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EUの日本重視変わらず、「ポスト安倍」の行方注視

多国間主義強化で連携

 安倍首相の電撃辞任表明を受け、欧州連合(EU)首脳は次々に首相に賛辞を送り、特に日本とEUの関係強化に貢献したことに謝意を表明した。露骨な覇権主義に走る中国が米国と対峙する中、米国と一定の距離を置く多国間主義の欧州の立ち位置にも変化がある。ポスト安倍政権でも、EUと英国にとって日本との関係強化は必須の外交課題になりそうだ。
(パリ・安倍雅信)

2019年8月26日、首相官邸でマクロン仏大統領と会談した安倍晋三首相

2019年8月26日、首相官邸でマクロン仏大統領と会談した安倍晋三首相

 安倍首相の辞任表明に対して、EUのミシェル大統領は8月28日、「首相の指導力の下でEUと日本が緊密で力強い関係を築いたことに感謝したい」とツイート。フォンデアライエン欧州委員長も、ツイッターで「EUと日本の関係強化への献身と貢献に感謝する」と書き込んだ。

 ドイツのメルケル首相は「日独間の遠い距離にもかかわらず、両国は基本的価値を共有していることを示した」と称賛。フランスのマクロン大統領も「安倍氏は女性がより重要な役割を果たせるようにし、日本の経済と社会の近代化に取り組んだ」と高く評価した。

 年末にEU離脱が決まっている英国のジョンソン首相は「日本と世界のために素晴らしいことを成し遂げた。彼の執政の下で、日英関係は貿易、防衛、文化の各分野で一段と強化された」と、功績を称(たた)えた。

 日本とEUとの関係は今、過去にない高いレベルにある。安倍首相は今年5月26日、ミシェル、フォンデアライエン両氏とテレビ会議を行った。新型コロナウイルスを終息させ、確実な経済復興を果たすため、グローバルな連帯、協力及び効果的な多国間主義がこれまで以上に不可欠であることを確認した。

 日本と欧州の間には、安倍政権下で結んだ二つの大きな協定がある。一つは、昨年2月に発効した日・EU経済連携協定(EPA)だ。日本とEUを合わせると世界の総GDP(国内総生産)の3分の1、貿易では世界全体の5分の1以上を占める。その両者による野心的な自由貿易協定だ。

 その流れで、今年8月には、日本と英国の経済パートナーシップも大筋合意した。英国側も合意を急いでいた。

 もう一つは、EPAと同時期に発効した戦略的パートナーシップ協定(SPA)で、その中核は、ルールに基づく国際的な秩序の強化と国際的なガバナンス向上への共通のコミットメントだ。多国間主義、法の支配、民主主義、人権の尊重、開かれた市場、自由で公正な貿易といった価値観を共有し、世界に向けてその堅持に努めるのが目的だ。

 EU側は、貿易などの経済活動の連携強化を目的とするEPAと政治分野のSPAの両者を相互補完的な協定と見なしている。つまり、国際秩序の基礎を成すべき重要な価値を死守する強いコミットメントを示している。その中には、世界貿易機関(WTO)のルールに基づく多角的貿易体制を擁護し、気候変動対策に関するパリ協定、持続可能な開発目標の実施促進も含まれる。

 こうした日本との連携強化は、中国問題に直面する欧州にとって重要さを増している。イタリアなどはEUより中国マネーを当てにしており、EUは中国による切り崩しにさらされている。EUにとって、EPA、SPAを足掛かりに対中政策で日本との協力を強化する意味は大きい。

 ただ、課題もある。ちょうど1年前、フランス開催の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で首脳宣言を出せず、その存在意義が問われた。その原因の一つは、欧州が目指す多国間主義に対して、世界の現実は一国主義、国家主権重視、さらには民族主義的傾向を深める時代に移行しつつあることだった。

 安倍首相の辞任へのEU首脳のコメントには、何度も多国間主義という言葉が出ており、日本と価値観を共有していることが強調された。EUは日本と共に多国間主義でない米国、中国と向き合うという認識だ。ただ、EU内には、米国寄りの日本に対する不信感も残っている。

 そのEUも、国際関係の中心が環大西洋から環太平洋に移行したことで、存在感をアピールできずに葛藤している。経済的には対中国で強硬路線も取りにくい現実もある。日本との関係強化は今後、重要さを増すことが予想される。

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