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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
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    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    神がフランス人だった時代

     フランスは欧州の代表的なカトリック教国だ。そのフランスの首都パリ中心部にあるノートルダム大聖堂から15日午後6時過ぎ、火災が発生し、大聖堂の屋根が崩壊し、尖塔が崩れ落ちた。ノートルダム大聖堂の火災状況は世界にライブで放映され、それを観た人々から大聖堂の再建を支援する声が出てきた。フランスの富豪たちから巨額の復興資金が献金されるなど、大きな反響を呼んでいる。

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    ノートルダム大聖堂(ウィキぺディアから)

     幸い、大聖堂の火災では1人の消防士が負傷しただけで観光客や一般市民の死傷者はなかったことから、フランス国民の関心はもっぱら大聖堂の再建に集中している。マクロン大統領は火災時に現場に飛び、燃える大聖堂を見、ツイッターで「私の全ての同胞と同様、今晩私たちの一部が焼けているのを見て悲しい」と述べ、「われわれは必ず大聖堂を再建する」と語った。

     大聖堂は1163年に着工され、約180年かけて完成した。聖堂内部には、20世紀の代表的画家シャガールのステンドグラスがある。大聖堂では過去、歴代フランス国王の戴冠式が行われた。年間1300万人の観光客が訪ねるノートルダム大聖堂はシャルトル大聖堂と共にフランスの代表的なゴシック建設であり、1991年に「パリのセーヌ河岸」という名称で周辺の文化遺産と共に世界遺産に登録された。

     火災から5日が過ぎ、火災状況の検証が進められているが、ノートルダム大聖堂の報道を読んで漠然とだが違和感を持った。燃えたのはカトリック教会の建物だが、報道からは歴史的な文化遺産が燃えたような錯覚を受けるからだ。もちろん、バチカンは即、「悲痛なニュース」として報じていたが、大多数の報道はもっぱら大聖堂の復興をテーマとしていた。

     フランスは欧州のカトリック教国として大きな権勢を久しく誇ってきた。詩人で思想家のシャルル・ペギー(1873~1914年)は「神はフランス人だ」と豪語したという。当時のカトリック主義者は、「わが国のカトリック主義はスペインやハプスブルク王朝のそれより強い」と考え、「フランスは神の摂理と密接な関係を有し、欧州の支配を運命づけられている」と受け取っていた。同国の知識人、ジョルジュ・ベルナノス(1888~1948年)は、「フランス民族はイスラエル民族の後継者だ」と考えていたというから、フランスのカトリック主義が燃えていた時代があったわけだ。

     しかし、フランスでは1905年、厳格な「政教分離法」(ライシテ)が実施され、カトリック系学校や修道院は閉鎖されていった。同時に、教会も世俗化していった。教会の典礼は無視され、宗教は政治的な視点でしか議論されなくなった。

     「フランス国民の心のよりどころでもあったパリ中心部のノートルダム大聖堂が炎上し、長い間にわたり人々が見上げてきた高い尖塔も、悲しみに暮れて聖歌を口ずさむ大勢の市民に見守られながら崩壊した」といった非常に文学的な報道記事があったが、感動を覚えるより、違和感を持った。多くのフランス国民は「神の宮」である大聖堂が燃えたことを悲しむというより、フランスのこれまでの歴史的・文化遺産が詰まった建物の崩壊を惜しんでいたのではなかったか。

     欧州最大のカトリック教会は悩んでいる。オーストリア代表紙プレッセのコラムニスト、カール・ペーター・シュヴァルツ記者は、「教会の屋根が燃えた時、教会は崩壊しない」という見出しで、「大聖堂の火災による被害は大きいが、教会の主要問題は崩壊する古い建物ではない」と述べている。

     実際、13世紀に建設された屋根に火がつき、19世紀に改築された屋根が崩壊した時も、ノートルダム大聖堂は修復された。1793年の革命で大聖堂は略奪や破壊活動の被害を受けたが、再復旧されている。

     欧州で頻繁にイスラム過激派テロ事件が発生したが、テロ事件で聖職者が殺害されたのはフランス教会だけだ。同国北部のサンテティエンヌ・デュルブレのカトリック教会のジャック・アメル神父(当時85)が2016年7月26日、朝拝中にイスラム過激テロリストに襲撃され、殺害された。2人のテロリストは教会の裏口から侵入すると、礼拝中の神父をひざまずかし、アラブ語で何かを喋った後、首を切り落とした。神父殺害事件に衝撃を受けたフランシスコ法王は同神父を殉教者として列聖することを決めた。そして今回、フランス教会が世界に誇ってきたノートルダム大聖堂の火災だ。

     フランス教会は過去、多くの犠牲を払う一方、聖職者の未成年者への性的虐待問題に悩んできた。すなわち、フランスのカトリック主義は21世紀に入り、悩んでいる。先のプレッセ紙のシュヴァルツ記者は「マルセル・プルースト(1871~1922年)は想像できないだろう。信仰が国家の支配で苦しむのではなく、教会の下で苦悩していることを」と述べている。

     明確な点は、教会の建物は時間がかかるが復旧できる。しかし、失いつつある信仰を呼び戻すことはさらに困難な課題だろう。華やかな大聖堂を再建したとしても、「神の宮」の大聖堂を支える信仰が見られなかったならば、そこを訪れる者は旅行者だけで、大聖堂は博物館となっていく。

     ただし、崩壊した大聖堂復旧で国家と国民が結束し、連帯できれば、ひょっとしたら“信仰のリバイバル”をもたらす契機となるかもしれない。災い転じて福となすという故事があるからだ。

    (ウィーン在住)

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