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みずから敵を作って自滅する中国

 ここ数日、香港国家安全法を巡る中国の話題を取り上げることが増えています。香港は日本の大事な友人ですが、その香港の自由が失われていくのを見るのは悲しいです。ただ、見方によっては、中国は現在、猛烈な勢いで自分から国際社会における味方を失わせているという言い方もできるのかもしれません。たとえば先日も日本の沖ノ鳥島のEEZに中国船が侵入し、勝手に海洋調査を実施したようですが、二階派などの親中派の肩身は狭くなるばかり。まさに「みずから敵を作って自滅する中国」、というわけですね。


「弱体化」といえるのか?

 自民党内部で習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の国賓来日中止を日本政府に求める動きが生じているとする話題については、先日、『初動としては歓迎したい「習近平訪日中止要請」=自民』で取り上げました。

 そして、『習近平訪日拒絶は妥当だが、次の一手はとても難しい』でも紹介したとおり、結局、自民党は「中国との関係を重視する二階派にも配慮」し、原案の文面を微修正したうえで、習近平氏の来日中止を求める文面が7日の政調審議会で了承され、菅義偉官房長官に手渡されたようです。

 いちおう、その元記事のリンクを再掲しておきましょう。

自民、中国非難決議を了承 習氏来日中止要請は文面修正


自民党は7日の政調審議会で、中国による香港への統制強化を目的とした香港国家安全維持法に対する非難決議を了承した。<<…続きを読む>>
―――2020.7.7 12:52付 産経ニュースより

 ただ、産経によると、中山泰秀外交部会長らがまとめた原案の「中止を要請する」とする文言が、「党外交部会・外交調査会として中止を要請せざるを得ない」とする内容に修正されたのだそうです。

 これを巡って一部メディアは「表現がマイルドになった」などと報じているようですが、個人的には、冷静に読み返すと、べつに内容はほとんど変わっていません。そして、これを「二階派への配慮」と見るのであれば、逆に、二階派とやらの力もずいぶんと弱くなったものだと思う次第です。

意外としたたかな香港

●香港の人々はどう考えているのか

 さて、以前から当ウェブサイトでもたびたび述べて来たのですが、香港の問題を巡っては、日本としてできることには限界があります。私たち日本人が「香港は自由であるべきだ」、「香港に民主主義が根付くべきだ」、などと述べたところで、それは香港人の意見ではないからです。

 もちろん、急変する香港の情勢を巡り、連日、悲観的な報道を相次いで目にします。たとえばたとえばニューズウィーク日本版には7日、『香港の挽歌』などと題する、6000文字弱の長文が掲載されています。

香港の挽歌 もう誰も共産党を止められないのか


今年の6月4日、香港のビクトリア公園にはほとんど人影がなかった。昨年とは大違い。一昨年やそれ以前にも、こんな光景はなかった。30年という歳月のせいではない。1989年のこの日に北京の天安門広場で民主化を求める無数の人々が中国共産党の手で虐殺されて以来、香港市民は毎年、この公園に集まって抗議の意思を表してきた。<<…続きを読む>>
―――2020年7月7日(火)11時20分付 ニューズウィーク日本版より

 このニューズウィークの記事は、香港が置かれた状況を示すという意味では、一面では適切な記事なのだと思いますが、ただ、この手の記事を読んで、個人的に気になるのは、「香港の人々がどう考えているか」という論点です。

 そもそも論として、中国共産党としては、「金のタマゴを生むガチョウ」を殺すようなことはしたくないはずであり、香港社会がいままでどおり、活力のある金融センターとしての地位を維持することを望むでしょう。その観点からは、過度に香港の自由を取り締まるのかどうかは不明です。

 また、報じられる映像からは、あたかも香港の人々が全員、今回の国家安全法に反対しているかのように見えなくもないのですが、果たしてそれは事実なのか、少し考えてみる必要があるかもしれません。なかには「経済的繁栄が保証されるなら政治的自由はいらない」と考える人もいるかもしれないからです。

●香港人、意外と冷静?

 著者自身も若いころ、格安航空券を求めては全世界を旅していたのですが、香港が旅行の起点として、あるいは乗継(トランジット)の拠点として、非常に便利な場所にあることから、昔から何度も渡航してきました。

 その際、街に滞在した印象ですが、香港の人々は私たち外国人が考えているよりもはるかに商魂たくましく、したたかです。いわば、「上に政策あれば下に対策あり」の中国人が英国流の合理主義を身に着けたようなものですね。

 さらには社会人になって以降も、会計士という仕事がら、直接・間接に、投資スキームや持株会社などの形で香港と関わって来ました。電話口で、香港人のあの訛りの強い英語に、思わず何度も何度も聞き返したのは、今となっては良い思い出です(笑)。

 いずれにせよ、香港の「友人」を自負する1人の個人としては、香港の自由が損なわれる法制が入ってくること自体、非常に悲しいと思いますし、香港が香港でなくなっていくのをあまり見たくもありません。

 ただ、この問題を巡っては結局、私たち日本人が香港のために「素晴らしい制度を考えてあげる」、といったことはできないのであり、あくまでも香港人が決めた方針を外から応援するしかできないのであり、習近平の訪日中止や中国に対する経済制裁も、結局は「外から応援する」手段のひとつに過ぎないのです。

 いや、もう少し正確に言えば、日本が日本の国益を追求するなかで、香港を助けてあげられる局面があれば、助けてあげればよい、という話でしょう。

●香港の金融センターの地位

 さて、もうひとつ考察しておくべきは、香港の金融センターとしての地位がどのようにつくられているか、という論点です。

 これについては『香港に対する制裁は「ドルペッグ外し」だけでは不十分』でも触れましたが、香港ドルが米ドルにペッグ(固定)している点は、たしかに香港が国際金融センターとしての地位を固めるうえでの要素のひとつです。

 しかし、香港が国際金融センターとしての地位を確かなものにしている理由は、それだけではありません。たとえば、日本法と異なり、香港の法体系はさまざまな意味で非常に使い勝手が良く、また、香港人も法をよく守るのです。

■香港の金融センターとしての強みの原因


①香港ドルの米ドルに対するペッグ制度
②資本移動が自由であり、資金決済・外国為替などの利便性が高い
③税金が安く税制が簡素である
④投資などに関する法制度の使い勝手が良い
⑤香港社会では法律や契約が非常に良く守られる

…等々

 この点、たとえば北朝鮮が開城(かいじょう)や清津(せいしん)あたりを、韓国がソウルや仁川(じんせん)あたりを「経済特区」に指定したとしても、西側諸国のまともな企業はどこも進出しないでしょう。なぜなら北朝鮮と韓国は約束破りの常習国家だからです。

人質外交にどう立ち向かうか

●香港に見る中国の「人質外交」

 つまり、香港の金融センターとしての地位は、単に法制度を整えただけでなく、そこに暮らす人々、香港の行政の仕組み、街の風土などが複合的に寄与しているものであり、今回の法律「だけ」によって香港の金融センターの地位が消滅する、と考えるのは、いささか論理が飛躍しています。

 もちろん、香港国家安全法の混乱により、米国が本腰を入れて香港制裁を実施するとなれば、話はまったく変わって来ますが、その際には米国もそれなりの「返り血」を浴びる覚悟をもつ必要があります。

 このため、米国が中国に一泡吹かせるためには、いきなり香港制裁をするのではなく、なにか別の手段(たとえば北朝鮮に対する軍事攻撃など)を講じる方が効率的ではないかと思えるのです。

 そして、立場を中国に置き換えると、香港という国際金融機能も「人質」に取り、「どうせ米国は本格的な香港制裁などできっこないだろう」とタカを括っている、という側面も見えてきます。

 中国が持っている「人質」は、これだけではありません。

 現在の中国は紛れもなく「世界の工場」であり、世界各国の産業のサプライチェーンに組み込まれていて、中国からの物流などが混乱すれば、全世界に影響が及ぶ、という側面があります(※その意味でも、半導体産業や5G通信産業などのキーデバイスを中国に握られてはならないのですが…)。

 だからこそ、中国との関係をやたらと重視する勢力が世界各国に存在するのだと思います(日本だと自民党の二階派や経団連、日経新聞社などがその典型例でしょう)。

●沖ノ鳥島EEZに侵入する中国

 ただ、最近、中国は自分で自分の力を弱める行動を取ってくれているのもまた事実です。

昨日、菅義偉内閣官房長官は午前の会見で、9日の午前から10日の未明にかけて、沖ノ鳥島の排他的経済水域(EEZ)内で中国の海洋調査船がワイヤーのようなものを使用して海洋調査を行っていたと発表しています(動画の11:20~)。

内閣官房長官記者会見(令和2年7月10日(金)午前)


―――2020/07/10付 首相官邸HPより

 菅官房長官は、当該海域での海洋調査について、中国側に同意を与えていないと明言しました。このように、外国の領土・領海・EEZなどに我が物顔で侵入して調査を行う、といった行為を繰り返していれば、日本から中国の「味方」がいなくなるのは当たり前の話です。

 そういえば、インチキ外交やウソツキ外交を通じて「自分で自分の味方を積極的に減らしている国」というものが、東アジアには中国以外にもう2ヵ国あるようですが(笑)、いずれにせよ、彼らの示威行為は日本を含めた周辺国に良い影響を与えていないことだけは間違いないでしょう。

●日本人は肚を固めよ

 さて、当ウェブサイトでは水曜日、日本を代表する優れた韓国観察者の鈴置高史氏の論考を紹介しました。

納得の鈴置論考「韓国は北朝鮮についていく下駄の雪」


昨日はデイリー新潮に、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が最新論考を掲載されています。今回のテーマは非常に大きく、「米中対立で朝鮮半島が『コップの中の嵐』に過ぎなくなる」というものです。非常に長文ですが、読みやすく、かつ緻密であり、納得の論考です。ちなみに鈴置氏は本日、愛知淑徳大学の真田幸光教授とともにBSフジ『プライムニュース』に出演されるそうですが、楽しみですね。<<…続きを読む>>
―――2020/07/08 05:00付 当ウェブサイトより

鈴置論考の最新稿のリンクをあわせて示しておきましょう。

米中全面対決で朝鮮半島は「コップの中の嵐」に転落 日本の立場は


米中が全面対決する。南北朝鮮の争いは、もはや「コップの中の嵐」に過ぎない――と韓国観察者の鈴置高史氏は断ずる。


―――2020年7月7日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より<<…続きを読む>>

 この鈴置論考では、末尾にこんな記述があります。

「鈴置:韓国はいざとなれば米国との同盟を打ち切って、完全に中国側に行く手があります。その際、米国からは冷遇されるでしょうが、板挟みからは逃れられます。共通の敵を失った米韓同盟はすでに風前の灯です。もともと、朝鮮半島の歴代王朝は中国大陸の王朝の属国だった。多くの韓国人はうれしくはないでしょうが、米韓同盟の破棄を受け入れるでしょう。一方、日本人は米国との同盟を失うわけにはいかない。中国の風下に立つつもりはないからです。結局、日本にとって米中板挟みが常態化するのです。」

 この指摘、二階派の議員の皆さんや経団連企業の経営者の皆さんには、じっくりと噛み締めていただきたい部分です。要するに、韓国には海洋同盟を捨て中華属国に戻るという手がある一方、日本は今後、常に中国と対峙しなければならなくなる、というものです。

 ただ、これは地政学的に見て、当たり前ですね。

 なにより、日本は韓国や北朝鮮のごとき「万年属国」ではありません。1945年に敗戦するまでは、有色人種の国でありながら立派に独立を維持し、しかも自力で近代化を果たした強国だったからです(ついでに自立できない隣国の面倒まで見てあげたほどのお人好しです)。

 意外と日本人は中国を過大評価し過ぎであり、日本を過小評価し過ぎです。

 もちろん、中国に油断して良いという話ではありませんが、この際、鈴置氏流にいえば「肚を固める」ときが到来したのではないでしょうか。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20200711-02/

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