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米独首脳「関係改善のシグナル」発信

 16年余り首相の座にあってドイツ政界ばかりか欧州連合(EU)の原動力として歩んできたメルケル独首相は政治生活に幕を閉じる日が近づいてきた。

 その前にトランプ米政権下で険悪化した対米関係の改善を目指して、メルケル首相は15日に訪米、ホワイトハウスでバイデン大統領とおそらく最後の首脳会談をし、米独間の懸案に対し解決の道筋をつける。首脳会談の詳細な内容は日本時間16日以降となるが、あらかじめ首脳会談の主要議題を復習したい。

独立記念日で演説するバイデン米大統領(ホワイトハウス公式サイトから、2021年7月4日)

独立記念日で演説するバイデン米大統領(ホワイトハウス公式サイトから、2021年7月4日)

 第1議題は、独とロシア間で進められてきたロシア産天然ガスのパイプライン建設(「ノルド・ストリーム2」)問題に対する米国からの承認を受け取ることだ。2005年、ドイツのシュレーダー首相(当時)とロシアのプーチン大統領がロシアの天然ガスをドイツまで海底パイプラインで繋ぐ「ノルド・ストリーム」計画で合意し、第1パイプラインは2011年11月8日に完成し、2本目のパイプライン建設「ノルド・ストリーム2」は昨年末には完工する予定だった。だが、米国側が「ドイツはロシアのエネルギーへの依存を高める結果となる。欧州の安全問題にも深刻な影響が出てくる」と強く反対し、同計画に関与する欧米の民間企業に対して経済制裁を実施すると警告。そのため完成まで150kmあまりを残し、同計画は停止状況に陥った。

 メルケル首相は脱石炭、脱原発のドイツにとってロシアからの天然ガスはドイツ産業に必要なエネルギーという冷静な判断が働いているはずだ。バイデン大統領は5月、同計画に参加する企業への制裁を停止することで「ノルド・ストリーム2」の建設完成に反対しない意向を表明し、譲歩を見せる一方、大きな経済的ダメージを受けるウクライナのガス輸送ルートの地位保障を新たに条件として掲げている。米独の妥協は可能だ。

 第2はEUと米国間の貿易障壁問題だ。ボーイング社やエアバス社への政府補助金問題を契機に、一時期、米国とEU双方が、相手製品に追加関税を課すなど貿易戦争の様相を呈したが、今年6月の米EU首脳会談で追加関税の停止を5年間継続するほか、双方の貿易担当相の作業部会設置、特定性のある補助金の交付を実施しないなどの協力枠組みで合意している。両首脳は「刷新された環大西洋パートナーシップに向けて」という首脳声明を発表したばかりだ。

 第3は外交問題だ。米国は中国共産党政権に対する反中包囲網にEUを積極的に参画させたい。バイデン政権は中国を競争相手国として、不法な貿易、知的所有権問題などで激しく対立している。一方、メルケル首相は中国をライバルと見る点では同じだが、同時に「戦略的パートナー」とも考えてきた。中国共産党政権の人権弾圧政策に対しても、中国と積極的に関与していく中で、北京は変わっていくという信念に基づく「関与政策」を進めてきた。その意味で、メルケル首相はトランプ前政権とは対中政策での対立があった。

 EUは昨年12月30日、中国との間で「EU中国投資包括協定」(CAI)を合意したが、欧州議会の強い抵抗があって、同協定の批准作業は凍結されている。同協定はEUと中国間の協定だが、中国はドイツがEU議長国である昨年下半期中に合意を願ってきた。それを支援したのは在任中に12回訪中してきたメルケル首相だ。ただし、新疆ウイグル自治区のウイグル人への人権弾圧(ジェノサイド)、香港の民主化阻止(「国家安全維持法」の施行)などが明らかになり、欧州では中国共産党政権に対して距離を置くようになってきている。

 第4はロシア問題だ。米国はモスクワの軍事拡大、冒険を阻止するために欧州の軍事力強化を要求してきた。米国はドイツに対し、「国力に相応しい軍事費を支払うべきだ」と要求。北大西洋条約機構(NATO)加盟国は2014年、軍事支出では国内総生産(GDP)比で2%を超えることを目標としたが、それをクリアしているのは現在、米国の3・5%を筆頭に、ギリシャ2・27%、エストニア2・14%、英国2・10%だけ。ドイツの場合、防衛費は年々増加しているが、2019年はGDP比で1・38%に留まっている。駐独米軍の縮小も米国側のドイツへの不満が溜まっていた結果だった。メルケル首相はロシアとの関係では積極的な関与政策を通じてロシアの民主化を進めたい意向が強く、プーチン大統領の軍事的野心に対しては警戒心は少ない。

 そのほか、地球温暖化対策では、米独が率先してグリーン成長を実現するため「環大西洋グリーン技術アライアンス」を構築して連携を強化し、パリ協定の目標を実現していくことを再確認。昨年3月から続いている米国の欧州人入国制限措置の撤廃、新型コロナワクチンの特許権の暫定的放棄問題での意見調整などが議題だ。ただし、今回の首脳会談でそれらの全ての議題に対して解決を期待することは難しい。

 米独首脳会談の直前、ブリンケン米国務長官が6月23日、ベルリンを訪問し、メルケル首相と会談した。その後の共同記者会見で、ブリンケン長官は「米国にとって世界でドイツ以上の同盟国、友人はいない」と述べ、EUの盟主ドイツに最大級のエールを送ったばかりだ。

 メルケル首相は、9月の連邦議会選挙後に政界から引退すると表明してきたこともあって、新たな米独関係はメルケル後となる。今回の米独首脳会談は両国の関係改善というシグナルを世界に発信できれば、それが成果だろう。

 なお、メルケル首相はバイデン大統領との首脳会談の前にハリス副大統領と会談。また、米名門ジョンズ・ホプキンズ大学から名誉博士号を受け取ることになっている。

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