ワシントン・タイムズ・ジャパン

オーストリアで「地震」が発生した日

 コラムのタイトルを見て、「ふーん、ニュースになるほどの地震がオーストリアで発生したのか」と首を傾げ、前日のニュースを振り返った読者もおられるかもしれない。フェイクニュースではなく、“立派な”地震がウィーン南部のニーダーエスターライヒ州ノインキルヒェン郡(Neunkirchen)周辺で20日未明発生している。

独人文学者ハルトマン・シェーデル「ニュルンベルク年代記」1493年出版、歴史的地震の状況(ZAMG公式サイトから)

独人文学者ハルトマン・シェーデル「ニュルンベルク年代記」1493年出版、歴史的地震の状況(ZAMG公式サイトから)

 日本のメディアは多分、何も報じていないだろうが、地元のオーストリアではトップニュースで報じられた。日本のメディアが怠慢だからではない。マグニチュード(M)4・4の地震だったからだ。負傷者はなく、「建物倒壊」の報告はない。地震報道に慣れている日本メディア関係者には「音楽の都」ウィーン南部のM4・4の地震は地震のカテゴリーに入らず、記事になるほどの価値がないからだ。俗にいう、ニュース・ヴァリューの問題だ。

 それではなぜ、M4・4の地震がオーストリアではトップニュースとなったかだ。その答えはシンプルだ。オーストリアは日本のように地震大国ではなく、日本人には考えられないことだが、「地震が珍しい」のだ。本格的な地震を体験した国民は少ないから、M4・4の地震でビックリ、寝ている人はベットから飛び出し、起きていた人は不安に襲われる。だから、地元ではトップニュースの資格は十分あるわけだ(筆者はオーストリアに40年余りお世話になっているが、日本人が考えるような「地震」に遭遇したことがない)。

 20日未明のM4・4の地震はオーストリア国民、ウィーン市民にとって大きな出来事だ。夜のニュース番組でも大きく報道し、翌日の新聞ではウィーンのメトロ新聞は1面で報じていた。地震に慣れた日本の読者ならば「世界にはそんな国があるのか」と受け取られるかもしれない。

 一つのエピソードを紹介する。ウィーンから日本を訪問した娘が知人の家に厄介になった。その日の夜、地震が起きた。娘はビックリ仰天。直ぐに傍に寝ていた知人の娘さんを見たら、いびきをかいて寝ている。何も感じていないのだ。起こすのは悪いと思い、揺れが収まったので再びベットに入って寝ようとしたが、なかなか眠れなかったという。

 翌日の朝、娘は早速夜の地震のことを話したが、「誰も気が付かなかった」という。娘はインターネットで昨夜の地震を探索したら、昨夜、震度4・5の地震が起きた、というニュース記事を見つけた。娘は夢を見ていたのではなく、地震は実際、起きていたのだ。

 娘曰く、「地震大国に住む日本人にとって、M4程度の地震で驚いていたら、生きていけない。M5以上の地震でなければ、安眠を妨害されないように体が自己管理しているのではないか」という。ちなみに、20日の深夜、娘は机に座り、本を読んでいたら、突然、椅子が飛びあがるような衝撃を受けたという。オーストリア気象地球物理学研究所(ZAMG)によると、20日未明の地震で国民から1万4000件以上の知覚報告が届いている。

 参考までに、アルプスの国オーストリアでの地震情報をまとめておく。

 同国では過去、地震は起きている。ZAMGは「過去20年間、年平均、48回の地震がオーストリアで起きている。地震の多発傾向は現時点ではみられない。2002年は13回、20年には73回の地震が観測された。体感できない地震回数は年700回から1400回だ。今年に入り、4月20日現在で約500回の地震が測定されているが、人間が感じる地震は約40回程度」という。

 地震学者によると、3月末と今月20日の震源地ノイエキルヒェン周辺はゼンメリング地帯と南部ウィーン盆地に属し、地震ハザード地として知られている。アルプス地帯ではアドリアの構造プレートが北側に動き、ユーラシア・プレートと衝突することで地震が生じるという。

 同国では先月30日、M4・7の地震が起きたばかりだ。2000年以来、最大の地震だった。20日未明の地震は震源地が同じだから余震ともいえるかもしれない。国民の中には大地震が起きる前兆ではないか、といったホラー・シナリオを描いて不安がる人もいる。実際、バルカン半島のクロアチアでは昨年12月29日、M6・3の地震が起き、5人が死去し、建物が一部倒壊している。オーストリアの建物は耐震用に作られていないところが多いから、M6以上の地震が起きたら、多くの建物が倒壊する危険性が出てくる。地震対策ではオーストリア国民は日本から多くの点を学べるだろう。

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