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コロナ危機で「株」上げた人下げた人

 オランダ外務省は1日、欧州連合(EU)の13カ国の連名で、「新型肺炎の感染拡大への対応では、法治主義、民主主義、人権などの欧州の基本的権利に反し、政府批判の言論を弾圧する動きが見られることは遺憾だ」という趣旨の声明文を発表した。

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コロナ危機の対応で国民の評価を高めたイタリアのコンテ首相(イタリア首相府の公式サイトから)

 同声明文では名指しこそ避けているが、これはハンガリーのオルバン政権への批判だ。同政権は新型肺炎の感染を受け、非常事態宣言を発表したが、政府は今後、議会での協議をせずに新しい法令を発令できる法案を採択したばかりだ。そこで13カ国の声明となった。

 声明では、「非常事態への対応は可能な限り、制限される範囲に留まり、議会とは協議を重ね、対策の是非を問わなければなない」と述べ、「自由な言論を制限してはならない」と釘を刺している。

 コロナ危機は現在、新型コロナの発生国・中国から欧州と米国に移動し、欧州では各国が国境の封鎖、外出禁止、イベント開催の中止、学校の休校など対応策を実施した。さらにオーストリアでは1日から準備期間を持ち、6日からはスーパーでの買い物の際にマスクの着用が義務付けられる。EUは統合されたコロナ危機対策の重要性と加盟国間の連帯と結束を呼び掛けているが、現実は“自国ファースト”を優先し、EUの統合政策からは程遠い。そのような中、議会の過半数を掌握するオルバン政権は今回の強硬法案を採択したわけだ。

 ところで、コロナ危機で国民の評価を高めた政治家と逆に落とした政治家が出てきた。前者の株を上げた政治家の代表はイタリアのコンテ首相だろう。

 独週刊誌シュピーゲルは、「コロナ危機の時、コンテ氏が首相で良かった。コンテ首相は就任当時、なんと退屈な首相だろうか。麻酔されたようにスローテンポで話しかけ、最後まで聞くのは大変だ、といった酷評を受けてきたが、新型コロナウイルスで国内がカオス状況に陥った今日、『彼が首相で良かった。もしポピュリストのサルヴィー二氏(前副首相兼内相)だったら、国内は一層混乱し、国民は不安を深めていっただろう』といった評価の声が聞かれる」と報じている。

 コンテ首相は職業政治家ではなく、法学教授だったが、突然、ローマの政界に呼ばれ、首相を任せられた人間だ。彼は首相になってからも大学で学生たちに話しかけるように喋るから、職業政治家からは「退屈で、冗長的な演説」と受け取られてきた。

 コロナ危機でもその姿勢は変わらない。コンテ首相は事実を淡々と国民に伝え、決して大袈裟なレトリックを駆使しない。そのため、新型コロナで不安になっている国民の心を落ち着かせているというのだ。

 イタリア北部ロンバルディア州では新型肺炎が大暴れで、多数の感染者が亡くなっている。コンテ首相は国難時、イタリア国民の精神安定剤的役割を果たしているわけだ。

 もちろん、コンテ首相の危機管理をどのように評価するかは現時点では時期尚早だが、コンテ首相は新型コロナ感染拡大前よりも、その政治的支持を高めた珍しい政治家だ。

 新型肺炎が広がり出した当初、大衆迎合政治家、ブラジルのボルソナロ大統領や米大統領トランプ氏は新型コロナの恐ろしさを察知できなかった。演説に長けたマクロン仏大統領は今こそ、欧州でコロナ危機の対策に全力を発揮しているが、コロナ危機の恐ろしさを過小評価してきた政治家の一人だ。各政治家の危機管理への評価はコロナ危機が終息した後、慎重に検証しなければならないだろう。

 お世話になっているから言うわけではないが、オーストリアのクルツ首相は危機に強い政治家だ。難民が欧州に殺到した時も素早く国境を閉鎖し、メルケル首相の難民歓迎政策とは全く異なった対応を実行し、欧州政界で新風を巻き起こした政治家だ。まだ33歳の若者だ。

 コロナ危機でもイタリアとチロル州の国境をいち早く封鎖する一方、外出禁止、学校休校を実施。コロナ危機で多くの国民が失業すると、最大380億ユーロの経済支援策を発表。そして第2弾としてマスク着用の義務化など次々と対策を打ち出している。本人は首相府内に寝泊まりし、コロナ危機への対応で先頭に立って奮闘している。

 クルツ首相は、「国民が喜ぶ話をしたいが、コロナ危機への対策は短距離競技ではなく、マラソン競技だ。国民は忍耐が必要だ」と述べる。疲れを知らず、国民にコロナ危機の対策を説明するクルツ首相の姿を見るにつけ、激動の時代、国を引っ張っていく政治家には若さと行動力が欠かせないと痛感する。

 オーストリア国民は後日、コロナ危機の時、33歳のクルツ氏が首相であったことを感謝するかもしれない。

(ウィーン在住)

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