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「防疫先進国」台湾の存在を世界に知らせたコロナ禍

中共政府が主張する「1つの中国」

「WHOの年次総会や国連関係の会議に、台湾のオブザーバー参加を支援するよう、すべての国に訴える。WHOのテドロス・アダノム事務局長に対し、台湾を年次総会に招待するよう要請した」

 テレビ会議という異例の方式で、5月18日に開催される予定のWHOの年次総会(WHA)を前に、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官は5月6日、記者会見でこう語った。米国務長官は「世界一の防疫先進国」である台湾の参加を支持するよう、世界各国に呼び掛けるとともに〝媚中〟テドロス・アダノム事務局長を牽制した。

 中国国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は、翌日の5月7日、「最近、民進党と台湾独立を企てる分離主義勢力は、新型コロナウイルスの流行に便乗して、WHOの問題への台湾の関与を誇大宣伝し、『1つの中国』の原則に挑戦している」と反発した。

 台湾は「中華台北」の名義で、2009年から2016年にWHO年次総会に招かれたが、香港出身のマーガレット・チャン氏が事務局長時代の2011年5月、WHOが内部文書に、台湾を「中国台湾省」と表記したため、台湾はWHOに正式抗議したことが報じられた。

 民進党の蔡英文総統が就任後の2017年5月からは、中共政府の反対でオブザーバー参加はできなくなった。寄付の申し出すら複数回、拒絶されている。

 米上下両院外交委員会の幹部は5月8日、日本を含む55ヵ国の政府に書簡を送った。書簡には、「我々は貴国政府に対し、アメリカとその他の国のように、台湾を排除する中国の『国際組織外での行為』を終わらせるよう要請する」という一文が含まれていた。安倍政権も、台湾のオブザーバー参加を支持する立場を表明した。
 台湾外交部の欧江安報道官は5月9日、アメリカへの深い謝意を示した。

変化する欧州の対中政策

 さて、書簡に記された「国際組織外での行為」が暗に何を示すのか? 
その1つは、1月下旬、中欧チェコの有力政治家の身に起きた悲劇が私の脳裏に思い浮かんだ。台湾訪問を2月に予定していたヤロスラフ・クベラ上院議長が1月20日、心臓発作で急逝した事件である。クベラ氏急死と中国の関係については、ロイター(日本語版)も2月19日、「中国がチェコ企業への報復示唆、高官の台湾訪問巡り」とのタイトルで報じている。

 在チェコ中国大使館が1月10日付で、チェコ大統領府に送った書簡には、「中国に経済的利益を持つチェコ企業は、クベラ上院議長の台湾訪問の代償を払わなければならなくなるだろう」と記され、具体的な企業名も挙げられていた。公然なる脅迫だった。クベラ上院議員の未亡人と娘が国営テレビの番組に出演し、「夫は中国政府に脅迫されていて、そのストレスが急死の引き金になった」と衝撃的な告白もしている。

 欧州連合(EU)加盟国は、中国との政治経済での関わり具合において、それぞれ温度差はあるが、コロナ禍のなかで台湾の防疫体制を絶賛し、中共政権を暗に非難する声は、メディアが次々と発信していた。
フランスの日刊紙『ル・フィガロ』は3月17日、「台湾の民主的な統治モデルは防疫に成功した。中国の中央集権的な防疫モデルへの挑戦だ」との記事を掲載した。

 欧州で発行部数が最多のドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』もWHO年次総会を前に、こんな記事を出していた。
「習近平国家主席が1月21日、WHOテドロス事務局長と行った電話会談で、武漢のウイルスのヒト感染に関する情報と、パンデミックへの警告の公表を延期するよう組織に要請した」
「ドイツ連邦情報局は、『中国の情報が不透明なため、世界中が四週間から六週間、ウイルス対策の時間を失ったと推定している』との見解を発表した」

 5月16日には、元欧州議会議長・欧州大学院の元総長で、欧州連合外務・安全保障政策上級代表のジョセップ・ボレル氏が、ドイツの日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』に、「中国との関係における信頼と相互利益」というタイトルで寄稿をした。その内容の一部を以下に記そう。

 「中国の病院が大変な負担を負っている最中、EUは大規模な支援を提供してきたが、この事実をあまり宣伝しようとはしなかった。中国はその後、欧州に医療機器を送ったが、それを世界に知らしめようとした。お互いを助け合い、団結しなくてはならない時、援助から政治的何かを獲得することを避けるべきだ」

 中国の「誇大宣伝」への戒めであり、欧州人らしいシニカルな非難ともいえる。

「国際社会の勝利」とキーワードは「透明性」

 米英を中核に情報諜報機関が連携するファイブアイズ(アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)の1国、オーストラリアは早い時期から新型コロナウイルスの起源と初動対応、パンデミックに関する「独立した調査」の必要性について声を上げてきた。そして、マリーズ・ペイン外相は、中国政府に対して「政治的な操縦だ」と主張してきた。
「公平で、独立的で、包括的であること。新型コロナウイルスに関する『独立した調査』の開始を求める動議草案で、われわれはこの3つを強調してきた」

 WHO年次総会初日の5月18日、ペイン外相はシドニーで記者団にこう語った。肝いりの動議を、欧州連合と英国、日本、ロシア、カナダに加え、アジアやアフリカ諸国など122ヵ国が支持したことに歓迎の意を表した。

 EUが起草する動議との内容調整も続けてきたことから、ペイン外相は「決議は、我々が開始した対話の重要な部分であり、EU加盟国とここ数週間の交渉に関わった多くの草稿者の努力に大変感謝している」と述べ、世界的な支持の高まりを、「国際社会の勝利」と表現した。

 この「国際社会の勝利」が意味するものは、私の解釈では「自由と民主」「法の下の平等」「人権」を価値とする国家、世界の代表者らが話し合いで物事を決めることの大切さの勝利。そして中国のマネー工作=唯物的かつ非民主的手段の敗訴、である。
そして、もう1つ、私がこの数ヵ月、世界のマスメディアを読み続け、そして識者の発言を聞き続けるなかで、新たなキーワードにも気づいた。

「透明性」である。

WHO年次総会でも多用されていた。

 アメリカのアレックス・アザー米厚生長官は、「少なくとも1つのWHO加盟国が、新型コロナ発生の隠蔽を試みたことは明白で、透明性という義務をあざ笑った」と、名指しはせず中国を批判した。
 これに対し、中国の馬暁偉国家衛生健康委員会主任が「透明性があり責任ある姿勢で、発生の通知やウイルスの遺伝子の情報を共有するなどして国際社会と協力してきた」とアメリカなどの主張に真っ向から反論した。

 そして、締めくくりのテドロス事務局長の挨拶は、「WHOは、透明性の確保や説明する責任を果たすこと、それに改善を続けることを約束する」だった。

 国際社会は「透明性がない=隠蔽体質」の大国、一党独裁政権とそこに唯物的価値で仕える組織・人間と戦っている。

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