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習政権の「終わりの始まり」? 米中戦争の中核ファーウェイ事件

CFO逮捕と同日の自殺

 師走の初日、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)の逮捕のニュースが世界を駆け巡った。米国の対イラン経済制裁をめぐる詐欺容疑で、カナダで御用となったのだ。11日(現地時間)に約8億5千万円で保釈を認められたが、その翌日の記者会見で、カナダのクリスティア・フリーランド外相が、中国で拘束されたカナダ人元外交官、マイケル・コブリグ氏とは別のカナダ人男性1人が、中国当局の聴取を受けているとの情報を明らかにした。

 その男性は、遼寧省丹東市を拠点に北朝鮮観光や文化交流事業を手がけていた実業家のマイケル・スパバ氏で、米バスケットボール協会(NBA)の元人気選手、デニス・ロッドマン氏の北朝鮮訪問や、金正恩朝鮮労働党委員長との会見にも関わったという。

 中国外交部も翌日の13日、国家安全に危害を与える行為に関わった疑いで、中国当局がカナダ人2人を拘束していることを認めた。ファーウェイCFOの孟容疑者の逮捕を受けた「報復」の可能性とともに、孟容疑者の「米国移送阻止」のために圧力をかける姿勢が鮮明になった。

 ファーウェイの創業者、任正非・最高経営責任者(CEO)の娘である孟容疑者が、「次期CEOの有力候補」に浮上していたことは報道の通りだが、中国側が公然と言い放つ「一民間企業のCFO」であるのなら、政府がなぜこれほど動揺するのか? 

 さらに、世界の注目が彼女に集まる中、香港や米ニューヨークを拠点とする反共産党系の中国メディアは、この件に関連するある大物の自殺の話題で盛り上がっていた。

 張首晟・米スタンフォード大学物理学終身教授の自殺である。トポロジカル絶縁体と量子スピンホール効果で画期的な成果をあげ、「将来のノーベル賞受賞の有力候補」と目されていた彼が、ファーウェイの孟CFOの逮捕と同日の12月1日、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアにある大学校内で命を絶ったのだ。

 大学のサイトには、同僚の《(張教授は)土曜日の晩、突然亡くなりました。これは壊滅的な損失です》といった弔辞や、家族の《著名な科学者・思想家として知られていましたが、私たちは愛する夫と父親として彼を知り、愛していました》というメッセージが掲載されていた。家族は、張教授が心の病と戦っていたことも明らかにしていた。

 1963年生まれの張首晟氏は、15歳で上海の名門の復旦大学物理系に入学した神童で、大学2年生の頃にドイツに留学、その後、NY州立大学で物理学博士号を取得した。IBM勤務を経て、1993年に33歳でスタンフォード大学の教授となり、1999年からは北京の清華大学高等研究院の客員教授も務めるなど最前線を走ってきた。

 中国政府・企業・大学との緊密な関係を保つようになっていた張教授は、理系分野の最高研究機関である中国科学院に、彼のオフィスと24時間体制で稼働する作業チームも持っていたとされる。また、5月には、江沢民元国家主席の長男、江綿恒氏が学長を務める上海科技大学の特任教授にも就任していた。

「千人計画」の発案者

 実のところ、張首晟・米スタンフォード大学物理学終身教授と江綿恒氏は、2008年12月から実施してきた「千人計画」の発案者だったとの話がある。「千人計画」とは、海外の企業と大学に勤務する研究者、技術者、知的財産と技術保護担当の中国人幹部を対象者に選び、中国の科学的発展のために貢献する〝超ハイレベル人材〟のことだ。

 しかしながら、米連邦捜査局(FBI)は、「中国にリクルートされた個人は、海外で獲得した研究成果まで中国に渡すため、情報や研究財産の盗用など米国法に基づいた違法性がある」と、同計画で選ばれた人材を3年前から捜査対象としており、2018年も次々と〝御用〟になっていた。〝門前払い〟事件も報じられている。「千人計画」に選ばれた中国人学者(中国籍に戻していた)が、米国のある学会に参加する予定だったが、ビザが降りなかったという。米国防省も6月に開催した米下院軍事委員会の公聴会で、「同計画の目的は米国の知的財産を獲得することにある」と警告していた。

 中国の半導体産業の発展のため、学術的観点から重要なアドバイスを続けていると評価される一方、「産業スパイ制度」の考案者との嫌疑がささやかれる張教授は、FBIから捜査中だったと漏れ伝わる中での自殺だった。

 ニューヨークへ逃亡し、中国の恥部を(真偽は別として)暴露し続ける大富豪の郭文貴氏は、「(逮捕された孟CFOなど)軍と国家安全部の上位に位置する者たちは、中国の金融機関から無尽蔵に金が出る」「(張教授が)どこにどれだけの金が必要だと言えば、その通りになっていた」と語っているが、それを裏付けるような事実も出ている。

 習近平国家主席が、国家副主席だった時代、すなわち6年以上前に習近平が密かに創設したとされる「国家一等功」賞で、1位が鳳凰衛視(フェニックステレビ)の劉長楽、2位が阿里巴巴(アリババ)の馬雲(ジャック・マー)、3位が騰訊(テンセント)の馬化騰(ポニー・マー)、4位が華為(ファーウェイ)の任正非、そして5位が張首晟教授だった。

 世界に名をとどろかせる大企業の創業者らに混ざってランクインした張教授は、2013年から学生と丹華資本(デジタル・ホライズン・キャピタル)を立ち上げ、同年と2018年の2回で計4億3450万ドルを集めたという。

 郭文貴氏は、「張教授はアリババの馬会長と連動していた」とも暴露している。2019年の9月の誕生日に引退することを公にしている馬会長だが、中国共産党機関紙『人民日報』(11月26日)が、「馬雲は共産党員だ」と報じたが、彼を逃がさない、囲い込むために放った一撃なのか、欧米メディアが馬会長の素性を暴露する前に先手を打ったのか?

終わりの始まり  

 習近平が表彰した上記の企業4社は、中国関係当局は認めないがいずれも軍企(軍の企業)とされ、習主席の掲げる夢、「偉大なる中華民族の復興」の実現を支える〝屋台骨〟の重要な一角を占めている。

 その屋台骨を長年、「太く大きく」してきたのが、張教授のような〝スーパー頭脳〟と、過去11年間で少なくとも中国旅券4通と香港旅券3通の発行を受け、複数の名前と年齢で「秘密の特務」に就いていたはずの孟容疑者のような〝フロント〟の存在だったともいえる。彼女は人民解放軍と国家公安部に序列がある最高幹部の1人ともささやかれている。

 技術力すなわち軍事力。習政権が掲げた「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025」構想は、「千人計画」で選ばれた〝スーパー頭脳〟と潤沢な中国マネーで達成する算段だったはずだ。中国国家IC産業投資基金は2018年の春、「資金の問題はない。人材と技術、知的財産権(IP)の確保に向け、新たに2000億元(約3兆2670億円)の資金を投じる予定」などと鼻息荒く宣言していたのだ。

 ところが、欧米先進国は中国による知的財産の強奪に対して警戒と牽制モードに転じ、次々とそのための政策を打ち出している。「中国製造2025」も密かに「中国製造2035」となり、達成目標を10年遅らせたとの話も漏れ伝わる。

 ファーウェイの孟CFO逮捕は、中国の一巨大企業の話というより、習政権の「終わりの始まり」なのかもしれない。米国はファーウェイなど中国製の通信機器を使用しないよう友好国に要請しており、欧州の通信各社も中国企業製品の購買戦略を見直す方向へと歩み出している。英仏の大手通信会社は、「5Gネットワークにファーウェイ製品を採用しない」と宣言した。日本も米政府が示す安全保障上の懸念に応えた動きとして、ファーウェイ製品などを政府調達の対象から事実上排除する方針を決めている。

 2019年以降、万が一、5Gネットワークが中国共産党傘下の「軍企」に寡占化されていけば、世界中が中国共産党のコントロール下に置かれるも同然だったのだ。さらにサイバー攻撃による都市機能破壊の可能性、大規模なサイバーハッキング、SNSの監視等、我々も10数億の隣人と同様、恐怖政治の中で暮らすことになりかねなかったが、その中国の野望を欧米先進国が大胆に断ち切る方向へと舵を切っている。

 習政権が掲げる「偉大なる中華民族の復興」、すなわち米国の軍事・経済の世界覇権を奪取するという遠大な戦略は、いきなりぐらついていることだけは明らかである。

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