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“脱中国”へ舵を切ったブレグジット後の英国

貴族や政府職員が名指し

 目下、英国の国会議員は超党派でボリス・ジョンソン政権に対し、「香港問題や新型コロナウイルス流行に関する隠蔽などの行為について、中共に反対する確固たる立場をとるよう」要請している。
さらに議会は7月7日、ブレグジット後の1国では初めてとなる、人権侵害を理由とする49個人・団体に対する制裁を発表した。制裁対象者は今後、直ちに英国への入国が禁じられ、英国での金銭の流通、または生産を通じて英国経済から利益を得ることができなくなる。

 香港のキャリー・ラム行政長官や前長官、自由と民主主義を後退させる香港政府中枢の人間はもちろん、中国共産党幹部とその家族まで、近い将来、次々と制裁名簿に入ることは容易に想像がつく。
また、「リポート:中国が試みる英国人エリートの取り込み」と題する86ページのリポートの存在が、一握りの国会議員やメディアの手にわたり注目されている。

 執筆者は英国情報機関(MI6)の元情報機関員クリストファー・スティール氏と、情報コンサルタント会社「オービス」を共同で設立した、元外交官アーサー・スネル氏である。スティール氏は、ドナルド・トランプ米大統領の「ロシア・ゲート」事件のきっかけとなるリポートを執筆した、いわく付きの人物でもある。
リポートの全容は明かになっていないが、一部を入手したデイリー・メールなどが7月7日に報じた内容には、このようなものがある。

「中国共産党は、政治家、学者、その他のエリートを『使えるバカ』もしくは『専属エージェント』にすることを目標にしている」

 そして5人の英国人――貴族や政府職員らが名指しされた。
同リポートはまず、「原子力発電所や通信など、英国の国家インフラにおける中国のプレゼンスを確立し、英国の5Gネットワークを欧州市場への入口として使用。ファイブアイズ(米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)を弱体化させ、中共政府の政策を世界が支持するように仕向けていくといった目的を、中共が掲げている」と警鐘を鳴らしている。

 その策略を知っていたからか、少なくとも60人の保守党議員から成る強力な同盟が、「ファーウェイを英国に入国させるのを許すことはできない」と主張していた。しかも、「ファーウェイ・チームを監視する活動」も秘密裏に組織されていたそうだが、同リポートには、「中国共産党がこの動きを妨害するため、ハッカーに対して〝サイバーアタックの募集〟をして、60万ポンドを提供した証拠もある」と記されている。

 同リポートの肝心な部分は早々に把握していたと考えられるジョンソン首相は、7月4日に「英国の5Gネットワークからの華為(ファーウェイ)排除を数ヵ月以内に開始する方針」を公にしていた。

親中の「48グループクラブ」とペリー会長

 英国のエスタブリッシュメントの一部から、「48グループクラブ」も〝親中共集団〟としてにわかにやり玉に挙がっている。同クラブは、貿易業の英国人ジャック・ペリー氏らが北京で周恩来首相と会談した後の1950年代に仲間たち48人で発足したことに遡り、今日に至るまで英中の経済活動を盛り上げてきた。

 ところが最近は、「現役国会議員、元国会議員、英国の貴族、企業CEO、学界やメディア、著名人を含む英国の謎めいたトップエリートグループ」「英国企業が中国市場に参入するのを助ける、650人の強力な組織」などと注目され、名指しをされた1人、トニー・ブレア元首相は「組織との深い関係はない」と火消しに躍起になっている。
というのも、同クラブの現会長でジャック氏の息子スティーブン・ペリー氏について、習近平国家主席と3度面談するなど密接な関係にあるのみならず、「中共の政策をプロパガンダ(宣伝)し絶賛していた」と報じられたためだ。事実、ペリー氏とその家族は中国国営メディアや新華社通信で度々取り上げられており、中国国際電視台(CGTN)にも頻繁にインタビュー出演し、香港や米中関係についても中国共産党寄りの発言をしている。

 しかも2018年12月、中国政府が北京の人民大会堂で行った改革開放40周年を祝賀する式典で、外国人10人に「中国改革友誼章」が送られたが、その1人がスティーブン・ペリー氏なのだ。
世界中の「わずか10人」に絞り込まれた受章者には、シンガポール「建国の父」リー・クアンユー氏、日中友好を促進した大平正芳元首相、パナソニック創業者の松下幸之助氏ら鬼籍に入った人物も含まれており(日本から2人も選ばれた…!)、ペリー氏と同様に人民大会堂の壇上に立った大御所には、世界経済フォーラム(ダボス会議)主催者のクラウス・シュワブ氏(ドイツ)、さらには武漢ウイルスの発生以降、世界から疑惑の目が向けられた「武漢ウイルス研究所・武漢P4実験室」の創設に関係するメリュー財団のアラン・メリュー会長(フランス)の姿もあった。

 ちなみに、日本でも翻訳出版された『サイレント・インベーション~オーストラリアにおける中国の影響(Silent Invasion: China’s influence in Australia)』の著者のクライブ・ハミルトン教授(豪チャールズ・スタート大学教授)が最近、共著で上梓した『Hidden Hand: Exposing How the Chinese Communist Party is Reshaping the World (隠れた手:中国共産党の世界再編方法を暴く)』のなかには、「中国共産党の英国における影響力は深くまで浸透しており、止められない」との指摘がなされている。

河添恵子氏 新刊著書

河添恵子氏 新刊著書

 だが、「48グループクラブ」のペリー会長が、同著の「英国とカナダでの発売をストップするよう」訴えているという。一族と中共との長きにわたる深淵な関わり、ディープインサイドが記されたから? ペリー親子は共産主義者との噂もある。
英国の一連の〝新たな動き〟に対し、中国の劉暁明駐英大使は、「中国の内政への重大な干渉であり全面的に拒絶する」と息巻き、「国際関係の基本的な規範を、公に踏みにじっている」と非難した。
これに対し、ドミニク・ラーブ英外相は「これは内政干渉ではなく信頼の問題。多くの国は、中国が国際的義務に従っているのか疑問に感じている」などと真っ向から反論した。

 今年1月末に脱・欧州連合(EU)、すなわちブレグジットの手続きを事実上、完了させた英国だが、当面の主目的は国内のエスタブリッシュメントに対する〝踏み絵〟、自浄作用を兼ねた〝脱中国〟であることは明らかだ。
世界が極度の痛みを伴っての抜本的な改革に着手し、「アフタ・コロナ」という前例のない未来に向かって果敢に前進するなか、日本の覚悟が問われる。

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