亡命が欧州駐在の北外交官に大きな影響を及ぼすことは必至だ。金正恩氏は亡命対策のため海外駐在外交官の一時帰国を命令するだろう。そして文在寅大統領は、金正恩氏の韓国訪問の行方が心配で眠れない夜を過ごすことになる。

    (ウィーン在住)

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