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10カ月超えた黄色いベスト運動、抗議デモで「マクロン改革」減速

 マクロン政権への抗議運動、黄色いベスト運動は10カ月を超えた。毎週土曜日に行われる全国抗議デモは下火になりつつあるとはいえ、1年近くも続くのは前代未聞。改革を旗印に掲げるマクロン仏大統領率いる中道政権は、抗議運動に配慮して増税や緊縮政策を断念している。国民の分断が顕著になる中、マクロン政権の政権運営は困難さを増している。
(パリ・安倍雅信)

国民の分断を助長 議会進出には失敗

 今月9日に仏経済紙ラ・トリビューンが公表した世論調査によると、長期化している黄色いベスト運動の停止を望んでいるのは回答者全体では52%、年金生活者では63%に上っていることが明らかになった。

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3月16日、パリで、黄色いベストを着て凱旋(がいせん)門近くに集まるデモ参加者ら(AFP時事)

 パリ西郊外の仏自動車メーカーで働くブリュノさん(48)は、5カ月前まで組合の後押しもあって毎週土曜日のデモ行進に参加していたが、デモ隊の暴力の横行が止まらないのを見て不快感を覚え、参加をやめたという。記者の取材に「私の仲間の多くはうんざりしている」と話している。

 昨年11月に始まった黄色いベスト運動は、燃油価格への増税への抗議を発端とし、全国に抗議運動が広がった。毎週土曜日の抗議デモには、ピーク時に最高130万人がフランス全土で参加した。同時に毎回一部が暴徒化し、公共建造物の破壊、通りに面した店やレストランへの放火や略奪行為、治安部隊との激しい衝突が続いた。

 もともと同運動は、マクロン政権が議会を通さず、関係者へのヒアリングも十分行わず、労働法改正や仏国鉄(SNCF)の改革などを強引な手法で断行してきたことへの不満が爆発する形で、全国各地で自然発生的に起きた運動だった。主催する主体の組織やリーダーが不在で、政府は交渉相手の特定に戸惑った。

 抗議は昨年末には、要求内容が燃油税増税や消費意欲を刺激する政策の実施から、反マクロン政権に中身を変え、マクロン氏の退陣要求に発展した。そのため政府は年明け、全国でマクロン氏を含む政権リーダーと市民が議論する全国大討論会を1000回以上開催し、今年4月には中間層の所得税減税などの新方針を打ち出した。

 それでも黄色いベスト運動は収まらず、反政府の左派労働組合の後押しや、最近では警官への襲撃事件や警察官の自殺者増加を受け、警察官組合も抗議デモを行い、先週13日には、パリの公共交通公団(RATP)がストライキを決行した。

 そのため、黄色いベスト運動の趣旨も変化しており、そこにマクロン政権の政策に反対するさまざまな抗議運動も重なっている。

 黄色いベスト運動で「市民の黄色いベスト運動」を率いる活動家のティエリー・ポール・バレット氏は今月9日、2020年3月中旬に行われる統一地方選挙に候補者を擁立する考えを表明した。欧州議会選挙での候補者擁立に失敗している同団体はリベンジを図りたいところだが、運動自体が下火なため疑問視する声もある。

 最近、黄色いベスト運動の影響で政府が改革政策を取り下げる象徴的なことがあった。政府は所得税減税の財源を確保し、2020年度の予算の帳尻を合わせるため30億ユーロが必要と説明していたが、今月9日、政府は、緊縮政策で上げていた病欠手当や家族手当の削減を行わないことを明らかにした。

 マクロン政権はもともと、病欠手当の増加にメスを入れ、公務員では実施されている病気による欠勤1日目を無給とする制度を民間企業にも拡大する方針を打ち出していたが断念し、高額所得者への家族手当の減額も行わないことを明らかにした。

 2017年6月の総選挙に発足したマクロン政権は「改革政権」と宣言していたが、黄色いベスト運動は確実に改革を減速させ、同時に改革支持派と抵抗勢力によって国民が分断され、その修復は未(いま)だに行われていない。年金改革では高齢化に伴う年金支給年齢引き上げをめざす政府と、支給年齢引き下げを要求する労組が、ま逆の主張をしており、抗議運動は収まる気配を見せていない。

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