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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
    河添 恵子
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    宮本 惇夫
    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    ホロコースト生存最年長者の「訃報」

     当方は彼の存在を知らなかった。彼の訃報に接して後悔している。マルコ・ファインゴールド氏(Marko Feingold)が19日、肺炎で亡くなった、106歳だった。オーストリアでホロコースト(ユダヤ人大虐殺)生存者の中で最年長者だった。同氏は4度の強制収容所を生き延びたユダヤ人だ。彼は学校を訪問し、講演会に参加し、反ユダヤ主義、全体主義の恐ろしさを強く警告し続けてきた。

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    オーストリアのホロコースト生存者の最年長マルコ・ファインゴールド氏(2019年9月20日、オーストリア国営放送のHPから)

     ファインゴールド氏は1913年、現在スロバキアの Banska Bystrica で生まれた。当時はオーストリア・ハンガリー王国の領土だった。彼は3人の兄弟姉妹とウィーン2区で成長した。同区にはナチス・ドイツ軍のユダヤ人弾圧が始まるまで多くのユダヤ人が住んでいた。1938年、ユダヤ人にとって運命の時を迎えた。ナチス・ドイツが同年3月、ウィーンに侵攻し、マルコは弟エルンストと共に逮捕され、拷問を受けた。

     父親が警告を受け、2人の息子は解放された後、プラハに逃げ、そこからポーランドに入ったが、偽造旅券で再びプラハに引き戻り、2人の兄弟は反ナチのサボタージュなどに参加した。しかし、ゲシュタボに見つかり、逮捕され、ポーランドのアウシュビッツ収容所に送られた。2人の兄弟はサポタージュに関与していたとして「懲罰部隊」(Strafkompanie)に送られた。ユダヤ人の世界では「アウシュビッツでは長くても3カ月しか生きられない」と言われていた。

     マルコは2015年5月10日のオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「多くのユダヤ人は立ちながら死んでいった」と証言している。横にうつ伏せになって死ぬのではなく、立ちながら死ぬことがどのような状況かは体験しなければ理解できないことだ。

     マルコはそこを生きて出ることができた。彼は自身の体験を記述した本の中で、「自分は奇跡を信じないが、生きて収容所を出ることが出来たのは奇跡以外の何物でもなかった」と述懐している。そこで「殉死、屈辱、暴力、病気、特に、飢餓を体験し、目撃してきた」と述べている。

     マルコ自身、2カ月半の間に55キロあった体重が30キロになってしまったという。エルンストがマルコと別れた後、その消息は不明だったが、戦後、ノイエンガンメ収容所のガス室で1942年に殺されていたことを知った。

     マルコは4カ所の強制収容所を生き延びた。アウシュビッツを皮切りに、ノイエンガンメ(独ハンブルク市ベルゲドルフ区の地域)、ダッハウ(独バイエルン州)、そしてブーヘンヴァルト(独テューリンゲン地方)だ。マルコは1945年4月11日、ブーヘンヴァルト強制収容所から解放された。解放後は、国内避難民(DP)としてオーストリアのザルツブルクで衣服業を始めた。マルコは1946年から47年、ザルツブルクの「イスラエル文化協会」の会長を務めている。

     マルコはナチス・ドイツ軍の蛮行が忘却されることを恐れ、生涯6000回を超える講演で当時の体験・目撃談を語り続けてきた。マルコは、「学校では当時のことが正しく教えられていない」と強く感じてきたという。また「オーストリア国民はナチス・ドイツの蛮行に対して真摯に向き合うことを回避してきた。多くの国民は『オーストリアはナチス・ドイツ軍の最初の犠牲国だった』と考えてきた。戦争捕虜を迎えるときには音楽隊が歓迎したが、強制収容所の生き残りは歓迎されることがなかった」と述べている。

     マルコはナチス・ドイツ軍の蛮行を厳しく批判する一方、ユーモアを失うことがなっかた。「120歳になったら歓迎されるだろうが、自分はモーセのようには聖人ではないからね」と述べている。彼を知っている多くの知人は、「彼は決して恨みや憎悪をもたなかった。ルサンチマンがない人間だった」と証言している。罪を憎み、罪びとを憎まなかったというわけだ。

     なお、バン・デア・ベレン大統領は、「彼はナチス・ドイツ軍のテロの生き証人だ。彼は高齢になっても体験を我々に伝えるために命がけだった」と評価。 オーストリアのイスラエル文化協会のオスカー・ドイチュ現会長は、「ユダヤ人社会だけではなく、オーストリアにとって偉大な人物を失った」と述べている。

     注・このコラムはオーストリア国営放送の記事をもとに書きました。

    (ウィーン在住)

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