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効果疑問な国連対北経済制裁

小林 宏晨日本大学名誉教授 小林 宏晨

30%削減の基準値不明
対案は「パチンコ営業禁止」

 国際関係ではこれまで戦争に代わってたびたび経済制裁が行われているが、その効果は極めて疑わしい。アメリカの対キューバ経済制裁、欧州連合(EU)の対ロシア経済制裁、そして国連安保理の対北朝鮮経済制裁しかりである。国連に限定して問題を検討しよう。

 ある専門家によれば、その因果関係はたかだか30%以下と見積もられる。これよりもはるかに低いと見なす論者も存在する。また適用期間が長期にわたる場合には、その因果関係の証明がさらに困難となる。現北朝鮮政権の国連経済制裁による核兵器開発放棄の蓋然(がいぜん)性は極めて低い。しかもそれには以下の諸根拠が存在する。

 北朝鮮の独裁政権を維持させるには二つの要因が存在する。一つは内的要因、他の一つは外的要因である。内的要因は、政権自身の核開発能力であり、その能力はこれまで十分に証明されてきている。外的要因は、中国の現北朝鮮政権に対する保護能力プラス保護意欲である。これにある程度ロシアの保護能力プラス保護意欲が加えられる。現時点で西側諸国は国連の対北朝鮮経済制裁への中国の参加に依存している。しかし中国の積極的参加には疑問が提示される。

 なぜか? なぜなら、北朝鮮がこれまでより少ない(30%減?)石炭、繊維製品および労働力の輸出しか許されない場合、中国の輸入量がそれだけ減少することになる。しかし実際に減少するか否かの確認方法は極めて曖昧である。なぜなら、2013年12月以来、中国は例えば石油の輸出量を公表していないからだ。従って、17年の国連安保理の石油の対北朝鮮輸出の30%削減決議であっても、これまでの基準値を見つけるには中国に頼るしかない。北朝鮮が毎年どの程度の石油を必要としているかさえ公表されていない。かつては北朝鮮に年間中国が60万トン、ロシアが30万トン輸出していると言われたが、確実な数字は不明である。従って30%マイナスのための基準値も不明である。

 例えば、安保理の対北朝鮮石油輸出30%削減決議の後、中国が北朝鮮に同量の石油を輸出するが、その価格を30%引きにすることも可能である。これに対応するために、西側が経済制裁のより詳細な基準の設定を試みる場合、安保理での中国(およびロシア?)の拒否権行使に遭遇する蓋然性が高い。

 例えばキューバは、57年にわたってアメリカの経済制裁の対象とされた。しかし経済制裁は、一般的に長引けば長引く程その効果は薄れる。対象国の国民は、経済制裁に順応し、制裁国に対抗する民族主義意識を強める。

 現時点で中露が国連決議を忠実に実行する蓋然性は極めて低い。なぜなら中露両国は北朝鮮と陸続きであるという地理的事実があるからだ。しかし、たとえ中露が国連制裁決議を忠実に実行するために北朝鮮への陸路を閉鎖するとしても、さらなる困難が控えている。

 北朝鮮政権は麻薬の密売および兵器の販売国として知られている。たとえ中露が麻薬および兵器の売買を制限しても、海上輸送の可能性は開かれている。しかし公海での船舶停止・臨検措置は多大な危険を伴う。つまり武力紛争の原因となり得るので、諸国は禁輸の発動、臨検の実行には極めて慎重である。しかも、北朝鮮に対する兵器取引の禁止、公海での臨検の国連決議に対しては、恐らく中露が拒否権を発動する可能性が高い。従って、国連ではなく、西側諸国による実力行使が残ることになるが、このような方法も容易には行い得ない。このようにみるならば、キューバであれ、あるいは北朝鮮であれ、経済制裁にもかかわらず、体制が維持されたのか、あるいは経済制裁故に、体制が維持されたのか、にわかには決定できないことになる。

 衆知のごとく、経済制裁の目的は、制裁の対象国が、経済的不利益からする痛みに耐え切れなくなって、結局制裁遂行国の意向に従うところにある。ところが、この経済制裁が目的に到達しないばかりか、制裁遂行国の痛みまでも伴う場合、制裁は長続きしないことになる。

 現代国際共同体で予防的軍事攻撃は違法として全面的に禁止されている。これに対し先制軍事攻撃は、争いはあるが、相手側の「差し迫った軍事攻撃の脅威」がある場合、合法と見なされている。なおわが国は、その憲法によって国際法の枠内で行動することを内外に宣言した。従って、わが国は、抑止力を維持し、戦争遂行・反撃能力は維持するも、予防的軍事攻撃は控えなければならない。

 経済制裁が有効ではなく、予防的軍事攻撃が禁じられているとすれば、これらの措置への対案は存在するのであろうか。当面考えられ得る対案は、立法による「パチンコ営業禁止」ではなかろうか。これまで、パチンコ営業の収益の一部が北朝鮮に流れ、これが「核開発」の資金として利用されていると言われている。政府は、早急にその事実関係を調査し、その対応策を提示すべきであろう。民主的平和国家は、その安全保障政策も法治国家の枠内で遂行すべきである。

 最後に拉致は日本の対人主権の重大な侵害行為である。拉致被害者が帰国するまでこの侵害行為が継続している事実が指摘され続けなければならない。

(こばやし・ひろあき)

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