ワシントン・タイムズ・ジャパン

原子力は温暖化対策に不可欠―IAEA特別報告書

CO2排出削減に寄与

「ノーリスク信仰」超えられるか

 国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が10月31日~11月12日の日程で英国・グラスコーで開催される。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)はこのほど、COP26に先駆け、「ネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)のための原子力エネルギー」と題した特別報告書を発表し、クリーンなエネルギー源としての原子力の役割を強調した。(ウィーン・小川敏)

国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長(AFP時事)

国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長(AFP時事)

 2015年のパリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つとともに、1・5度に抑える努力を追求する」ことで合意し、これに必要な対策と資金の確保で一致した。COP26の目的は、パリ協定の目標実現に向かってテンポを加速することだ。

 各国では、従来のエネルギー源である石炭や原油からクリーンエネルギーの風力や太陽光への移行が進められている。英国では24年までに石炭火力発電から完全に脱却し30年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を終了する予定だ。

 こうした中、重要になるのが原子力エネルギーの位置付けだ。欧州の経済大国ドイツは22年末までに脱原発を実施する一方、フランスではマクロン大統領が今月12日、小型原子力発電所(小型モジュール炉)の建設と核廃棄物を処理するための新技術に10億ユーロの投資をすると発表。欧州だけを見ても、原子力エネルギーの利用問題では依然コンセンサスがないのが現実だ。

 問題は、再生可能エネルギーが必要なエネルギー量を補填(ほてん)できるかだ。風力や太陽光は気象状況に左右される上、産業に必要なエネルギーを供給できるかは不透明だ。世界経済の持続的な発展と開発のためにはクリーンで安全な原子力エネルギーがどうしても必要となる。18年時点で、原子力発電は世界の電力の約10%を占めている。

 IAEAが発表した特別報告書は「パリ協定の目標を達成するためには、原子力エネルギーが重要な役割を担っている」と明記している。

 グロッシIAEA事務局長は「過去50年間、原子力発電は累積で約70ギガトンの二酸化炭素(CO2)排出を回避し、毎年1ギガトンを超えるCO2排出を回避し続けている」と指摘。「科学的な実証に基づいた決定を下し、原子力への投資を増やす時だ」と強調している。

 特別報告書はまた、「低炭素電力の確固たる供給源としての原子力発電は、石炭やその他の化石燃料に取って代わるのに非常に適しており、熱と水素を供給して、産業や運輸などのセクターを脱炭素化できる。原子力発電は、パンデミック後の世界的な経済回復のための最も効果的な投資の一つであり、エネルギー、経済拡大、気候変動に関する国連の持続可能な開発目標に直接貢献できる」と主張している。

 報告書によると、石炭発電の20%を250ギガワットの原子力発電に置き換えると、CO2排出量は2ギガトン、つまり電力部門の年間排出量の約15%が削減されるという。そして「原子力と再生可能エネルギーとのパートナーシップは、排出量を正味ゼロにするためのカギとなる。原子力発電は柔軟性があり、信頼性が高いため、電力に基づく正味のゼロエネルギーミックスを支えると同時に、発電システム全体のコストを削減するのに役立つ」というのだ。

 ジョン・ケリー米気候変動問題担当大統領特使は、IAEA特別報告書の中で、「世界的なクリーンエネルギーの移行には、今後10年以上にわたって、原子力エネルギーを含むあらゆる種類のクリーンエネルギー技術を大規模に展開する必要がある」と述べている。

 なお、原子力利用では安全性が常にテーマとなり、原発建設のネックともなってきた。その課題を克服するためには原発関連技術のさらなる向上が求められることは言うまでもない。「ノーリスク信仰」に縛られている限り、「ネットゼロ」は実現できない。原発の安全性を最大限維持する一方、原子力エネルギーの平和的利用を推し進めることが現時点では最善の選択だろう。

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