ワシントン・タイムズ・ジャパン
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入国拒否などの政令前倒しの一方で台湾問題も浮上

 先ほどの『【読者投稿】新型肺炎、日本は「いつもどおり」で良い』では、「科学が風評に負けてはならない」という点を強く主張させていただきました。これに続き、本稿でもコロナウィルスに関する最新の情報について、関連する法令などを交えてまとめておきたいと思います。とくに、WHOのガバナンスの問題や、WHOなどの国際機関が台湾を排除している問題を巡っては、早急な対策が必要です。


コロナウィルス情報の更新

 新型コロナウィルスやそれに関連する肺炎の蔓延が話題となるなかで、現役の医師としての立場から執筆していただいた冷静でわかりやすい論考については、先ほどの『【読者投稿】新型肺炎、日本は「いつもどおり」で良い』で紹介したとおりです。

 これとは別に、本稿ではコロナウィルス関連の最新情報について、いくつかアップデートしておきたいと思います。

WHOの問題

●WHOが緊急事態宣言

 最初に取り上げておきたいのは、次の話題です。

中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎に関する世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言


世界保健機関(WHO)の緊急委員会は、1月31日未明(日本時間)、中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生状況が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC: Public Health Emergency of International Concern)」には該当すると発表しました。これを受け厚生労働省では、WHOからの発表内容を精査した上で、必要な対応を講じてまいります。<<…続きを読む>>
―――2020/01/31付 厚生労働省HPより


WHOの報道発表の原文は “Statement on the second meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the outbreak of novel coronavirus (2019-nCoV)”で読めます。

●緊急事態宣言とは?

 厚労省によると、この「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」とは、WHOの『国際保健規則』で定める、次のような事態のことです(※長いので本稿では「緊急事態宣言」とでも略したいと思います)。

①疾病の国際的拡大により、他国に公衆の保健上の危険をもたらすと認められる事態
②緊急に国際的対策の調整が必要な事態

 また、過去に「緊急事態宣言」が出されたケースとしては、次のようなものがあるそうです。

・2009年4月 豚インフルエンザA(H1N1)(新型インフルエンザ)
・2014年5月 野生型ポリオウイルスの国際的な拡大
・2014年8月 エボラ出血熱の西アフリカでの感染拡大
・2016年2月 ジカ熱の国際的拡大
・2019年7月 コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱の発生状況

 このうちの「豚インフルエンザ」については、先ほどの「りょうちん」様の論考でも出て来ましたね。なんでも緊急事態宣言を行ったわりには「大山鳴動して鼠が10匹くらい出てきた」(りょうちん様談)というものだったそうです。

●WHOは中国べったり?

 しかし、WHOの対応も、何だか見ていて右往左往しているという印象を抱きます。

・最初は緊急事態宣言を出し渋っていたわりに、被害が拡大し、感染者が全世界で出始めたら、現地時間30日夜になって、やっと緊急事態宣言を出した。

・新型肺炎に関する26日付の状況報告で世界的な危険性評価を巡り「表記に誤りがあった」として「並」を「高い」に訂正した。

 これだとまるで、WHOが中国に配慮するあまり、必要な対策を出し渋っていたかのように疑われても文句は言えません。こうしたなか、産経ニュースに本日、WHOの対応が「後手に回った」とする、非常によくまとまった記事が掲載されています。

中国に配慮か 緊急事態宣言で後手に回ったWHO(2020.1.31 09:23付 産経ニュースより)


 リンク先は産経の板東和正記者が執筆した1000文字弱の記事ですが、WHOの緊急事態宣言が遅れたことを巡って、仏ルモンド紙の報道などをもとに、「中国政府がWHOに対し、緊急事態宣言を出さないよう圧力をかけたとの疑惑も取り沙汰される」、などと指摘しています。

 しかも、坂東記者によると、通常、緊急事態宣言直後にはWHOから渡航制限勧告などが出される可能性が生じるにも関わらず、WHOのテドロス事務局長は30日夜の緊急委員会後の記者会見で「(中国への)渡航や交易を制限する理由は見当たらない」と否定したのだそうです。

 ちなみにテドロス氏自身は「中国から巨額投資を受けるエチオピアの元保健相」だけに、「緊急事態宣言を避けたい思惑があるとみられる中国を忖度した可能性」がある、というのが産経の見解です。

 普段の中国の行動を見れば、中国が自国にとって都合が悪い情報を隠蔽しているのではないか、そしてその中国がWHOなどの国際機関に対しても圧力をかけているのではないか、という疑念を抱いても仕方がありません。

もっとも、先ほどの『【読者投稿】新型肺炎、日本は「いつもどおり」で良い』の末尾でも報告しましたが、中国当局がいくら情報を隠蔽しようとしても、自国外の発症例・死亡例についての情報を隠蔽することはできません。

 そして、少なくとも昨日正午時点において、合計7797人の発症例があり、このうち全体の約99%に相当する7711人が中国の発症例ですが、残り86人については中国国外の発症例であり、この86人のうち死亡者はゼロ人です。

 このように考えていくならば、過度に不安を煽るのではなく、「現在わかっていること」と「科学的な知見」を組み合わせて、現状を丁寧に把握する努力こそが重要ではないでしょうか。

ヒトの流れから台湾まで

●日本、明日から患者の上陸拒否が可能に!

 さて、先ほど米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、米国務省が米国市民に対し、中国に渡航しないように勧告した、と報じています。

WHO Declares Coronavirus Outbreak a Global Public Health Emergency(米国時間2020/01/30(木) 21:50付=日本時間2020/01/31(金) 11:50付 WSJより)


 そこで、わが国でもヒトの流れを制限すべきではないか、という議論が出て来るのは当然の話なのですが、ここで冷静に考えなければならないのは、わが国が法治国家であり、自由主義経済圏でもあるため、「ヒトの流れの制限」についても、法律に根拠がなければ実施することはできません。

 ここで、パターンとしては次の2つがあります。

①日本から相手国へのヒトの流れの制限
②相手国から日本へのヒトの流れの制限

 このうち②については、本日、進展がありました。政府は今回のコロナウィルスについて、「指定感染症」に指定するという政令の施行を2月1日(つまり明日)に前倒しすることを決定したのです。

内閣官房長官記者会見(令和2年1月31日(金)午前)


「指定感染症」、「感染症法」でいう「その疾病の蔓延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるもの」として政令で定めるもののことです(感染症法第6条第8項)。

■感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 第6条第8項


この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。


 これにより、指定感染症の患者に加え、その「所見」がある場合も、上陸を拒否することができるようになります。

■出入国管理及び難民認定法 第5条第1項(抄)


次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。

一 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に定める一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症若しくは指定感染症の患者又は新感染症の所見がある者


 もっとも、「重慶からのすべての観光客を入国拒否する」、といった対応はできません。条文上は、あくまでも「感染症の患者」や「所見がある場合」に限られます。

●日本から相手国への渡航制限は難しい

 ただ、「相手国から日本への渡航制限」については、出入国管理法や感染症法、検疫法などによって規制をかけることができるのですが、「日本から相手国への渡航制限」については、これまでに何度か当ウェブサイトでも紹介して来たとおり、法的な強制力を伴った制限をすることはできません。

 これについては、過去に『総論:経済制裁について考えてみる』/などでさんざん議論してきたとおりですが、要するに、日本の個人がいったん第三国に出国してしまえば、日本の当局には、その個人の行方を監視する手段などないのです。

 ちなみに北朝鮮への旅行について、外務省の『海外安全ホームページ』を見ると、次のように書かれています。

中国における新型コロナウイルスに関する注意喚起(その6)


 我が国は、1月21日に中国全土を感染症危険情報レベル1(注意喚起)に、また24日に湖北省をレベル3(渡航中止勧告)に引き上げました。引き続き、湖北省への渡航を控えてください。
―――2020年01月31日付 海外安全ホームページより


 リンク先を読んでいただければわかりますが、あくまでも記載は「渡航を控えてください」であり、「○○法第何条の規定により、この地域に渡航することを禁止します」、ではありません。渡航先を禁止する法律が存在しないわけですから、あたりまえですね。

 ちなみに北朝鮮への旅行について、外務省の『海外安全ホームページ』を見ると、次のように書かれています。

■2017年4月10日 全土:「渡航を自粛してください。」(継続)


北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返しています。こうした状況も踏まえ、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決のために我が国がとるべき最も有効な手段は何か、という観点から、一連の我が国独自の対北朝鮮措置を実施しています(「我が国独自の対北朝鮮措置について」)。

その一環として、人的往来の規制措置、具体的には我が国から北朝鮮への渡航自粛要請が含まれています。

つきましては、目的のいかんを問わず、北朝鮮への渡航は自粛してください。e


 こちらも、「目的のいかんを問わず、北朝鮮への渡航は自粛してください」となっていますが、「渡航を禁止します」とはなっていない点には注意が必要といえるでしょう。

●「台湾を排除するWHOやICAOに国際社会からの批判」

 さて、新型コロナウィルス関連で紹介しておきたい記事が、もうひとつあります。

 まずは情報源を見ずに、次の文章を読んでみてください。

「中国で確認された新型コロナウイルスによる肺炎の拡大を巡り、感染防止を担う国連の世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)が台湾を排除していることに批判が相次いでいる。WHOは技術面で台湾に協力していると説明するが、ICAOは台湾への防疫情報提供を求めるツイッターのアカウントを次々とブロック。米下院の外交委員会がICAOの対応を非難している。」

 台湾はWHOやICAOなどの国際組織から排除されていて、今回のコロナウィルスに関しても、中国から地理的に近い場所にあるにも関わらず、国際機関からの情報入手に制限がある、という状況に陥っています。

 当然、中国がこれらの国際機関に不当な圧力を掛けているであろうことは想像に難くないのですが、上記記事は、こうした台湾を排除するWHOやICAOの姿勢を舌鋒鋭く批判するものであり、非常に公正な内容の記事です。

 では、この記事の出所は、いったいどこでしょうか。産経ニュースでしょうか、それとも独立系メディアでしょうか。

 答え合わせをしておきましょう。なんと、この記事は毎日新聞のものです。

■新型肺炎対応の協議から台湾を排除 WHOやICAOに国際社会から批判(2020年1月30日 22時14分付 毎日新聞デジタル日本語版より)
 記事末尾には「台北・福岡静哉」とありますが、その福岡記者は、こう指摘します。

「台湾は中国の反対で国連に加盟できていない。対中融和路線の国民党政権ではWHOやICAOの関連会議には招かれていた。/しかし『一つの中国』を受け入れず中国と対立する民進党の蔡英文政権が2016年に発足すると、排除された。」

 あまりわが国のメディアが報じない重要な論点ですが、WHOガバナンス改革と並んで台湾の国際社会からの排除は非常に深刻な問題でもあります。

 福岡氏によれば、昨日は安倍晋三総理大臣が参院予算委員会で、「台湾のWHO加盟が必要だ」と述べたそうであり(※このこと自体は共同通信の記事でも報じられています)、これに対し蔡英文総統が30日、記者団に「台湾支持に感謝する」と応じたのだそうです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 当ウェブサイトでは普段、毎日新聞の記事については、朝日新聞や東京新聞などと並び、批判的に取り上げることが多いのですが、リンク先の記事については「よくそこまで調べて報じてくれた」という思いがします。その意味では、公正に取り上げておく必要はあると思った次第です。

 いずれにせよ、今回の中国発の伝染病問題を契機に、中国という国の情報隠蔽体質の問題点が日本や世界で広く共有されたことは非常に良かったと思いますし、これを機に、一気にWHO改革にまで議論が進むことを期待したいと思います。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20200131-03/

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