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英国ユダヤ大富豪の実像

獨協大学教授 佐藤 唯行

企業買収で儲け不動産投資
移民出自や自力独行型の苦労人

佐藤 唯行

獨協大学教授 佐藤 唯行

 英国のユダヤ大富豪と聞いて、ロスチャイルド家を思い浮かべるのは昔の話だ。今や様変わりした彼らの姿を次に紹介しよう。情報源は米経済誌『フォーブス』の2019年3月号だ。米ドル換算で10億㌦超の個人資産を保有する英国人55人の番付表が掲載されているからだ。筆者の調査によると55人中、9人はユダヤ人であると判明した。占有率は16・3%だ。英国総人口の0・4%弱にすぎぬ少数派が10億㌦長者(ビリオネアーズ)の16・3%を占めている事実が浮かび上がったのだ。

底値で買収、高値で転売

 9人中のトップは75億㌦(番付4位)のルーベン兄弟だ。イランのユダヤ人迫害を逃れた両親のもと、亡命先のインドのムンバイで生まれ、英国に移住したのだ。鉱物資源取引で資金を貯(たくわ)えた兄弟にとり、飛躍のチャンスは社会主義体制崩壊後のロシアの混乱であった。狙いを定めたのは、資金不足で経営に行き詰まったロシアの巨大アルミメーカーの買収だった。

 兄弟は資本主義システムが産声を上げ始めたばかりのロシアに最初に飛び込んだ英国人企業家であり、同時に最大の資金を投じた外国人投資家でもあった。兄弟の行動からはユダヤビジネスに特徴的なリスク志向の強さが見て取れるのだ。兄弟はこの買収で儲(もう)けた稼ぎを元手に、英国内の不動産投資に打って出るのだ。

 続く55億㌦(番付9位)のローレンス・グラフは英国生まれだが、両親共に東欧出身者の移民家庭で育ち、15歳から働き始めた苦労人だ。ダイヤという伝統的ユダヤビジネスで成功。高級品に特化し、ニューヨーク、東京等30店舗を擁し、未加工ダイヤのカット・研磨職人だけで500人を抱えている。

 35億㌦(番付18位)のフィリップ・グリーンも英国生まれだが、早くに父を亡くし、15歳で働き始めた苦労人だ。創業30年で店舗数2500、英国内被服小売業の12%を傘下に収めている。得意技は業績不振に陥ったブランド企業を底値で買収。不採算部門をリストラし、蘇(よみがえ)らせた後、高値で転売する手法だ。「英国企業の修繕屋」という肯定的評価を下す評論家もいる。主な買収先は婦人服小売りのアルカディアだ。世の注目を浴びることを望まぬ者が多いユダヤ系企業家の中では珍しく派手好きで知られる。

 20億㌦(番付30位)のザケィ兄弟は、イスラエル出身の移民から成り上がった不動産王で、1980年代、不動産投資のトップランド社を設立。18億㌦(番付33位)のスティーブン・ルービンの得意技も企業買収だ。リーボック社買収に成功。米運動靴市場の34%を握っている。

 以上の事実から、買収こそユダヤビジネスの特色だということが分かった。企業を一から育ててブランドを築くまでには、大変な労力と時間がかかる。利にさといユダヤ人は、そんなまどろっこしいことはやらない。優れた製品を生み出す力がありながら、経営陣が失策を重ね、株価が下がった企業に狙いを定め、買収攻勢を仕掛け、ブランドを手に入れるのだ。

 出自の共通性としては、移民出自の者、または自力独行型の苦労人が少なくないという事実も見えてきた。

ユダヤパワーは安泰か

 今から40年ほど前、英米のユダヤ社会では、若い世代のビジネス離れが危惧され、経済界のユダヤパワーの将来について悲観的な予測が出されたことがあった。根拠の第一は、戦後の豊かな家庭に育った若い世代には、成功に必要なハングリー精神が欠けているという点だ。

 第二には金儲けより、知的好奇心の追求に魅力を感じる若い世代は、知的専門職へ進んでしまうからだ。実際、近年の調査は在英ユダヤの就業者中、実に50%が医師、弁護士、大学教授等の専門職に集中していることを示しているのだ。

 しかし、本稿でのこれまでの考察から、移民家庭出身者を中核とするハングリーな若者たちの中から、続々と大富豪が生まれている事実が見えてきた。将来的に英国へのユダヤ移民の流入が続く限り、ユダヤのビジネスパワーは安泰だろうと予感できるのである。

(さとう・ただゆき)

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