■連載一覧
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  • 香港憤激 一国二制度の危機
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  • 台湾に吹いた蔡英文旋風
  • ルポ・政権交代の攻防 台湾総統選
  • 二極化する香港 識者インタビュー
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  • 新閣僚に聞く
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  • 衆院選 自公圧勝 ~課題と展望~
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  • 第2次安倍改造内閣スタート
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  • 国防最前線・南西諸島はいま 第1部 与那国島・陸自駐屯地
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  • 「援護法」に隠された沖縄戦の真実
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  • 米中新冷戦 第1部「幻想」から覚めた米国
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  • 米国の分断 第3部 「自虐主義」の源流
  • 米国の分断 第2部 反米・容共の風潮
  • 米国の分断 第1部 断罪される偉人たち
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    安東 幹
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    坂東 忠信
    元警視庁北京語通訳捜査官
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    古川 光輝
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    細川 珠生
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    井上 政典
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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    EUが「嘘をついた」ならば……

     嘘をついちゃいけません、と幼い時、親から言われた人は少なくないだろう。子供は成長すれば、嘘が至る所にはびこっていることに気が付き、「親は自分に嘘をついていた」といった苦い思いが湧いてくる、といった体験をしている人も多いだろう。

    800ギリシャのツィプラス首相(左)とマケドニアのザエフ首相(2018年6月17日、国名変更で合意した直後、ウィキぺディアから)[/caption

     ところで、米国と中露に次ぐ第3の世界の軸を目指してきた欧州連合(EU)が嘘をついた場合、やはりその影響は大きい。英国のEU離脱(ブレグジット)でロンドンとの間でゴタゴタしてきたが、その責任のかなりの部分は英国にある。EUに加盟を願う国に「近い将来、我々のクラブに入れるよ」と声をかけながら、ブリュッセルの風向きが変わり、「残念ながら、君たちとの加盟交渉は先送りだ」と言い出したのだ。

     EUに嘘をつかれた国は北マケドニアとアルバニアの2国だ。特に、前者は国名問題で対立してきたギリシャの要求を受け入れ、国名を変更してまでEU加盟を目指してきた経緯がある。マケドニア議会は昨年10月、国名を「マケドニア旧ユーゴスラビア共和国」から「北マケドニア共和国」に変更する憲法改正手続きを開始し、今年2月に正式に国名を変更した。そのスコビエ政府に対し、ブリュッセルは「当分は加盟交渉は無理だ」と言い出したのだ。具体的には、EU内で影響力を増してきたマクロン仏大統領が先月、ブリュッセルで開催された首脳会談で2カ国との加盟交渉スタートに反対を表明し、最終的には、来年5月まで先送りとなった。

     EUは1995年、オーストリアやスウェーデンなどを受け入れ、2004年には旧東欧諸国ら10カ国をいっきょに加盟させた。最後の新規加盟は2013年7月のクロアチアだ。問題は新規加盟がブリュッセルの期待に反し、EUの分裂と混乱をもたらしてきた面があることだ。例えば、ハンガリー、ポーランドはここにきて「我が国のことはブリュッセルに任せない」と宣言し、難民受け入れ枠でも拒否する一方、国内の司法体制、メディアに対しても民族主義的な路線を突っ走っている。ブリュッセルの度重なる警告にも関わらず、ハンガリーのオルバン首相は独自路線を走り、ここにきてロシアとの関係を深めてきた。そのため、EUは新規拡大にはどうしても慎重にならざるを得ないわけだ。

     ただし、ここで問題としているのは“ブリュッセルの事情”ではない。EU加盟交渉というニンジンを目の前にみながら、必死に奮闘し、加盟交渉をブロックしてきたギリシャの要求を受け入れて、国名まで変更するなど大きな代価を払った“北マケドニアの事情”だ。

     国名変更ではギリシャとばかりではなく、国内の民族派の説得に腐心し、やっとギリシャとの長年の国名問題を解決、国名をマケドニアから北マケドニアに変更したばかりだ。その国にブリュッセルが「加盟交渉は延期」といったのだ。はしごを突然外されたようなものだ。スコピエ政府は国内の民族派の巻き返しを恐れ、来年4月に早期総選挙を実施することを決定したばかりだ。EU加盟路線の堅持を主張するザエフ現政権が選挙で第一党を維持できず、民族派が政権を奪えば、EU加盟路線が変更されるという事態も考えられる(「マケドニア議会、改憲審議開始へ」2018年10月21日参考)。

     もちろん、北マケドニアだけではない。アルバニアも程度の差こそあれ同様だ。それだけではない。ブリュッセルと既に加盟交渉を開始したセルビア(2012年に交渉開始)とモンテネグロ(2014年)でも影響が見られる。両国は2030年前に加盟が実現できるかどうか分からなくなったきた。

     西バルカンの動揺を見て、喜んでいるのはロシアのプーチン大統領だ。ユーラシア経済共同体構想(EAWU)を掲げ、西バルカンに加盟の声をかけている。セルビアは伝統的にロシアと親密な関係だ。1999年の北大西洋条約機構軍(NATO)のベオグラード空爆をセルビア国民は忘れていない。また、ウクライナ正教のロシア正教からの独立宣言に対し、セルビアはロシア正教側の主張を支持してきた。

     セルビアの場合、EUの政策変更を予知していたのか、ヴチッチ大統領はブリュッセルと加盟交渉に乗り出す一方、ロシアとの歴史的関係にも配慮し、ロシア製武器を輸入したばかりだ、前者がダメでも後者があるよ、といった狡猾なかじ取りだ。

     EUのドタバタを巧みに政治的利用しているのはプーチン大統領だけではない。中国共産党政権も同じだ。習近平国家元首の新シルクロード構想「一帯一路」を掲げ、バルカン諸国にその影響力を拡大してきた。バルカン諸国への入口、ギリシャ政府は2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却するなど、中国との経済関係を深めている。次はセルビアの番といった具合だ(「バルカン諸国が中国の戦略拠点に」2018年7月9日参考)。

     いずれにしても、「加盟交渉を直ぐに始めるよ」と表明した後、「交渉は先送り」といえば、いかなる事情があるとしても「EUは嘘をついた」ことになる。その結果、EUは信頼性を失い、バルカン諸国への影響力を低下させる一方、ロシアの影響力拡大となって跳ね返ってくる。結局、「嘘はついてはならない」といった昔からの戒めは正しかったわけだ。

    (ウィーン在住)

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