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ちょっと不可解な事務局長選結果

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の特別理事会(35カ国)は29日、7月に急死した天野之弥事務局長の後任事務局長選出を継続し、在ウィーン国際機関アルゼンチン代表部のグロッシ大使を次期事務局長に選出した。IAEA広報部によると、グロッシ氏(58)は24票を獲得、対抗候補者のフェルータIAEA事務局長代行(ルーマニア)は10票に留まった。その結果、グロッシ大使は当選に必要な有効投票の3分の2を超え、第6代事務局長に選ばれた。新事務局長はIAEA総会(加盟国171カ国)の承認を受け、遅くとも来年1月1日から4年間の任期を始める予定だ。 

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新事務局長の選出を決める理事会風景(IAEA公式サイトから)

 グロッシ大使の選出がアルゼンチンにとって初の国際機関のトップ就任であり、国民経済が厳しい時を迎えているだけに、同国にとって大きな朗報となるだろう。一方、フェルータ氏は事務局長代行の職務を行う一方で事務局長選に出馬したこと、グロッシ大使のように熟練外交官ではなく、加盟国の支持を得るための外交活動は制限されていた面があった。

 ところで、事務局長選の投票結果をみると、不可解な思いが湧いてくる。今月21日に実施された第1回投票では、1位はグロッシ大使15票、それを追ってフェルータ事務局長代行14票、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会暫定技術事務局長を務めるブルキナ・ファソ出身のラッシーナ・ゼルボ氏(55)は5票だった。

 上位2候補者による第2回投票ではフェルータ事務局長代行が17票でトップに躍り出、グロッシ大使は16票だった。フェルータ氏がグロッシ大使を抜いてトップに躍り出た。すなわち、フェルータ氏はゼルボ氏支持の5票のうち、少なくとも3票を獲得したことになる(2カ国の理事国が棄権、ないしは欠席した)。

 しかし28日の投票では、グロッシ大使が20票と4票を上乗せし、フェルータ氏は3票失い、14票に後退。そして29日の投票でグロッシ大使は3分の2を超える24票を獲得して当選を決めた。同大使は先週の投票結果から一挙に8票を付け加えたことになる。上位2候補者による投票で8票の支持を一気に増やすということは驚きだ(35カ国の理事国で今回は1カ国が棄権、ないしは欠席した)。

 一方、フェルータ氏は最大票17票から最後は10票に留まり、大きく票を失った。少々サプライズだ。換言すれば、21日の投票から1週間後の28、29日の投票の間に理事国の意向に大きな変動が生じたことを意味するからだ。何があったのだろうか。

 事務局長選出は人気投票ではないし、通常の選挙で考えられる浮動票といったものはない。例えば、日本の場合、どの候補者を支持するかを東京の外務省に問い合わせ、その指示に従って在ウィーン国際機関日本政府代表部の全権大使が投票する。Aを支持すると決定した場合、最後までAに投票する。第1回目はA、第2回目はB候補者といったことは基本的には考えにくい。

 繰返すが、35カ国の理事国の中で支持者を変更した国が少なくとも7カ国あったことだ。その動機は部外者には分からない。天野事務局長の下で仕えてきたフェルータ氏ではなく、新しい顔を選びたいという思いが理事国にはあったのかもしれないし、欧州出身ではなく、今回は南米から、といった地域ローテンションの原則が働いたのかもしれない。

 IAEAは核エネルギーの平和利用を促進する国際機関である一方、「核の番人」と呼ばれ、イランの核問題、北朝鮮の非核化問題などを抱えている。その事務局側のトップが事務局長だ。重要要件は35カ国から構成された理事会が権限を有しているが、事務局長は理事国間の調停などで重要な役割を担っていることはいうまでもない。その事務局長選で今回のようなちょっと不可解な投票結果が生じたわけだ。

 IAEAは核問題を取り扱う専門機関だが、非常に政治的思惑が働く国際機関だ。その事務局長の選出プロセスで理事国の利権などが絡んでくるのは避けられないが、IAEAのトップ選出では米中の激しい外交争いが舞台裏で見られたという。特に、イランの核合意で米中の意見は対立している。

 核軍縮分野の専門家グロッシ大使は親米派だ。中国とロシアの支援を受けたフェルータ氏が上位2候補者による最初の投票でグロッシ氏を抜いてトップに立った時、米国は危機感を持ったはずだ。そこで米国は舞台裏で外交攻勢をかけ、フェルータ氏支持派の理事国を説得し、グロッシ大使を逆転勝利に導いたのではないか。米国がどのような手段で説得したのかは、残念ながら当事国以外には分からない。

(ウィーン在住)

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