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揺れる「カトリック教国」の看板

 欧州社会はキリスト教文化圏に属するが、カトリック教国を自認してきた国で聖職者の未成年者への性的虐待問題が浮上し、国民、信者たちの教会離れが進むなど、「カトリック教国」の看板が大きく揺れ出している。

公判の延期で裁判所から出るプレナ被告(2020年1月13日、バチカンニュースから)

公判の延期で裁判所から出るプレナ被告(2020年1月13日、バチカンニュースから)

 カトリック教国の落日を強く印象付けたのはアイルランド教会だ。同国ダブリン大司教区聖職者の性犯罪を調査してきた政府調査委員会が2009年12月、調査内容を公表し、大きな衝撃を与えた。同国のダーモット・アハーン法相(当時)は「性犯罪に関与した聖職者は刑罰を逃れることはできない」と指摘、調査が進めば、聖職者の中に逮捕者が出ることもあり得ると述べた。調査対象は1975年から2004年の間で生じた聖職者の性犯罪で、数百人の聖職者が性犯罪に関わっていたことが明らかになった。

 それだけではない。アイルランドで2018年5月25日、人工妊娠中絶を禁止してきた憲法条項(1983年施行)の撤廃の是非を問う国民投票が実施され、賛成66・4%、反対33・6%で人工妊娠中絶を禁止した憲法条項の撤廃が賛成多数で支持されたのだ。人工妊娠中絶の禁止を主張してきたアイルランドのローマ・カトリック教会にとって「歴史的敗北の日」となった。バチカンニュースはその翌日の26日、「かつてはカトリック国だったアイルランドで最後のタブーの一つが落ちた」と報じたほどだ(「アイルランド社会のダムが崩れた!」2018年5月29日参考)。

 そしてヨハネ・パウロ2世を輩出したポーランド教会でも聖職者の性犯罪が暴露され、国民の教会への信頼は大揺れだ。冷戦時代にヨハネ・パウロ2世を輩出したポーランド教会は欧米キリスト教会でも中心的な地位を誇ってきた。その国で聖職者の未成年者への性的虐待事件が頻繁に行われ、教会側がその事実を隠蔽してきたことが発覚したのだ。

 冷戦時代を思い出してほしい。ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は当時、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。その国でカトリック教会への信頼は急落してきているのだ。同国の日刊紙デジニック・ガゼッタ・プラウナとラジオRMFが報じたところによると、ポーランド国民の65・7%が「カトリック教会の社会での役割」に批判的な評価を下し、評価している国民は27・4%に過ぎないことが判明している。

 ポーランド教会では聖職者の性犯罪があったという報告はこれまで1度も正式に公表されなかった。聖職者の性犯罪が生じなかったのではなく、教会側がその事実を隠蔽してきたからだ。沈黙の壁を破ったのは 聖職者の性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)だ。同国の著名な映画監督ヴォイチェフ・スマジョフスキ氏の最新映画だ。小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画は2018年9月に上演されて以来、500万人以上を動員した大ヒットとなった(「ポーランドのカトリック主義の『落日』」2020年11月7日参考)。

 そして欧州の代表的カトリック教国フランスでも同様の傾向が見られる。バチカンニュースが今月22日報じたところによると、フランス教会の司教たちは聖職者の未成年者への性的虐待問題への解決に対する決意表明というべき全信者宛ての公開書簡を発表している。司教たちはその書簡の中で「当惑と同時に、恥ずかしさを感じる」と吐露している。教会が聖職者の性犯罪問題に理解不足、無関心であったことに「謙虚な許しを乞う」と強調、「教会は未成年者にとって常に安全な場所とはなり得なかった」と記述している。

 同国教会を震撼させた事件は通称「プレナ神父事件」とよばれる聖職者の性犯罪事件が発覚したことだ。元神父のプレナ被告は1971年から91年の間、未成年者のボーイスカウトの少年たちに性的虐待をした容疑で起訴された。元神父は罪状を認めたことから、教会法に基づき聖職をはく奪された。公判では元神父に性的虐待を受けた犠牲者たち(当時7歳から10歳)が生々しい証言をした後、元神父は「良くないことだと分かっていたが、衝動を抑えることができなかった。上司の聖職者に相談したが、適切な指導を受けなかった」と説明した。

 もっと衝撃だったことは、同元神父が公判で「自分も少年時代、同じように聖職者から性的虐待を受けたことがあった」と告白したことだ。世界に約46万人の聖職者(教区神父、修道僧、助祭など)がいるが、プレナ被告の例は、本人自身が聖職者の性犯罪の被害者であり、同時に犠牲者でもあったという点で特異なケースだ。プレナ被告の場合、教会指導部の責任は大きい。①教会指導部が聖職者の性犯罪の報告を犠牲者から聞きながら、対応しなかった、②プレナ被告が性衝動に苦しんでいることを知りながら、彼を神父にした、の2点が挙げられる。「プレナ神父事件」はフランソワ・オゾン監督により映画化「グレース・オブ・ゴッド」(2018年制作、フランス・ベルギー映画)されている(「元神父は性犯罪の犠牲者でもあった」2020年1月23日参考)。

 フランスではまた、駐仏のバチカン大使、ルイジ・ベントゥ―ラ大司教(75)が2人の男性に性的行為をした容疑でフランス検察当局に調査を受けている(フランシスコ教皇は2019年12月17日、同大司教の辞任を受理)。また、リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿(68)は2019年3月7日、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽したとして執行猶予付き禁固6カ月の有罪判決を受けた、といった具合だ。

 フランス教会司教会議は先月開催した春季総会で聖職者の性犯罪対策の改善のため11項目からなる決議案を採択している。なお、ローマ法王庁は2019年12月に教会法を改定し、13世紀から施行されていた聖職者の「告解の守秘義務」を撤回している。

 バチカンニュースは「フランスだけでも350万人の人々が未成年時代、性的虐待の被害を受けている。加害者は父親、兄弟、家族関係者、トレーナー、神父、教師たちである」と報じている。

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