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中国攻勢で迫る台湾危機

米コラムニスト ジョージ・ウィル

クアッドで中国に対抗
トルーマンの外交を踏襲

ジョージ・ウィル

 

 40年前のロナルド・レーガン大統領をほうふつさせる素晴らしい外交デビューだったと言うと、バイデン大統領、ブリンケン国務長官は困惑するかもしれないから、ここでは、トルーマンのようだとしておこう。アラスカ州アンカレジで18、19日に行われた米中高官協議で激しいやり取りがあったが、それ以前から、バイデン、ブリンケン両氏は、外交では通常、確信を持ち、その確信を相手にも分からせることが賢明なやり方という原則を踏襲しているようだ。

◇冷戦は善悪の戦い

 ハリー・トルーマンは、大統領就任からわずか12日目の1945年4月23日に、これを実践していた。ソ連のビャチェスラフ・モロトフ外相と大統領執務室で会った際、トルーマンが、戦時の約束を守っていないと非難すると、モロトフは、そのようなことを言われたことはないと反論。トルーマンは、「合意を実行していれば、そのようなことは言われない」と一蹴した。フランクリン・ルーズベルト大統領は、ロシアの元駐米大使に「(スターリンに)与えられるすべてを与え、見返りに何も求めず、ノブレス・オブリージュの精神を示せば、どこも併合しようとはせず、民主主義世界と平和のために働くはずだ」と語ったと報じられている。テキサス州のトム・ペンダーガストの利益誘導政治の申し子トルーマンの考えとはまるで違う。

 レーガン大統領は就任9日目の最初の記者会見で、ソ連を相手にするときは、「自国の目的を達成するためなら、罪を犯し、うそをつき、だますことは可能と考える国」であることを忘れてはならないと指摘した。1982年6月8日の英下院での演説で、冷戦は善と「全体主義の悪」とのせめぎ合いと呼んだ。83年3月8日の演説では、ソ連を「悪の帝国」「現代世界の悪の中心」と呼んだ。レーガンはこれらを基に、冷戦を再び善悪の戦いとして捉える政策を推進した。レーガンは、最終決戦、つまり「こちらが勝ち、あちらは負ける」戦いを実行するには善と悪を明確にする必要があるが、リチャード・ニクソン大統領のデタント(緊張緩和)によって冷戦からこの善悪という概念が失われたと考えていた。

 バイデン、ブリンケン両氏は、中国との競争が終結するようなことがあっても、それほど決定的な形で終結するとは考えていないはずだ。中国をソ連のような「ロケット砲を持ったオートボルタ(貧しい軍事大国)」と見ることはできない。モイニハン上院議員は80年代に、台頭するアジア諸国が、まだここに中国は入っていなかったが、世界中に集積回路を行きわたらせている一方で、ソ連は、「狩猟社会の交易品である魚の卵と毛皮を売り歩いている」と語った。しかし、中国は世界経済の中に組み込まれているため、野蛮、危険という言葉だけでその姿を正確に説明することはできない。

 米国の財界は、自国の犯した罪に対してはしつこく追及するが、一方で、強制労働で作られた中国の製品から利益を得、レーニン主義の独裁者の気に障るようなこと、中国での事業が難しくなるようなことは言わない。しかし、これからは、このような中途半端な姿勢では立ち行かなくなる。5カ月前、ポンペオ前国務長官は、中国のウイグル族弾圧を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定し、当時大統領候補だったバイデン氏も同様の考えを示した。

◇政治局員らに制裁

 バイデン氏は最近、インタビュアーからの質問を受けて、ロシアのプーチン大統領は「殺人者」だと認める発言をしたが、10年前、ニューヨーカー誌のインタビューで、プーチン氏に「あなたには心がない」と言ったことがあると話している。

 ブリンケン氏は、中国政府が条約に反して、香港の民主主義を「力ずくでつぶしている」と露骨に指摘したが、これは称賛に値する。アラスカでは、中国共産党の外交トップが、2分以内とされていた開幕の言葉の制限時間を無視して、16分間話した。アラスカでの会合の前日、ブリンケン氏はうわべを取り繕うことなく、共謀して2021年の香港を1939年のアジア版チェコスロバキアにしたとして、25人からなる政治局の局員を含む24人の中国政府高官を制裁対象とした。

 中国はことあるたびに「屈辱の世紀」(第1次アヘン戦争から、国共内戦で1949年に共産党が勝利するまで)と言ってきた。その中国が米国の「見下すような態度」に対してとげとげしい反応を示したことは、不安定な状態が長く続く可能性を示している。これは、バイデン、ブリンケン両氏が、中国への対抗勢力として、米、インド、日本、オーストラリアからなる「クアッド」をまとめることに成功すれば、さらに強まる可能性がある。この4カ国を合わせると、人口は18億5000万人、国内総生産(GDP)は総額30兆8000億ドルになる。対する中国は、人口14億人、GDPは14兆3000億ドルだ。クアッドは、トルーマンがモロトフ氏との激しいやり取りから1年10カ月後に上下両院合同会議で発表したソ連封じ込め策に似たものになる可能性がある。

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