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誰がローマ教皇の死を願っていたか

 南米出身でイタリア系の血が流れているローマ教皇フランシスコはドイツ人で学者タイプの前教皇ベネディクト16世とは全く違ったキャラクターの持ち主で、冗談が好きだ。だからメディア関係者にとっても話題は尽きないが、時には冗談が現実味を帯びてくる場合がある。今回の冗談もその一つだろう。

フランシスコ教皇「私はまだ生きているよ」(バチカンニュース2021年9月19日から)

フランシスコ教皇「私はまだ生きているよ」(バチカンニュース2021年9月19日から)

 ローマ教皇フランシスコ(84)は7月4日、ローマのアゴスチノ・ゲメリ・クリニックでセルジオ・アルフィエリ医師の執刀による結腸の憩室狭窄の手術を受けた。予定より長く10日間、入院した後、バチカンに戻った。そして今月12日から15日にかけ、中欧のハンガリーの首都ブタペストとスロバキアを訪問した。教皇にとって43回目の外遊となったブタペストの英雄広場での国際聖体大会では記念礼拝をするほか、スロバキアでは地元のカトリック教会関係者と会合し、他宗派の指導者と超教派活動で話し合った。すなわち、手術後、初の外遊はストレスが少ない日程だった。

 フランシスコ教皇は12日、スロバキアのイエズス会関係者との会合で手術後の体調を聞かれ、「わたしはまだ生きているよ。ただ、私の死を願っている人々もいたようだがね」と述べ、「(私が死んだら後継者の教皇選出のために直ぐにコンクラーベを開催しなければならないから)、コンクラーベの開催準備をしていたということも知っている」と語ったのだ。

 フランシスコ教皇は自身が所属していたイエズス会の会合ということもあって気が緩んだのだろう、冗談の一つぐらいは言わないと悪い、という生来のサービス精神が働き、今回の冗談となったのだろう。その冗談の内容がイエズス会の機関紙ラ・チビルタ・カットリカで掲載されたので、一般のメディアが21日、一斉に報じたので、話題を呼んだというわけだ。

 フランシスコ教皇は、2015年1月20日、訪問先のフィリピンから帰国する機内で記者団に対し、人工的な避妊を禁じるカトリック教会の教えを擁護する一方、「ウサギのように子供を産まなくてもいい」と多産を戒めるような発言をして物議をかもしたことがあった。「ウサギのように」と言われたフィリピンの女性たちは不快となっただろう。今回の教皇の冗談は少々、次元が違う。「自分の死を願っている人々がいた」、「次期法王の選出のためにコンクラーベ開催の準備をしていた」という冗談は高齢の教皇の命に直接に関係する内容だけに、現実味を帯びてくることは避けられなくなる。Netflix配信の犯罪番組のファンでなくても、どうしてもさまざま憶測が生まれてくるからだ。

 フランシスコ教皇は“自分の死を願っている”高位聖職者を知っているのだろうか。それともイタリアのメディアが頻繁に報じてきた数多くの憶測情報をつまみ上げて語っただけに過ぎなかったのだろうか。「コンクラーベの開催準備に動き出した人」という部分は明らかに教皇の自作だろう。それとも、バチカン内の高位聖職者の動きを逐次監視し、不審な言動があれば教皇の耳に入るホットラインがあるとでもいうのだろうか。

 高齢の教皇が手術をすれば、手術の経過如何では命の危険が出てくることは十分考えられる。だから、バチカン関係者がコンクラーベの準備に入っていたとしても通常の危機管理の枠内のことだ。冗談好きな教皇はそれをユーモラスに語って、笑いを誘っただけかもしれない。

 それでは教皇の発言を単に冗談として済ましていいだろうか。残念ながら「教皇の死」を願う人々はバチカン内の高位聖職者の中だけではなく、外部にもいることは間違いない。故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月~2005年4月)は1981年5月13日、バチカンのサン・ピエトロ広場でトルコ人、メフメト・アリ・アジャに銃撃された暗殺未遂事件を思う出すまでもない。今年8月、銃弾が入った封筒が教皇宛てに届けられたことがあった。封筒の送り人はマフィア関係者ではないか、といった憶測が一時流れた。

 歴代の教皇の中にはヨハネ・パウロ1世(在位1978年8月26日~9月28日)は教皇に就任して33日間後に亡くなったために、「33日間の教皇」と呼ばれている。ベットで突然死したパウロ1世の死因については、急性心筋梗塞説から暗殺・毒殺説、そして予定説までさまざまな情報が流れた。バチカンでは何が起きても驚くことはないともいわれる。ペテロの後継者、ローマ教皇が住むからだ。バチカンは昔かfら「秘密の宝庫」と呼ばれてきた。

 フランシスコ教皇は「わたしはまだ生きている」と表明したが、84歳の教皇には本人の意向とは関係なく、今後もさまざま死亡説が流れてくるだろう。その点、北朝鮮の独裁者の運命と酷似している。金日成主席や金正日総書記には本当に亡くなるまで何回も死亡説が流れたものだ。

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