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中学教師殺害で揺れる仏保守勢力

左派は追悼抗議デモ展開

 パリ郊外で今月16日、ムハンマドの風刺画を見せた中学校教師がイスラム過激思想を持つ若者に殺害された。教師は表現の自由を守って犠牲となったとして勲章を授与され、国葬にふされた。一方、右派勢力や宗教界はテロを批判しながらも、表現の自由や政教分離、移民同化と過激思想の間で揺れている。
(パリ・安倍雅信)

20日、パリ近郊コンフランサントノリーヌで殺害された男性教員パティさんの遺影を掲げる親族ら(AFP時事)

20日、パリ近郊コンフランサントノリーヌで殺害された男性教員パティさんの遺影を掲げる親族ら(AFP時事)

 フランス・パリ西郊外で今月16日に起きた中学校の歴史の男性教師、サミュエル・パティさんが殺害された事件は、フランス国民に大きな衝撃を与えた。折しも2015年1月に発生した仏風刺週刊紙、シャルリー・エブド本社襲撃事件の裁判中で、同じ場所で先月、テレビ制作会社職員2人が殺害されたばかりだった。

 今回、教師を殺害し警察に射殺された18歳のチェチェン人の容疑者は、シリアのイスラム過激派組織と接触していたという。警察は身柄を拘束した7人を取り調べ、過激派組織との関連が疑われる親族や支援者5人は引き続き拘留中だ。

 捜査当局によれば、中学校の授業で「表現の自由」を扱う際、パティさんはイスラム教が禁じる予言者ムハンマドの風刺画を見せた。そのことに生徒の保護者の一人のイスラム教徒が反発し、パティさんに何度も抗議した上、SNS上でも批判し、司法に訴えた。

21日、パリで、テロ事件で犠牲となった教員の国葬のライブ映像を見る人々(AFP時事)

21日、パリで、テロ事件で犠牲となった教員の国葬のライブ映像を見る人々(AFP時事)

 一方、パティさんも警察にそのことで相談しており、抗議している親の娘は風刺画を見せた当日、授業に出ていなかったと主張した。また、風刺画を見せる前にイスラム教徒の生徒に退席する指示は出しておらず、不安を感じる生徒は風刺画から目をそらすか、退室するよう求めただけだとパティさんは警察署で主張し、保護者を逆に提訴していた。

 シャルリー・エブド裁判で同紙が主張する「表現の自由」を全面的に支持する教員組合を含む左派は即座に事件に反応し、パティさんの行為の正当性を支持した。さらに全国で大規模な追悼抗議デモが展開され、パティさんの勇気を讃(たた)えるとともに、政教分離の原則や表現の自由をデモやSNS上で強く主張し、イスラム過激主義を非難した。

 なお、パティさんは「共和国の価値」を守り犠牲になったとして、マクロン仏大統領が最高位の勲章を授与し、21日にはパリで国葬が営まれた。マクロン氏はパティさんに対し「生徒たちに教えた自由をこれからも守り、政教分離を貫く。風刺画を見せる自由も諦めない」と表現の自由を守ることを強調するとともに、テロに屈しない姿勢を示した。

 また、右派・国民連合のマリーヌ・ルペン党首は「政府の治安対策は不十分」と批判し、ルペン氏の姪で元同党の国民議会議員だったマリオン・マレシャル・ルペン氏は、保守系仏日刊紙ル・フィガロ紙上で「法や政教分離は、イスラム過激主義と闘うには不十分」と述べ、「過激主義は共和国の価値ではなく、フランスそのものへの挑戦だ」と指摘した。

 一方、カトリック系の仏紙ラ・クロワは、今回の事件当日の事件前に発行された新聞で、シャルリー・エブド裁判に関するロジェ・ピーター神父の寄稿を掲載した。同神父は「表現の自由を行使するには、その表現への責任が伴うはず」とコメントしている。

 さらにマクロン大統領が9月、シャルリー・エブド裁判について「表現の自由は宗教の冒涜(ぼうとく)も可能」との考えを示したことで、国内外のイスラム教徒は強く反発している。

 イタリア・ローマの多宗教指導者会議で今月20日に演説したエジプトのグラン・イマームのシェイク・アフメド・アル・タイブ師が、イスラム教と凶悪なテロ犯罪行為は、無関係とした上で「表現の自由の名の下に宗教を侮辱し、その神聖なシンボルを攻撃することは、憎しみへの呼び掛けだ」と批判した演説をル・フィガロは掲載した。

 フランスは、30年前のミッテラン政権下、大量の北アフリカ・マグレブ諸国の移民を受入れたが、彼らの同化政策はうまくいっていない。大半が穏健派のイスラム教徒だが、差別と貧困問題は解決せず、シリア・イラクの内戦に参加した過激派戦闘員ではフランス国籍者が最も多かった。

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