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スロベニア産ワインと独立30年の話

 スロべニア産ワインはいかかですか。ミラン・クーチャン共和国幹部会議長(大統領)から言われた時は驚いた。大統領や首相らとの会見時にインタビュー相手からプレゼントをもらったことなどなかったから、クーチャン大統領が笑顔を見せながらスロベニア産ワインの1本を当方に手渡した時はやはりビックリした。

インタビューに応じるミラン・クーチャン大統領(1991年1月、リュブリャナで)

インタビューに応じるミラン・クーチャン大統領(1991年1月、リュブリャナで)

 なぜ、突然スロベニアの話をするのかといえば、同国がユーゴスラビア連邦共和国から独立して今年6月で30年を迎えたこと、7月1日から欧州連合(EU)下半期の議長国に就任したからだ。そしてスロベニアと言えば、当方は1991年1月、同国の首都リュブリャナの大統領府で会見したクーチャン氏との出会い、具体的にはスロベニア産のワインを頂いた話をどうしても思い出してしまうからだ。

 旧ユーゴ連邦共和国は6共和国、2自治州から構成されていた。その中でスロベニア共和国は最北部に位置し、最も経済発展していた共和国だった。人口は全体の10%にも満たなかったが、国内総生産は全体の20%、外国貿易では30%を占める文字通り旧ユーゴ連邦の国民経済を支える共和国だった。自主管理社会主義システムを積極的に推進し、経済は潤っていた。他共和国からは“優等生”として羨まれていたほどだ。同時に、東欧諸国の民主化もあって、国内には民主化、連邦から離脱して独立する機運が漂っていた時だった。だから、ユーゴ連邦からスロベニアとクロアチア両共和国が独立を宣言したのは偶然ではなかった。

 クーチャン氏は旧ユーゴ連邦時代の最後の共和国最高指導者、幹部会議長(共和国大統領)であり、1990年最初の民主的選挙で大統領に当選。共産党離党、一党独裁制を放棄し、複数政党制を導入した。1991年6月の独立後、初代大統領に選出され、2002年12月まで大統領職を務めた。当方がクーチャン氏と会見したのは共和国が独立宣言する直前の波乱の時だった。

 クーチャン氏は会見の中で、「われわれの主要目的は、国際的に国家として認知されたスロベニア国家を建設することだ。国家は単に自国の利益だけに関心あるものではなく、他国の利害をも尊重しなければならない。相互平等の権利と責任を有し、自国の主権のために他国や国際情勢を不安定に陥れるような事は容認されない」と述べている。

 そして欧州やバルカンで台頭してきた民族主義については、「民族主義は、欧州統合プロセスと真っ向から対立する問題であり、統合プロセスを破壊しかねない危険性すら内包している。民族主義問題を解決できる唯一の道は、政治、経済、軍事的に他国を支配する民族主義的国家形態から決別し、欧州統合のように、多民族国家連合を拡大する以外に方法がない事を認識することだ」と強調していた。

 そのスロベニアは独立後、2004年3月に北大西洋条約機構(NATO)に加盟、同年5月にEUメンバーとなった。2007年1月にはユーロに参加。そして今年独立30年を迎え、7月1日からEU理事会(閣僚理事会)の議長国に就任したわけだ(同国は2008年上半期に議長国を体験済み)。

EU下半期の議長国スロベニアのヤンシャ首相(スロベニア首相府公式サイトから)

EU下半期の議長国スロベニアのヤンシャ首相(スロベニア首相府公式サイトから)

 スロベニアでは2020年3月、ヤンシャ首相が率いる民主党(SDS)、現代中央党(SMC)、新スロベニア(NSi)、年金者党(DeSUS)の4党が連立に合意し、第3次ヤンシャ政権が発足した。ヤネス・ヤンシャ首相にとって3度目の首相就任だ。ただし、年金者党は同年12月、連立政権から離脱。右派政治家のヤンシャ氏はトランプ前米大統領を尊敬し、ハンガリーのオルバン首相と同様、ブリュッセルとは様々な分野で激しい議論を交わしてきた政治家だ。ヤンシャ首相はEUが東西欧州に分裂する危険性があることについて、「われわれは分裂を十分味わってきた。スロベニアがEUに加盟したのは分裂ではなく、統合するためだ」(ロイター通信)と答えている。

 スロベニアが議長国を務める今年下半期の課題としては、復興レジリエンス・ファシリティ(RRF)を含めた復興基金の実施、RRFの予算執行の条件となる各加盟国の復興レジリエンス計画のEU理事会での早期承認、新型コロナウイルス対策としてワクチンを含む医療品の安全確保などもテーマとなる。ポスト・コロナ時代の課題としてグリーン、デジタル両分野での重要法案の成立などが議題に上がっている。対外的には、米国との関係改善、インド太平洋地域に関する戦略的協議のほか、西バルカン諸国のEU加盟を視野に入れた西バルカン諸国の復興支援などだ。

 蛇足だが、スロベニア産ワインの話に戻る。当方はアルコールを飲まないので、思い出のある貴重なワインだったが、ウイーンに戻った後、知り合いの外交官にプレゼントした。

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