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経済相の「回答」に欠けていた視点

 アルプスの小国オーストリアでもデルタ株コロナ感染が広がり、最近7日間で1日平均2000人の新規感染者が出てきた。夏季休暇明け、新学期のスタートということもあって今後も増加するのではないかと懸念されている。

シュランベック経済相(デジタル経済省公式サイトから)

シュランベック経済相(デジタル経済省公式サイトから)

 オーストリアでは15日からコロナ規制の一部強化が実施された。具体的には、店舗などの他、博物館や図書館でもコロナ・ワクチンを接種していない人はFFP2マスクの着用が必要となり、ワクチン接種済みの人は通常のマスクでもいいということになった。ワクチン接種者と非接種者間の差別的対応ということで、予想されたことだが野党などから反対の声が上がっている。

 そこまではまだ想定内の展開だったが、問題が生じた。人がショッピングモールで買物する時、その人がFFP2マスクではなく、通常のマスクで店の中に入ってきた場合、この顧客はワクチン接種済みかそうではないのかを誰が識別するか、誰がそのゲストにワクチン接種済みの証明書の提示を要求するかで関係者の間で議論が出てきた。関係者とは、主に店舗側と警察当局だ。

 店舗オーナーは、「われわれはゲストにいちいち『あなたはワクチン接種済みですか』と聞けない」と主張する。一方、警察官担当の内務省は、「警察官は忙しく、多くの店舗の前に立って入ってくる人にワクチン接種済みの証明書の提示を要求できない」という。それぞれ一理ある。特に、後者にとって、「犯罪が急増している時、店前で1日中、立って証明書のコントロールをする時間はない」というわけだ。

 本来、15日から、一律買い物の際にはFFP2マスクの着用の義務を課したならば、このような混乱はなかったが、クルツ政権としてはワクチン接種者と非接種者の間で目に見える区別をすることで、ワクチン接種を拒む国民を接種に誘導したいという思惑があったのだろう。

 数日間の混乱後、マルガレーテ・シュランベック経済相(デジタル担当)が記者会見で、「店舗側はコントロールできるが、コントロールをしなければならないわけではない」と名回答した。店舗側が通常のマスクで店に入ってきたゲストにやんわりと、「ワクチン接種は終わったのですね」と聞ける。従業員の数が少ない場合、大変だが可能だ。しかし、ゲストに聞かなければならない義務はない、というわけだ。独語で表現すれば、その区別はひょっとしたらより明らかになるだろう。すなわち、「Konnen」だが、「Mussen」ではないというわけだ。換言すれば、「能力」と「義務」の違いだ。あなたは聞く能力はあるが、絶対に聞かなければならない義務はない、という論理だ。

 記者会見を放映していたTVアナウンサーは、「シュランベック経済相が今回、はっきりと答えてくれましたから、皆さんは理解できたと思います」と少し茶化しながら語っていた。経済相のこの回答で店舗側も警察側も納得できたか否かは分からないが、ワクチン接種者と非接種者間のマスクの違い議論は峠を越えた、というか、ばかばかしくなってきたのか、メディアは報じなくなった。

 経済相の記者会見をTVで観ていた時、「経済相は第3の解決策に言及していない」と感じた。独語で「Wollen」 だ。願いであり、願望だ。すなわち、あなたはゲストに対してワクチン接種証明書の提示を要求できるが、それは義務ではない、では終わらないのだ。「あなたは来客に対し、店と周囲の人のため、感染防止という目的のためにワクチン接種証明書の提示を要求したいですか」という点だ。

 ①は「能力」を、②は「義務」を、そして③は「願望」だ。そして①と②については良く議論されるが、③については案外無視されてきた。ワクチン接種問題を離れて一般論でいえば、「あなたは何をしたいのか」というテーゼだ。決して「あなたは何が出来るか」とか、「何をしなければならないか」ではない。「あなたは今、何を願い、したいのか」という点だ。

 このように考えていくと、ワクチン接種者と非接種者間のマスク問題も解決の道が見えてくる。「あなたは感染防止のために手間をとってもコントロールをしたいか」という問いだ。各自がその問いかけに応じて、対応すれば問題は解決できる。繰り返すが、「能力」でも法的な「義務」でもない。あなたの「願い」がどこにあるか、という問題だからだ。

 まとめる。シュランベック経済相は本来、「わたしはゲストにワクチン接種証明書の提示を要求できるが、義務だからそうするのではない。コロナ感染を少しでも防止するために証明書の提示を願うのだ」と回答すれば、全てOKだったはずだ。

 Netflixで今、人気を博しているTV番組「メシア」の中で、「何を貴方のために出来ますか」と聞く牧師に対し、主人公は「あなたは何をしたいのか」と聞き返す場面がある。「能力」や「義務」からではなく、「わたしは今、何をしたいか」と、胸に手を当てて考えるべき時かもしれない。

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