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  • 「援護法」に隠された沖縄戦の真実
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  • 米中新冷戦 第1部「幻想」から覚めた米国
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    安東 幹
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    坂東 忠信
    坂東 忠信
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    古川 光輝
    古川 光輝
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    細川 珠生
    細川 珠生
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    井上 政典
    井上 政典
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    伊勢 雅臣
    伊勢 雅臣
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    宮本 惇夫
    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    ドイツ政界をパニックにした「亡霊」

     ドイツの旧東独テュ―リンゲン州で5日、州首相選が実施され、3回目の投票で第6党の自由民主党(FDP)の候補者が首相に選出された時、首相に選出されたケンメリヒ氏だけではなく、他の政党の議員たちも唖然とした。ニヤニヤしながら他の政党の議員たちが驚く姿を見ていたのは、同州第2党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の議員たちだった。

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    テュ―リンゲン州の首相に選出されたケンメリヒ氏(ウィキぺディアから)

     同州首相選の結果がドイツの連邦首都ベルリンに届く頃には、ドイツ政界は大揺れとなっていた。旧東独州首相選がなぜドイツの政界をパニックに陥れたか、これが今回のコラムのテーマだ。7日付のコラム(「独極右党が初のキングメーカーに」)を参考にしながら、その続編の今回のコラムを読んで頂ければ幸いだ。

     中国武漢市で新型コロナウイルスが発生して以来、ドイツのメディアは他の欧州のメディアと同様、中国発のウイルス感染問題を連日トップで詳細に報じてきたが、5日のテューリンゲン州の州首相選の結果が判明すると、メディアは武漢発コロナウイルスの記事をトップから外し、「ダムが決壊した」といった見出しでテュ―リンゲン州選挙結果を大きく報道した。

     なぜドイツの政治家、国民は旧東独の州首相選の結果に腰を抜かしたのか。同州第2党の極右党AfDが州首相選でキングメーカーの役割を果たし、第6党のFDPの候補者を首相に選出することに成功したからだ。そのうえ、メルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」CDU/CSU)はAfDと同様、FDPのケンメリヒ氏に投票した結果、AfD、CDU/CSU、そしてFDPの3党がFDPの候補者を首相に担ぎ出したことになったわけだ。

     普段は冷静で、感情を顔に出さないメルケル首相は、「絶対に許すことが出来ない」と強く批判、テュ―リンゲン州CDU党首をベルリンに呼び、厳しく糾弾した。メルケル首相から党首職を引き継いだクランプ=カレンバウアーCDU党首は5日夜、「わが党はAfDとはいかなる連携もしないことを表明してきた。同州のCDU指導者はその方針を破った」と指摘し、「州議会選のやり直し選挙を実施すべきだ」と主張した。

     旧東独のテュ―リンゲン州議会選(定数90)が昨年10月27日実施され、ラメロウ首相が率いる与党「左翼党」が約31%の得票率を獲得する一方、AfDが前回選挙(2014年)比で12・8%増の得票率23・4%で第2党に大躍進した。第3党は「キリスト教民主同盟」(CDU)が21・7%、第4党は社会民主党(SPD)で8・2%、「同盟90/緑の党」5・2%、そしてFDPは5・0%と続く。

     その結果、左翼党党首のラメロウ州首相はSPD、「緑の党」の左翼連立政権の組閣を目指したが、3政党の得票率を合わせても過半数50%を超えることができない。CDUはAfDだけではなく左翼党とも連立を拒否しているからだ。そのため、ラメロウ氏は左翼党、社会民主党(SPD)、そして「同盟90/緑の党」の3党から成る少数連立政権の発足で苦戦した。

     そして5日の州首相選を迎えた。ラメロウ首相は3回目の投票では過半数で当選できるから再選されるだろうと予想していた。だが、AfDが自党の筆頭候補者クリストフ・キンダーヴァーター氏に投票せず、CDUと共にFDPのケンメリヒ候補者に投票したのだ(ケンメリヒ氏45票、ラメロウ氏44票)。 議会第6党の候補者が州首相に選出されたのは初めてだが、それ以上に驚きなのは、極右政党AfDが連邦、州レベルで初めてキングメーカーの役割を果たしたことだ。その事実が伝わると、先述したように、ベルリンの政界はビックリ仰天となった。

     民主選挙で第2党となった政党が州政治でそれなりの役割を果たすことは不思議ではない。有権者の支持で第2党となった政党を排斥するほうがむしろ非民主的だ、という理屈は当然考えられる。AfDがクーデターで政権を攪乱したのではなく、民主的な手続きに乗って、首相選出で党のパワー(議席)を巧みに発揮しただけだ、ともいえる。それなのに、ドイツの政界は大揺れなのだ。

     ドイツの場合、過去の歴史を無視しては語れないだろう。ラメロウ氏は5日、州首相選の結果が明らかになると、「テューリンゲン州では90年前にも同じような状況が起きた。1930年、州議会に国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)が初めて州政府に参加したのだ」と説明し、極右政党の躍進に警告を発している。換言すれば、極右党AfDはNSDAPの政策を継承するネオナチ党だから、そのAfDがキングメーカーを演じることは危険だというわけだ。

     ドイツでは政治家、国民の間に「アドルフ・ヒトラーの台頭を防ぐことが出来なかった」という歴史的悔いがある。だから、次は同じ過ちをしない、といった思いが強い。だから、AfDのように、民族主義的、外国人排斥主義的な政党が出てくれば、「危険な政党」というレッテルを貼って警戒することになるわけだ。

     テュ―リンゲン州議会での政変が報じられると、ハンブルク市、ケルン市、ミュンヘン市などで抗議デモが行われた。首都ベルリンではFDPやCDUの党本部前で抗議デモが開かれた。

     ドイツの隣国オーストリアで2000年2月、シュッセル党首が率いる中道右派「国民党」と極右活動家ハイダー党首の「自由党」が連立政権を発足させた時を思い出してほしい。欧州連合(EU)はシュッセル連立政権の発足に懸念を表明し、オーストリアに外交的接触を拒むという制裁を実施。政権発足式の日には、多数の国民が連邦首相府前に結集して抗議デモを行った。そのためシュッセル党首やハイダー党首はじめ連立政権の閣僚たちは宣誓式に出るために大統領府に地下道から入っていく、といった前例のない事態となった。

     アドルフ・ヒトラーの出身国・オーストリアでは、ドイツと同様、いやそれ以上に極右派政党、運動に対し、激しいアレルギー症状が見られる。ナチス・ドイツ政権時代の亡霊に脅かされているのだ。オーストリア代表紙プレッセは6日、1面トップでテュ―リンゲン州議会の混乱を報じ、「ドイツでタブーが破られた」(Tabubruch in Deutschland)という見出しを貼っていた。

     テュ―リンゲン州のAfD党首のビュルン・へッケ氏は、「左翼党首相を追っ払うことに成功した。わが党抜きでは、もはや何事もできない」と強調。モイテン連邦党首は、「社会主義の亡霊は消えた」とテュ―リンゲン州首相選の勝利を喜んだ。ただし、ヘッケ氏もモイテン党首もぬか喜びに終わるかもしれない。ケンメリヒ首相は8日、首相職を3日間務めた後、辞任。CDU、SPD、そしてFDPは州議会選のやり直しを要求しているからだ。いずれにしても、テュ―リンゲン州で新選挙が実施され、新政権が発足するまでにはまだまだ多くのハードルが控えている。

     カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスは「共産党宣言」(1848年)の中で「欧州に亡霊が徘徊している、共産主義という亡霊が」という有名な台詞を書いたが、AfDはその共産主義の亡霊を、左翼やリベラルな人々はナチス・ドイツの亡霊をそれぞれ恐れているのだ。

    (ウィーン在住)

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