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日台は運命共同体 李登輝元台湾総統

李登輝元台湾総統インタビュー
日本の最重要課題は憲法改正

 台湾出身者として初の総統となり、民主化を進めた李登輝元総統が、このほど世界日報社のインタビューに応じ、日本と台湾の協力関係や蔡英文政権について語った。

李登輝氏

台北市の自宅でインタビューにこたえる李登輝元台湾総統(加藤玲和撮影)

 李元総統は、台湾における日本の実質的大使館である「交流協会」が今年、「日本台湾交流協会」に名称変更したことなどを挙げ、「台湾との関係をできるだけ正常な関係に近づけたいという考えの現れ」と評価。民主主義や人権など共通の価値観を持ち、共に島国である両国は「運命共同体」であると強調、「インドなどとも連携して、中国の『一帯一路』に対抗していかなければならない」と語った。

 経済分野では、「IoT」(モノのインターネット)で日本の研究開発と台湾の生産技術を合わせれば、世界制覇も夢ではないとし、日本統治時代に台湾に持ち込まれ飼育されていた和牛、但馬牛の繁殖プロジェクトも両国に大きな利益をもたらすと語った。

 日本で日本版台湾関係法制定を求める動きがあることについては、安全保障分野で「大きな影響がある」と指摘した。

 李元総統は世界の現状について、「主導する国家なき戦国時代に入っている」とし、「(日本は)第2次大戦の経験にただ戦争は怖いと怯(おび)えるのではなく、どうやって国の安全を保っていくかを考えなければいけない。そのためには9条を中心とした憲法の改正が必要だ」と強調した。

 誕生から1年2カ月を経過した蔡英文政権については、「中国の自由化を促進するためにも、台湾は中国とは別個の存在だという方向に引っ張っていく必要がある。しかし今の政府はやみくもに『現状維持』を語るばかりで、『台湾をどうしたいか』というビジョンを示し切れていない」と苦言を呈した。

日台新時代を開く
連携し中国「一帯一路」に対峙

李登輝元台湾総統との一問一答は以下の通り。
(聞き手=編集局長・藤橋進、写真=加藤玲和)

IoT同盟、和牛繁殖で共栄を
日本版台湾関係法に期待

東日本大震災で、最も多くの義援金が台湾の人々から届けられたことなどを契機に、日本と台湾との関係はこれまでにない深まりを見せています。今年に入ってから、民間の交流だけでなく、政府レベルでも関係強化の動きが見られます。これをどう評価しますか。

李登輝氏

 1923年台湾生まれ。京都帝国大学農学部を終戦のため中退。台湾大学に編入・卒業。米コーネル大学農業経済学博士。71年国民党入党。台北市長、台湾省主席などを歴任。84年蒋経国総統(当時)から副総統に指名される。88年蒋総統の死去に伴い総統に昇格。96年台湾初の総統直接選挙に当選し就任。総統を12年務め民主化を実現。アジアの哲人政治家と称される。『李登輝より日本へ贈る言葉』(ウェッジ)、『新・台湾の主張』(PHP新書)など著書多数。

 安倍総理は台湾に関心を持ってくれています。例えば台湾における日本の実質的な大使館である「交流協会」を「日本台湾交流協会」という名称に変更した。また3月には赤間二郎総務副大臣が、「多彩日本」というイベントの開幕式出席のため公務として台湾に訪問するなど、安倍政権は台湾を一つの国家として取り扱っているように見えます。これは日本にとって台湾の重要性が一層増していることとともに、日本がこれまで中国の顔色ばかりを窺っていた時代が終わったことを示している。正式な国交がないながらも、日本が台湾との関係をできるだけ正常な関係に近づけたいという考えの現れです。

 台湾も日本も、民主主義、人権、平和を重んじるなど共通の価値観を有しています。しかも、共に四方海に囲まれた島国であり、利害が一致するところも多い。そういう意味で運命共同体であり、これからより一層密接な協力関係を深化させていくべきです。

経済面での協力関係の深化ということで、「日台のIoT同盟」ということを言っておられますね。

 以前、イェール大学名誉教授で内閣官房参与の浜田宏一教授が台湾を訪ねた時、3時間ほど対談をした。その内容は『日台IoT同盟』という本にまとめましたが、その時、浜田教授に「先生の金融・投資の考え方で日本の経済をプッシュする方法は、一時的にはいいでしょうが、最も重要なことはイノベーションです」と申し上げた。つまりイノベーションによって産業構造の全体を変えないといけないと。

 その起爆剤として、その本で提言しているのが、「IoT」です。「モノとモノをつなぐインターネット技術」「Internet of Things」の略ですが、私は、この「IoT」技術が、これから「第4次産業革命」となって日本や台湾をはじめ世界の産業を大きく変える潜在力を秘めていると期待しています。

 日本人は技術開発は物凄く一生懸命やるけれど、これが需要との関係に結び付かない。IoTの分野で確かに日本の技術は世界で先行しているが、その技術の多くが自社内に閉じこもったサービスのため、事業化や世界展開に困難がある。その点、台湾はグローバル市場のニーズに応じて半導体などの部品を大量に生産する技術に優れています。半導体の生産体制は、私が総統だった時、巨額の投資をしてつくりました。ですから日本企業の研究開発と台湾の生産技術が力を合わせれば、世界市場を制覇することも夢ではないのです。今後、日本がIoTを軸とした経済政策を打ち出すのであれば、台湾との協力は不可欠です。また、台湾も日本の先行研究抜きにはIoTを語ることはできません。

李登輝元総統は京都大学で農業経済学を専攻されましたが、農業・牧畜の分野でも、新しい協力関係を進めておられると聞きました。

 日台の経済的協力で、もう一つ私が取り組んでいるのが、和牛の祖先である但馬牛を繁殖させる事業です。但馬牛は、松坂牛や近江牛などブランド和牛の祖先に当たる牛です。日本が統治していた1934年、総督府がこの但馬牛数百頭を台湾に持ってきて、これを台北に近い草山(現在の陽明山)で飼育していた。大戦後日本人が引き揚げてからも台湾人がこれを飼育して19頭が残ったのです。この貴重な牛を今、花蓮の兆豊牧場に移して飼育しています。

 源興牛と私が名付けたこの台湾和牛を繁殖飼育するため李登輝基金会で研究を進めています。今後、繁殖農家と肥育農家を育成し、将来は源興牛の精子を日本の酪農家に供給することができるようになると思います。

米国には、台湾との関係を規定する台湾関係法があります。日本でも、日本版台湾関係法を制定しようという動きがあります。日本版台湾関係法ができたとすれば、どういう意味、影響をもたらすと考えますか。

 日本版台湾関係法ができれば、大きな影響があります。台湾には正直日本に頼るべきものが多いのです。中でも軍事技術、例えば、日本の潜水艦の技術は世界でも最も優れている。この潜水艦があれば、中国の空母など恐れる必要はありません。

残念なことに、台湾ではまだ福島県やその周辺の県の農産物や水産物の輸入を規制しています。日本ではみな食べていますが、何とかならないものでしょうか。

 野党側がこれを政治問題化して、ややこしいことになっていますが、科学的に安全が保証されているのであれば、規制は一刻も早く解除すべきでしょう。

米国でトランプ政権が誕生し、英国が欧州連合離脱を決めるなど、国際情勢は大きく変化しています。今の世界情勢をどう見ますか。

 世界は主導する国家なき戦国時代に入ってきています。これをある学者は「Gゼロ」の世界と呼んでいる。イギリスもアメリカも大変です。こういう状況の中で日本はどうすべきか。これまで日本は、安全保障をアメリカに頼ってきたが、今は逆にアメリカが日本に力を貸してほしいと思っている。ロシアの問題や中国の台頭があるからです。

 戦争と平和、国の安全という問題を考えるとき、私は、ナポレオン戦争のロシアを舞台にしたトルストイの「戦争と平和」を思い出します。

 平和を求めるのは大部分の人間の欲求でしょう。しかし、トルストイが述べた「人間とは何か」という本質から考えれば、首尾一貫した原理・原則の適用は不可能なことと言わざるを得ない。可能なのは具体的な状況の中から平和の条件を探ることです。

日本が一番しなければならないのは何でしょう。

 憲法改正が最重要課題です。日本は第2次大戦の経験にただ戦争は怖い怖いとおびえるのではなく、どうやって国の安全を保っていくかを考えないといけない。そのためには9条を中心とした憲法の改正が必要だ。戦力を保持することは即ち戦争をするということではありません。混沌とした国際社会の中で、自分の身を自分で守るために戦力を保持することが必要であり、それは国際社会の共通認識です。施行から70年が経過し、国際環境も大きく変わってきているのに、条文の一字一句変えないというのはむしろ異常です。

これに反対する人々もいます。

 日本は今度、天皇の退位が決まりました。新天皇が位に就き、新しい時代が始まる。その新しい時代を迎えるに当たって日本の憲法も変わるべきだと思います。

ビジョン示しきれない蔡政権

中国は、「一帯一路」政策を掲げて、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)を設立し、世界の経済覇権を握ろうとしています。日本と台湾はこれにどう対すべきと考えますか。

 台湾と日本は、インドなどとも連携して、中国の「一帯一路」に対抗していかなければいけません。安倍首相は最近、条件付きで協力してもいいという姿勢を示しましたが、中国の国民所得の水準を考えると、とてもそんな段階ではない。台湾政府も、対中依存貿易から脱却を目指す「新南向政策」を進めようとしているが、中国に対する態度がはっきりしない。

 私の時は、フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムまで回りました。

 台湾は、大陸も台湾のように自由化をやりなさい民主化をやりなさいと支援すべきだ。大陸ではキリスト教牧師が拘留され教会が潰されている。台湾の民主化のプロセスは、単に台湾だけのものではありません。むしろ中国に住む中国人にとっても、台湾をモデルとして参考にしてほしい。それで、中国の自由化を促進するためにも、台湾は中国とは別個の存在だという方向に引っ張っていく必要がある。

 しかし、今の政府はやみくもに「現状維持」を語るばかりで、「台湾をどうしたいか」というビジョンを示しきれていない。

 問題は台湾政府、民進党政権が何をやろうとしているのか、はっきりしないことです。その一方で、同性婚を認めるようなことをしている。法律を変えようとしている。アジアで初めてというが、国民の総意ではなく、一部の立法院の人間の考えに引きずられている。

李登輝総統時代には、中国の圧力を跳ね返して民主改革を成し遂げ、軍を党の軍隊から国民の軍隊にし、司法改革、教育改革、国民の意識改革を断行しました。

 私が総統在任中に推し進めた第一次の民主改革は、独裁体制を崩壊させ、民主社会を打ち立てたという点で成功を収めたと言えるでしょうが、その後、現在の体制にさまざまな欠陥も露呈してきています。ですから第2次民主改革を行わないといけない。そのため台湾でも憲法改正を行わないといけない。

 フランスでは39歳の大統領が誕生した。台湾では40歳以上でないと総統選挙に立候補できない。そんなおかしな話はありません。選挙権も20歳からだが、18歳でいい。若い人にもっと政治参加させるべきだ。中央政府と地方自治体の連携、地方分権も大きな課題です。

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