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麻薬取引の巣窟?ニュービリビッド刑務所の闇

前司法長官が麻薬王と取り引き疑惑

 ドゥテルテ大統領の暴言ばかりが話題になっているが、フィリピンでは前政権で司法長官を務めたデリマ上院議員と麻薬王の癒着疑惑をめぐり、現政権派による厳しい追及が注目を集めている。ドゥテルテ氏の超法規的殺人に関する追及で、急先鋒だったデリマ氏を政界から追放しようとする動きだとのもっぱらの噂だ。癒着の舞台となったニュービリビッド刑務所と、そこに収監されている麻薬王たちの証言にも注目が集まっている。

 先の上院選で当選を果たしたデリマ前司法長官は、上院で人権委員長に就任すると、ドゥテルテ政権で横行する超法規的殺人を強く非難し、その実態を調査する方針を示した。上院の公聴会では、ドゥテルテ氏がダバオ市長時代に暗躍させた処刑団の元メンバーを名乗る男性が出頭。ドゥテルテ氏の命令で1000以上を殺害し、ときにはドゥテル氏が自ら銃で麻薬密売人などを処刑することもあったと衝撃的な証言を行った。
 
 しかしこの後、デリマ氏はどドゥテルテ派議員の賛成多数により、突然、人権委員会を追放されることになる。そして、今度はデリマ氏に対する麻薬王との癒着疑惑が浮上し厳しい追及が始まった。

 その疑惑とはデリマ氏が前政権で司法長官だったときに、ニュービリビッド刑務所に収監されている複数の麻薬王から上納金を得る見返りに、刑務所内での麻薬取引や酒の販売を許可したというものだ。麻薬王の一人は毎月300万ペソ(約600万円)を支払っていたと上院の公聴会で証言している。さらにこの取引には、デリマ氏の不倫相手といわれている運転手の関与も浮上しており、アギレ司法長官はその関係を裏付ける証拠として2人のセックスビデオを公聴会で上映する用意があると述べるなど、容赦無い揺さぶりをかけている。

 しかしながら証言を行った麻薬王たちは、かつてドゥテルテ大統領が、自分の暗殺を企てていると名指しで非難した人物たちであり、その内容が真実なのか、それとも現政権の圧力によるものなのか疑問視する声があることも事実だ。デリマ氏は、「一連の証拠はアギレ氏のカツラと同じく偽りだ」と、アギレ氏のハゲ疑惑を交えながら事実無根を主張している。

 ニュービリビッド刑務所の腐敗は以前から有名で、前政権下で行われた抜き打ち検査では、エアコンや大型テレビ、ジャグジーなどが完備された特別ルームが相次いで発見されており、携帯電話や拳銃のほか麻薬まで押収された。さらに驚くのは各種機材が完備されたスタジオまで設置しており、麻薬王のひとりは、そこで録音したCDを発表し、歌手デビューまでしている。また病気治療と称して一流市立病院に入院し、そこでセクシー女優と密会していた収監者が話題になったこともあった。刑務所の責任者や看守が買収されて、麻薬王の活動を容認していたことは明白である。

 最近では9月28日にニュービリビッド刑務所内で暴動があり、収監されていた麻薬王の一人である中国人男性が死亡し、4人が負傷している。負傷者には上院の公聴会で証言する予定だった収監者も含まれていた。アギレ司法長官によると、監房で麻薬王たちが覚せい剤を使用していたところ、他の収監者と何らかの理由で激しい口論となり、刃物やアイクスピックで刺されたという。この事件をめぐっては、デリマ氏が「ドゥテルテ氏が政権に有利な証言をさせるために収監者を恐喝している証拠だ」と反発する一方、アギレ司法長官は「デリマ氏側による証言への妨害工作」と主張しているが、今のところ真相は闇の中である。ニュービリビッド刑務所での暴動は珍しいものではなく、昨年1月にも手榴弾が爆発し収監者20人が死傷する事件が起きている。

 暴動の背景はどうあれ、依然として刑務所内では麻薬や武器が横行しており、ニュービリビッド刑務所の謳い文句である「最高の厳重警備」も、麻薬王たちの資金力の前には完全に骨抜き状態ということは明らかだ。刑務所職員の腐敗を問題視したドゥテルテ氏は、司法省矯正局の看守に代わり、国家警察特殊部隊に警備を一任したが、今回の暴動騒ぎで浄化とは程遠い状態であることが浮き彫りになった。

 このような現実を見てみると、フィリピンの刑務所というのは更生施設としての機能はほんどなく、単に犯罪者が集団生活を送っている場所であることがよく分かる。上院で証言した麻薬王の一人は、前政権下のニュービリビッド刑務所は、ギャンブルや酒、麻薬までも横行する「リトル・ラスベガス」、または「ドラッグ・トレードセンター」だったと衝撃の発言をしている。こんな状況では仮に有罪になって刑務所送りになっても、麻薬王にとっては痛くも痒くもないだろう。ドゥテルテ氏が死刑の復活に熱心なのも納得できる。莫大な手間をかけて刑務所を改善するより、死刑復活させた方が手っ取り早いということだろう。

 激化する一方の麻薬戦争だが、犯罪者が行き着く先の刑務所がこのような有り様では、今後の先行きに不安を感じるところだ。刑務所の過密化のほか、更生施設の少なさも大きな問題となっているが、早急に解決される目処は立っていない。

 ちなみにドゥテルテ氏は問題の多いニュービリビッド刑務所に代わり、携帯電話の電波が届かないような無人島に重要犯罪者用の刑務所を建設するアイデアを語っている。しかし、それこそ中央の目が届かず、本当に麻薬王たちの「楽園」と化してしまいそうだと感じるのは私だけだろうか。

(マニラ・福島純一)

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