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世界が関わりを避けるアルメニアとアゼルバイジャンの戦争

■犬猿の仲

 アルメニアとアゼルバイジャンは犬猿の仲。常に大小の衝突を繰り返し、終わりの見えない戦闘を続けている。アルメニアはキリスト教圏でありアゼルバイジャンはイスラム教圏。冷戦期には民族問題・宗教問題は抑えられていたが、冷戦末期になるとソ連の恐怖政治が低下。これでアルメニアとアゼルバイジャンの民族問題・宗教問題が対立を始める。

 冷戦が終わるとソ連も崩壊。これでソ連に組み込まれた国は開放されるが、同時にイデオロギーで抑え込まれていた民族問題・宗教問題が各地で噴出。アルメニアとアゼルバイジャンも、抑えがなくなり対立を激化させた。

 アルメニアとアゼルバイジャンは何度も衝突を繰り返すが、国連が関わっても対立を止めることは出来なかった。2008年以後から衝突が行われているが各国は無関心。2014年と2016年にも衝突が発生するが、世界の大半は知らない。だが2020年9月になると、遂に世界も知る戦闘になった。

■誰が始めたのか?

 2020年9月27日にアルメニアとアゼルバイジャンは戦闘を再開したらしい。しかし誰が始めたのかは不明のまま。第2次世界大戦後から国際社会の動きが変化している。第2次世界大戦までは相手国を消滅させる全面戦争が存在した。戦後からは国家が征服・併合する全面戦争は減少。その代わりに、戦争目的を限定した限定戦争が80回近く発生している。これらに講和条約はなく、停戦・休戦で次の戦争に備えている。アルメニアとアゼルバイジャンは、この典型的な例に含まれる。

 アルメニアとアゼルバイジャンはソ連に組み込まれた国だが、実際は民族も異なるし宗教も異なる。ソ連は文化・歴史・言語の異なる国々を強引に組み込んだ。だからアルメニアとアゼルバイジャンの対立は、いつ・誰が始めたのかは謎のまま。だから2020年9月27日の戦闘開始は、過去から続く戦闘の再開になる。

■皮肉な話

 東西冷戦はソ連を頂点とする東側陣営と、アメリカを頂点とする西側陣営に分断された。これは米ソ冷戦とも呼ばれ、アメリカは自由主義をソ連は共産主義を掲げて対立した。双方はイデオロギーを大義名分に対立したが、他の国が積極的に協力したわけではない。

 米ソのそれぞれの陣営は一枚岩ではなく、米ソが自分たちの勝利のために、配下の国々を利用した世界。だから強引に一つにする必要性に迫られたので、米ソ両陣営は共に民族主義を弾圧し属地主義を優先した。

 これはイデオロギーで各国の民族主義・宗教を抑え込み、イデオロギーで国境・民族・宗教の壁を越えようとした。だがイデオロギーは国境・民族・宗教の壁を越えるが、イデオロギーにおける権威を主権者である個人の総和にすると、人間の数が増加するほど権威の価値が低下する。多数決の原理は権威を低下させるので、イデオロギーに権威はない。

 だが米ソは、イデオロギーによる独裁で挑んだ。イデオロギーに権威はなくても、イデオロギーを看板にした独裁で支配。3000年の戦争史を見ると、部族社会・多民族を統合する方法は独裁・宗教・唯物主義が使われる。当時の米ソは民族主義・宗教を嫌ったので、独裁による支配を選んだ。

 この方式は各国の国家主権を否定する行為なので、各国は米ソを嫌う。だが当時の米ソは強大な力を持っていたので、表向きは従っても本音は嫌っていた。だが皮肉なことに、米ソの支配が、世界から民族衝突・宗教問題を抑え込んでいた。実際に冷戦が終わると米ソのイデオロギーは消失。これで世界から民族主義・宗教問題が開放された。そして世界各地で民族衝突・宗教による紛争が多発している。

■アルメニアとアゼルバイジャン

 カフカス山脈からトルコ付近はキリスト教とイスラム教の覇権が衝突する空間。イスラム圏の勢力が北上したことで、カフカス山脈一体にイスラム教が進出。山脈・川・海は境界になるので、本能的にキリスト教圏は山脈で覇権拡大を阻止。これでカフカス山脈一帯は、キリスト教圏とイスラム教圏の対立が続くことになる。

 さらにキリスト教圏の勢力が拡大すると、カフカス山脈を超えて南下。するとトルコ付近でイスラム教圏が阻止する。この攻防が続くことで、イスラム教とキリスト教が入り交じる国家が乱立した。これがアルメニアとアゼルバイジャン。

 アルメニアはキリスト教圏でアゼルバイジャンはイスラム教圏。しかもトルコに隣接するアルメニアと対立。だからトルコはアゼルバイジャンを支援する。さらにアゼルバイジャン内にアルメニア自治区があるから内戦でもある。

キリスト教圏:アルメニア・フランス・ロシア
イスラム教圏:アゼルバイジャン・トルコ・イラン

 カフカス山脈周囲は宗教の覇権が激突している。今はキリスト教圏がトルコ・イランまで南下。歴史的な宗教対立と現在の政治が重なっているので、北大西洋条約機構(NATO)で団結など不可能な話。それどころか宗教対立が顕著になり、キリスト教圏とイスラム教圏の対立構造に移行している。実際にフランスとトルコが対立し、接近していたロシアとトルコの関係が離れている。

■宗教問題には参加するな

 宗教問題が顕著になると、アルメニアとアゼルバイジャンに関与する国は減少。トルコは熱心に関与しているが、ロシアとフランスは手を引き始めている。位置的に世界経済に与える影響が少ないせいもあるが、停戦協議を呼びかけても積極的に停戦させる動きは出ていない。

 今後の動きはロシアとフランス次第であり、トルコに対抗する動きを見せれば悪化する。だがトルコを放置すればアゼルバイジャンの勝利で終わり、新たな紛争を引き起こす。どちらに転んでも解決しない未来だから、各国は可能な限り関与を控えている。これが国際社会の現実なのだ。

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