«
»

「彼は英雄ではなく、犠牲者だった」

 ドイツの首都ベルリンで12月19日、クリスマス市場で起きた「トラック乱入テロ事件」について、これまで判明した捜査結果(暫定)をまとめておく。捜査で新たな情報が明らかになった一方、メディアで報道されてきた情報が一部間違いだったことも判明した。

800

トラックがクリスマス市場に乱入(独民間放送N-TVの中継放送から、2016年12月19日)

 ①独「トラック乱入テロ事件」の犠牲者数が12人と2015年7月14日に発生した仏ニースの「トラック乱入テロ事件」の85人より少なかった理由は、ポーランド人のトラック運転手がテロリストのチュニジア人アニス・アムリ容疑者のクリスマス市場突入を阻止するために格闘した結果、トラックは60メートル走った後、左側に急きょ折れて止まったからだと報じられてきた。そのニュースが伝わると、ポーランドでは運転手は英雄と受け取られた。

 トラック運転手の命がけの抵抗があったと報じられると、ドイツ国民の中でもトラック運転手に報奨金とドイツ連邦功労勲章を与えるべきだという声が高まっている。オンラインで署名運動が始まったほどだ。なお、トラック運転手( Lukasz U )の葬儀は12月30日、出身地のポーランド北西部のシュチェチン市で挙行された。

 遺体の司法解剖の結果、運転手は事件発生(クリスマス市場突入)3時間前に頭部をピストルで射殺されていた。すなわち、運転手はアムリ容疑者とは車内で格闘はしていなかったのだ。換言すれば、トラック運転手は英雄ではなく、犠牲者だったことが判明した。

 ②それではアムリ容疑者はなぜ突然、市場乱入後、トラックを左側に切り、止まったのか。

 捜査結果によると、トラックに設置された緊急停止装置が作動した結果という。例えば、昨年7月に起きたフランス南部ニースで起きた「トラック乱入テロ事件」の場合、トラックには緊急停止装置が設置されていなかった。緊急停止装置はトラックが何かに衝突した時、自動的に作動するようになっている。ベルリンのトラックは新型(Scania R450)であり、ニースは古いタイプのトラックで緊急停止装置は設置されていなかった。

 蛇足だが、ニースの場合、市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道だ。直行できるが、ベルリンの場合、クリスマス市場であり、両サイドは露店が並び、道幅は狭い、という犯行状況の差が事件の犠牲者数に反映したとも考えられる。

 当方はこのコラム欄で「大型トラックは無差別テロの武器」(2016年12月21日参考)を書き、イスラム過激派テロ組織が大型トラックをテロの武器として利用するケースが増えるだろうと指摘したが、ベルリンのトラックのように、全てのトラックが緊急停止措置を設置すれば、最悪の事態を回避できる可能性が高まるわけだ。

 なお、ポーランドのトラック運送会社社長は「GPSの位置情報によると、イタリアからベルリンに到着後、数回トラックが動いていた」と証言していた。多分、アムリ容疑者はトラックを奪った後、犯行現場に行く前に試運転していた可能性が考えられる。

(ウィーン在住)

2

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。