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「モリア難民」問題で国会議論が白熱

 オーストリア議会(定数183)で23日午前、ギリシャのレスボス島のモリア難民キャンプ問題について与野党間の議論が行われた。オーストリア国営放送でライブ中継されていたので久しぶりに与野党の議論風景を聴いた。争点はギリシャのレスボス島のモリア難民キャンプの火災で放置された難民、特に、保護者のいない未成年者の難民を受け入れるか否かでクルツ政権と野党議員の間で意見が分かれていることだ。

モリア難民問題で返答するクルツ首相

モリア難民問題で返答するクルツ首相=2020年9月23日、オーストリア国民議会で(オーストリア国民議会公式サイトから)

 クルツ首相はモリア難民キャンプの未成年者の難民受け入れをいち早く拒否したことに対し、オーストリアだけではなく、他の欧州諸国からも激しい批難にさらされている。ドイツのゼーホーファー内相は「オーストリア政府には失望した」と述べるほどだ。クルツ首相は今、難民問題では欧州では最も強硬派のシンボルとなっている。

 ウィーンの国民議会の議論をフォローした。野党の社会民主党、リベラル派政党「ネオス」、極右党「自由党」から代表がそれぞれ意見を述べた。ネオスのベアテ・マインル=ライジンガー党首がモリア難民キャンプの現状が極めて非人道的であり、3000人収容の難民キャンプに1万3000人の難民が収容され、トイレや水道も十分ではない中で生活してきたと報告し、「モリアは欧州の地で起きていることだ」と強調。未成年者の難民の収容に反対するクルツ首相を批判し、「オーストリアは欧州で孤立している」と指摘した(「焼失したモリア難民キャンプの問題」2020年9月19日参考)。

 それに対し、クルツ首相は、「欧州連合27カ国でドイツの『モリア難民受け入れプログラム』を支持したのは10カ国に過ぎない。他の17カ国は反対だ。すなわち、オーストリアは欧州では孤立しているのではなく、多数派に属している」と強調する一方、「モリア難民キャンプの現状は非人道的であることは間違いない。しかし、難民の未成年者を迎え入れたとしても、問題の根本的な解決にならないどころか、その後、多くの難民が殺到するだけだ。感情的に対応するのではなく、事実に基づいた議論が重要だ」と指摘し、「わが国は難民キャンプの改善や難民が発生する国への支援に重点を置いている」と説明した。

 それに対し、社民党のレンディ=ワーグナー党首はクルツ首相に向かって、「モリア難民問題に対し感情的に対応することを軽蔑し、事実に基づいた現実的な解決を考えるべきだというが、人間は感情的であり、弱者に同情を感じるのは人間だ」と強く反論し、「未成年者の難民を受け入れるることは決してシンボル的な政治行動ではなく、人間としての基本的権利に基づくものだ」と述べた。

 一方、極右「自由党」のミハエル・シュネドリッツ事務局長は、「欧州が難民を受け入れれば、難民を欧州に運ぶプロの密航手配人が次から次へと難民を欧州に送り込むだろう。そうなれば2015年に100万人以上の難民が殺到したことを再現するだけだ。わが国の国民の60%以上は受け入れに反対している」と強調。「欧米のメディアはモリア難民の苦境を伝えるために4歳や5歳の難民の子供の姿を恣意的に報じ、欧州国民の情を煽っている。モリア難民から欧州に送られた最初の未成年者の難民は190cmの長身で、髭すらあった。その子供たちの姿はメディアで報じられることはない」と述べた。そして「今回受け入れれば、多くの難民がトルコからギリシャのレスボス島を経由し欧州に殺到するだろう」と警告している。

 オーストリアは過去5年間で12万人の難民を受け入れてきた。欧州27カ国では3番目に多い。同国は今年8カ月間で3700人の未成年者の難民申請を受け入れている。一方、スウェーデンのロヴェ―ン政権は社民党政権だが、オーストリアと同様、モリア難民の子供の受け入れを拒否してる。ドイツは欧州連合(EU)下半期議長国ということもあって、最初は400人の子供を受け入れると発表したが、最終的には1500人の受け入れを明らかにしている。ドイツに次いでフランスは23日、当初の350人から500人の未成年者の難民受け入れを表明している。

 なお、クルツ政権は国民党と「緑の党」の連立政権だが、難民問題では立場は異なる。「緑の党」は「人道的立場からも受け入れるべきだ」という立場を守り、受け入れ反対のクルツ国民党とは対立している。

 クルツ「国民党」はドイツの与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の姉妹政党で、キリスト教を政治信条にしている。カトリック教会司教会議はモリア難民の受け入れを支持している。国民党内でも「受けれるべきだ」という声が出ている。

 フォンデアライエン欧州委員長は23日、EUの統一した難民・移民政策を確立するために新しい改革案を発表した。ポイントは「連帯と責任のバランス」だ。具体的には、加盟国は認定難民を受け入れるか、受け入れない場合は難民審査で認定されなかった難民の本国送還を担当する、という加盟国の責任分担の明確化だ。そして難民審査は難民が最初に入国した国で実施するという「ダブリン規則」を見直し、ギリシャやイタリアの負担を軽減する。その他、国境警備の強化、難民審査の迅速化、効率化だ。

 一方、移民問題では「移民は正常なことだ。過去も現在も移民はある。欧州は移民を必要としている」(ヨハンソン内務担当欧州委員)と指摘する一方、不法な移民対策のために国境警備、プロの密航手配人対策の強化などが挙げられている。

 参考までに、欧州統計局(Eurostat)によれば、新型コロナの感染問題もあって、欧州で今年上半期、難民を申請した数は19万6620人で前年同期比で35%減少した。新型コロナ感染がピークを迎えた今年4月は約8000人、5月は1万1015人と急減している。ギリシャのレスボス島のモリア難民キャンプで今月9日未明、火災が発生して、1万人以上の難民が路頭に迷う事態が起きたことから、難民問題が再び欧州の争点になってきた経緯がある。

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