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    古川 光輝
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    細川 珠生
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    井上 政典
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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
    企業・経営
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    誰が極右党党首を罠に嵌めたのか

     独週刊誌シュピーゲル最新号(5月18日号)はオーストリアの極右政党「自由党」の前党首シュトラーヒェ氏の「イビザ島事件」を詳細に報じている。スペイン領の避暑地イビザ島の別荘でシュトラーヒェ氏が自称「ロシアの新興財閥の姪」と会合し、そこで党献金の引き換えに政府の公共事業の受注を約束するなど、「酒の勢いもあってスキャンダルな言動」をした。会合事態は私的なものだったが、その会合が何者かにビデオで撮影されていたのだ。

    800

    副首相と自由党党首のポストの辞任を表明するシュトラーヒェ氏(オーストリア国営放送から、219年5月18日)

     シュピーゲルと南ドイツ新聞が17日、6時間を超えるビデオの内容を報道した。その結果、シュトラーヒェ氏は引責を問われ14年間維持してきた自由党党首のポストばかりか、クルツ連立政権の副首相職も台無しにした。そして最終的にはクルツ国民党との連立政権を潰してしまったのだ。同氏は大きな代償を払ったわけだ。

     イビザ島事件はシュトラーヒェ氏を陥れる“罠”の会合だった可能性が高い、という当然の推測が出てくる。個人的な恨みからというより、極右党の指導者をスキャンダルに陥れ、極右政党を弱体化させる狙いがあったはずだ。その狙いは成功したわけだが、それでは誰がイビザ島の会合を計画し、ビデオ撮影をしたのか。

     同会合は自由党院内総務のグデヌス氏とその妻(セルビア人女性)の仲介で実現したが、会合に現れたロシア新興財閥の姪がおとりだったのか。ちなみに、グデヌス氏は19日、議員職ばかりか、自由党の党籍も失った。

     実際、シュトラーヒェ氏は会合中、自称ロシアの実業家の女性の足が汚れているのに気が付き、資産家の娘らしくないことから、同会合をアレンジしたグデヌス党院内総務に「少しおかしいのではないか」とロシア人女性の身元に疑問をそれとなく吐露している。グデヌス氏は「問題はない」とシュトラーヒェ氏の不信を払しょくし、その場は終わった。シュトラーヒェ氏は瞬間だが、イビザ島の会合が罠だと感じたわけだ。

     シュトラーヒェ氏は罠の最初の犠牲者ではない。オーストリアでエルンスト・シュトラッサー欧州議員(元内相)がロビイストを装った英ジャーナリストから欧州議会に法案提出を要請された。英ジャーナリストのおとり取材とは知らない議員は報酬10万ドルを要求し、法案提出を約束した。そのやり取りはビデオで録音されていたため、後日、同議員の犯罪行為(収賄)が暴露され、欧州議員のポストを失うだけでなく、腐敗政治家として裁判を受ける身となった。同氏は2014年3年の有罪判決を受けた。

     おとりは独語でLockvogel(英語decoys)だ。シュトラッサー氏の場合、ジャーナリストがおとり取材だったが、シュトラーヒェ氏の場合はどうか。同ビデオが放映されると、オーストリア検察当局は違法な内容や行為がなかったか調査を始めた。

     同会合は2017年10月15日の国民議会選挙前の7月のことだ。すなわち、シュトラーヒェ氏は当時、野党自由党の党首だった。当時の世論調査では政権入りのチャンスもあると予想されていたが、シュトラーヒェ氏には当時、大きな政治的権限はなかった。それではおとりの目的は何だったのか。

     イビザ島事件には疑問が多い。①2017年7月に撮影したビデオがなぜ2年後の今月メディアにリークされたか。今月26日には欧州議会選が行われるが、2017年10月15日にはオーストリアで総選挙が行われた。ビデオをなぜ総選挙直前にリークしなかったか。②ビデオの内容をドイツの有名な政治風刺の漫談家、ヤン・ベーママン氏が今年4月、語っている。シュピーゲルや南ドイツ新聞がリークする前に誰がそのビデオを風刺作家に見せたのか。③ビデオの内容がリークされた直後、ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)のハンデンワンク長官が、「オーストリアとは機密情報を共有することが難しい」と述べたが、イビザ島事件との関係は何か、等々の疑問だ。

     極右政党が政権に参加し、警察機構を管轄する内相ポストを自由党が掌握している場合、西側の情報が漏れる危険性が出てくる。なぜならば、西側の極右政党はロシアのプーチン大統領と接近しているからだ。実際、クルツ首相が自由党にキックル内相の辞任を連立継続の条件として交渉したが、自由党側がそれを拒否。そのため、クルツ首相は自由党との連立政権を解消することを決定した経緯がある。

     ここまで書いていくと、イビザ島事件でビデオ隠し撮りを設置した人物、グループのプロファイルが浮かび上がってくる。極右政党の自由党潰しを狙ったドイツ情報機関が関与した疑いが出てくるのだ。イビザ島事件のビデオ設置はプロの仕業だ。情報機関にとって、撮影したビデオを即利用する必要性はない。自由党の権力掌握前後まで保管してきた。ビデオをメディアにリークする「Xデー」は5月17日だったわけだ。イビザ島事件が発覚した直後、メルケル独首相は、「極右政党とは如何なる政治的協力もできないことを端的に示した」と、隣国の自由党党首の言動を珍しく厳しく批判している。

     イビザ島事件はオーストリアのメディアではなく、ドイツのメディアが最初に報道し、追加情報もドイツ発が多い。ドイツが同事件の暴露で深く関わっていることを匂わせているのだ。

     「当方氏はミステリー小説の読みすぎだ」と冷笑されるかもしれないが、事実は小説より奇なりだ。BfVは隣国の極右政党自由党の言動を非常に警戒してきた。国内には自由党と連携する「ドイツのための選択肢」(AfD)が台頭してきた。これ以上静観できない。そこで自由党潰しのために2年前に撮影したビデオをメディアに流したのではないか。自由党党首のスキャンダル暴露は欧州で台頭する他の極右政党にもダメージを与えることができる、という計算が働いていたはずだ。

     参考までに、政治の背後には情報機関が暗躍している。スパイ活動は米国やロシアだけではない。海外中国メディア「大紀元」によると、日本には5万人以上の中国共産党政権派遣の諜報員が暗躍している。そのうえ外国人妻をもつ自衛隊員は約800人いるが、その7割は中国人女性と結婚している。世界の情報機関は激しい情報戦を展開させ、必要ならばオペレーションも行う。イビザ島事件はその実例ではなかったか。

    (ウィーン在住)

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