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コメ輸出で浮上するベトナム

 ベトナムの今年のコメ輸出量が、前年の世界3位から2位に浮上する趨勢(すうせい)となった。前年2位のタイがバーツ高による輸出競争力の低下やコンテナ不足、干ばつ被害による収穫の低迷で、今年は過去20年で輸出量ワースト1を記録する見込みだ。
(池永達夫)

タイを抜き世界2位へ
明暗分けた農村振興策

 ベトナム税関の統計では、上半期(1~6月)のコメ輸出量は5%増の352万トン、輸出額は19%増の17億ドル(約1870億円)と好記録を達成した。

ベトナム・ハノイ近郊の水田(UPI)

ベトナム・ハノイ近郊の水田(UPI)

 一方、タイのコメ輸出業協会(TREA)の統計によると、コメ輸出量が32%減の314万トン、輸出額は12%減の22億ドル(約2420億円)だった。

 例年のデータを基にした今年通年のコメ輸出データでは、ベトナムが670万トン、タイが650万トンとなる見込みだ。ベトナム産は、タイ産より手頃な価格帯にとどまっており、中国や香港、フィリピン、マレーシアといった周辺国・地域の主要市場との販売契約が増えている。かつてコメの恒常的な輸入国だったベトナムのことを考えると、感慨ひとしおだ。

 なお昨年のコメ輸出量は、降雨に恵まれコメ生産が5年連続で増産したインドが979万トンと最多でトップの位置をキープ、2位が756万トンのタイ、658万トンのベトナムが3位だったが、今年は2位と3位が入れ替わる見込みとなっている。

 インドは、コメ生産の技術力も向上、潤沢な供給量を背景に輸出価格も主要輸出国で最も安く競争力がある。とりわけインド米が、セネガルなどサブサハラ地域に輸出されていたタイ米に取って代わったことが、タイ米転落の一要因となった。またトウモロコシの価格が世界的に上昇しており、各国の酪農家を顧客とした飼料向けコメ需要が急増、インドの廉価なコメ輸出に追い風が吹いている格好となっている。

 なおコメの輸出といえばタイが世界一だった時代が、10年ほど前までは続いていた。そのトップの座から降りざるを得なくなったのは、人気取りのポピュリスト政策で道を誤ったからだ。タクシン元首相の妹のインラック元首相は2011年、タイ政府が農家からコメを市場よりも高値で買い取るコメ担保融資制度で墓穴を掘ったのだ。タイ政府は大量のコメを市価の4割増しで購入したことで、これが国内米価を引き上げ、タイ米の国際競争力を低下させた。

 インラック元首相が所属したタクシン派のタイ貢献党は農村を票田とした。その農村振興策としてコメ担保融資制度をつくったのだが、安易な農村支援はコメ農家の地力をも弱めさせることになった。タイの農家は、隣国ミャンマーやカンボジアなどから安いコメを輸入して高く売り抜けもした。こうして、こつこつ働くタイ農民の勤勉さをも喪失する結果となった。

 12年のコメ輸出量で、タイは約700万トンと前年比35%減少して、首位から陥落。30年近いコメ輸出世界一の座を滑り落ちてしまった経緯がある。

 かつてコメの恒常的な輸入国だったベトナムは、1989年以降コメ輸出国に転じて以後、着実に階段を上っている。ベトナム版改革開放路線であるドイモイ開始以降、中国からの肥料輸入などに助けられながらコメ生産の量的拡大が続けられた結果だが、近年は増産政策一本やりから転換し、わが国など海外の支援を受けながらベトナム米の品質を向上させ付加価値の高いコメの生産体制強化へと舵(かじ)を切ってもいる。歴史を俯瞰(ふかん)すると、戦後しばらく東南アジアで一番のコメ生産地はミャンマーだった。それがタイに移り、インドがトップの座を射止めベトナムが健闘している。

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