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アフガン駐留独軍の戦死兵士の家族

 イスラム原理主義勢力タリバンがカブールを占領して1カ月が過ぎた。ワシントンでは米軍のアフガニスタン撤退について、上下両院外交委員会で検証作業が始まったが、上院外交委員会のメネンデス委員長(民主党)はアフガンからの米軍撤収について、「明らかに致命的な欠陥があった」と指摘。ブリンケン国務長官に対し、米軍撤収期限の延期などの対応をしなかった理由などについて、鋭い質問が続出した。下院外交委員会では共和党のマコール議員からバイデン政権への批判の声が聞かれた。バイデン大統領は撤退は成功したと従来の姿勢を崩していない。

アフガンから約5400人を無事避難させたということでシュタインマイヤー大統領から功労勲章を受ける連邦軍イェンス・アール准将(独連邦軍公式サイトから)

アフガンから約5400人を無事避難させたということでシュタインマイヤー大統領から功労勲章を受ける連邦軍イェンス・アール准将(独連邦軍公式サイトから)

 ワシントン発ロイター通信の上下両院外交委員会に関するニュースを読んでいる限りでは、米議会では野党の共和党議員だけではなく、民主党議員も米軍の撤収について批判していることが分かる。米軍がアフガンに残していった大量の軍需品、武器がタリバン側に渡ってしまったが、共和党議員から、「テロリストたちに我々の最新の武器を与えてしまった」という非難の声が出たのは当然だった。

 米軍にとって最長の戦争だったアフガン駐留で、米国が多くの犠牲を強いられたのは間違いない。多数の若き米軍兵士が犠牲となった。それだけではない。米国への国際社会の信頼が失われてしまった。9・11同時多発テロ事件を契機に、米国の対テロ戦争は始まったが、9・11の主犯ウサーマ・ビン・ラーディンを射殺した後も米軍の対テロ戦争は継続され、アフガンの民主化、国づくりへの支援に広がったいった。それらの努力は8月15日、タリバンがカブールを占領することで急転直下、激変し、世界最強国の米軍兵士たちはアフガンから追われるように撤退していった。

 米国は9・11テロ事件の主犯者に報復するまではアフガン駐留の大義をかざして戦いを続けることはできたが、その後アフガン政府の腐敗堕落もあって、アフガンの民主国への発展は未達成で終わった。その結果、歴史家は後日、モンゴル帝国、ムガール帝国、大英帝国、ソ連らが陥った「帝国の墓場」の中に米国も入れることだろう。

 バイデン政権のアフガン撤退についてここで再度書くつもりではなかった。どうしても書きたいことがあったので、その背景、いわば書割を説明したものだ。独週刊誌シュピーゲル(9月11日号)にはアフガンに駐留して、犠牲となった独兵士の家族とのインタビュー記事が掲載されていた。この話は多分、アフガン駐留した米軍兵士にも通じる内容だ。テロ撲滅を掲げて始まった米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の多くの兵士たちが亡くなったが、シュピーゲル誌が掲載したドイツ兵士の家族の話は心が痛い。記事は「Messer in der Seele」(魂の中にナイフ)だ。

 シュピーゲル誌は、2011年5月28日、31歳の若さで戦死したトビアス・ラーゲンシュタイン氏の兄、トーマス・ラーゲンシュタイン氏とインタビューしている。兄は、「タリバンがアフガンを占領して以来、弟がもう1度亡くなったような悲しみと怒りが湧いてくる」と述べている。兄は、「弟はテロ撲滅とアフガンの民主化のために駐留して亡くなったが、アフガンから撤収する米軍、カブール空港の状況などを目撃すると、弟は誰のために戦い、何のために亡くなったのかという問いが出てくる」という。

 先月15日の首都カブールの国際空港での混乱は世界に衝撃を投じた。アフガン政府軍は応戦することなく敗走。タリバン勢力が侵攻を開始して9日間で首都カブールがタリバンの手に落ちた。20年前のタリバン政権下の蛮行を知っている多くの国民はカブールの空港に殺到、空港周辺は国外脱出しようとする人々で大混乱した。メルケル独首相は、「アフガンの状況は悲劇だ。タリバンが再びアフガンを占領した、この現実は辛い」と述べている。アフガンで戦死したドイツ兵士とその家族にとって、その辛さはもっと深刻だろう。

 このコラム欄でも「独軍兵士、何のために戦ってきたか」(2021年8月24日参考)を書いた。駐ベトナム、駐イラクの米軍兵士が帰国後、社会に再統合できず、さまざまな困難に直面する「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)が大きな米の社会問題となったが、駐アフガン独連邦軍元兵士の間でも同じような現象が見られる。

 ドイツは過去20年間で総数16万人の兵士をアフガンに投入してきた。その間、少なくとも59人が犠牲となり、多くの兵士は悪夢に悩まされてきた。

 戦争を始める時、多くは「大義」を掲げて、兵士たちを鼓舞する。アフガンへの軍派遣の場合、テロ撲滅だ。その「大義」を胸に秘めて兵士たちは戦場に出かける。その「大義」が揺れ出した時、それでも兵士たちは戦いを続けなければならないことがある。「戦争は始める時より、終わらせることのほうが難しい」と述べた指導者がいた。兵士たちは「誰の為、何のために戦うのか」という呟きを残して戦場に向かう。その中には再び兵舎に戻れない兵士が出てくる。トビアス・ラーゲンシュタインもその中の1人だった。

 「米軍の対テロ戦争が9・11テロ事件の主犯者ウサーマ・ビン・ラーディンを射殺した段階(2011年5月2日)で幕を閉じていたならば、トビアスは死ななくてもよかったかもしれない」という思いが彼の家族や関係者にはあるだろう。バイデン氏はその呟きにどのように答えることができるだろうか。

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