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    安東 幹
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    坂東 忠信
    坂東 忠信
    元警視庁北京語通訳捜査官
    古川 光輝
    古川 光輝
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    細川 珠生
    細川 珠生
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    井上 政典
    井上 政典
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    伊勢 雅臣
    伊勢 雅臣
    「国際派日本人養成講座」編集長
    河添 恵子
    河添 恵子
    ノンフィクション作家
    宮本 惇夫
    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家
    宇佐美 典也
    宇佐美 典也
    エネルギーコンサルタント

    「労働者の党」社会(民主)党の没落

     カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスはその共著「共産党宣言」の中で、「ヨーロッパに幽霊が出る。共産主義という幽霊だ」という有名な台詞を発したが、当方は「ドイツの社会民主党(SPD)に救世主が現れた。マルティン・シュルツ氏(61)という救世主だ」と少し脱線気味にコラムを書いたことがある。欧州議会議長を5年間務めた後、ベルリンの中央政界に戻り、党大会で100%の党員の信頼と期待を背負って社民党党首に就任した時、シュルツ氏は文字通り、停滞する社民党の救世主だったからだ。

    シュルツ氏

    党歴代最悪の選挙結果となった独社会民主党(SPD)のシュルツ党首

     それだけにシュルツ党首の「その後」は余りにも惨めだった。その直後に実施された3つの州選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)で社民党が敗北を喫した時、多くの党員は驚いたが、それでも「9月の連邦議会選が本番だ。シュルツ氏はやってくれるだろう」と期待していた。しかし、3つの州選挙で敗北した社民党新党首は今月24日の本番の総選挙でも敗北したのだ。4戦4敗だ。それも社民党歴史上、最悪の得票率(20・5%)だった。社民党の党員たちは失望より、絶望感に襲われてしまったのだ。これ以上の悪い結果はないからだ。

     シュルツ党首も総選挙敗北の日(24日)、「結果は厳しく、辛いものだった」と表明する一方、「野党の党首として今後もやっていく」というのが精いっぱいだった。

     シュルツ党首の名誉のために付け加えると、SPDと大連立を組んできた「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の結果も良くなかった。社民党とは違って戦後最悪の結果は避けられたが、戦後2番目の低得票率(約33・0%)だった。ただし、メルケル首相を率いるCDU/CSUは前回(2013年)比で得票率を約8・6%急落したが、社民党は約5・2%減に留まった。

     さて、本題に入る。欧州の社会党(社会民主党)の低落ぶりは目を覆うばかりだ。2000年の時、欧州連合(EU)の加盟国は15カ国だったが、そのうち10カ国は社民党単独、ないしは社民党主導政権だった。加盟国28カ国の現在、その数は2桁を切って久しい。

     例えば、オランダ総選挙(3月15日実施)で労働党は得票率5・7%に留まり、38議席から9議席に落ちた。フランス大統領選(4月)の社会党候補者ブノワ・アモン氏は得票率6・4%と第5番目に留まったばかりだ。欧州には現在、英労働党のトニー・ブレア英首相(任期1997~2007年)や独社民党のゲアハルト・シュレーダー首相(1998~2005年)といった著名な社民党系指導者はいなくなった。

     当然、「なぜ社民党は停滞するか」という問題は欧州の政治学者の大きなテーマだ。独週刊誌シュピーゲル(9月16日号)もテーマにしている。労働者の利益を代弁すると標榜してきた社会党(社会民主党)は選挙の度に得票率を落として苦戦を強いられている。なぜ有権者は社民党から去ったのか。

     理由の一つは、社民党が「労働者の政党」を標榜してきたからだ。党の支持基盤の労働者階級はもはや存在しないのだ。労働者は存在しても、階級として労働者階級は存在しなくなったのだ。その意味で、支持基盤を失った社民党が選挙の度に敗北するのは当然の成り行きなのだ。

     マルクス・レーニン主義が若者や知識人の心を捉えた時はまだいわゆる労働者階級は存在していたから、それを支持基盤とする社会党は選挙で勝利する可能性があった。その労働者階級が急速に消滅していったのだ。多くの労働者はミドルクラス入りし、自分を純粋に労働者階級に属すると認識する国民の数は急減していった。

     ちなみに、資本家の搾取を糾弾し、労働者を解放するために乗り出したマルクスが「本当は労働者が好きでなかった」と吐露していることがエンゲルス宛の書簡の中で明らかになった。社会運動に火を点けたマルクスが宣言した「労働者の解放」は実は嘘だった。マルクスが気ままに思いついたキャンペーンに過ぎなかったのだ(「マルクスは『労働者』をバカにした」2017年5月17日参考)。

     公平、平等という言葉は魅力的だ。それらの言葉に惹かれて社会運動に足を突っ込んだ若者たちがいたが、多くは途中で挫折し、失望していった。

     労働者の味方を標榜してきた社会党党首たちが政界から足を洗った後、どのような生き方をしているかを思い出せばいいだろう。ドイツのシュレーダー首相やオーストリアのアルフレート・グーゼンバウア―首相(任期2007~08年)はロシアやカザフスタンの独裁者の政治アドバイサーとして高額の給料を得ている。グーゼンバイア―氏は社会党青年部の責任者時代、モスクワを訪問し、地べたに接吻をするほどのマルクス崇拝者だったが、今は資産家の助け手となっている。その姿から「労働者の味方」といったイメージは沸かない。

     近未来、労働者階級だけではなく、労働者もいなくなるかもしれない。人工知能(AI)が労働者から職場を奪っていくからだ。労働者はかわいそうだ。労働者の味方を装った偽りの救世主に希望を託して裏切られ、そして将来、AIがその職場を奪い、労働者を職場から追放していく。だから、大多数の労働者は自身が労働者階級に所属することに自己嫌悪となり、労働者の味方を標榜する社民党から距離を置こうとする。

     欧州政界には英国の労働党ジェレミー・コービン党首が活躍しているが、同党首は「社会民主主義者ではなく、社会主義者」(シュピーゲル誌)だ。一方、39歳で最年少大統領に選出されたフランスのエマニュエル・マクロン新大統領は沈みかけた社会党という船からいち早く飛び出した賢明な政治家だ。

     昨年5月1日、ウィ―ン市庁舎前広場で慣例のオーストリア社会民主党主催のメーデー集会が開かれた。そこにホイプル市長と共に演壇に立ったヴェルナー・ファイマン首相(任期2008~16年)は多くの労働者の前で慣例のメーデー演説を始めた。その時だ。普段は拍車喝采で迎えられる社民党党首のファイマン首相は激しいヤジと罵倒を受けたのだ。メーデーの日の演説で、社民党党首が罵倒されるということは長い社民党の歴史でもなかったことだ。ファイマン首相はさすがにショックを隠し切れなかった。それでも最後まで演説して演壇から降りた。ひょっとしたら、あの日の出来事は欧州の社民党没落を象徴する瞬間ではなかったか。ファイマン首相はその8日後、首相の辞任を表明している。

    (ウィーン在住)

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