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南太平洋・サモアの混迷

 南太平洋の島嶼(とうしょ)国サモアの長期政権が4月の総選挙の敗北を認めず、親中派の首相が居座ったまま野党党首が首相宣言するという二重政府の混迷が続く。ことは人口20万人のポリネシアの島国の主権が与野党のいずれかに転ぶかということではなく、南太平洋の要衝国家サモアが中国の影響下に入り続けるかどうかの瀬戸際に立たされている。
(池永達夫)

総選挙後、2人が首相宣言
中国傾斜のツイラエパ氏、居座り

 サモアでは4月9日に総選挙(51議席)があり、与党の人権擁護党と野党新党のサモア・ファースト党がいずれも25議席を獲得。無所属の当選者1人を引き込んだファースト党が、過半数に達し勝利しかけた。

ツイラエパ首相(右)とファースト党党首のフィアメ氏(サモア外務省HPから)

ツイラエパ首相(右)とファースト党党首のフィアメ氏(サモア外務省HPから)

 しかし、今回の総選挙では当選者51人のうち女性が5人止まりだったことが混乱の引き金を引いた。サモア議会では全議席の10%を女性に割り当てるクオータ制を導入しているため、選挙管理委員会が人権擁護党の女性候補1人を繰り上げ当選させたことで、両党の議席数は26で再び同数となったのだ。仕切り直しの再選挙も取り沙汰されたが、最高裁は繰り上げ当選を無効とする裁定を下し、新首相選出のための議会開会を命じた。

 これでファースト党の政権奪取が成功したかに見えたものの、議会の招集権限を持つ国家元首のツイマレアリイファノ氏が「理由は追って明らかにする」と言を濁し、開会中止を宣言したままだ。この間隙(かんげき)を縫うようにツイラエパ首相は「この職務に残り、いつも通りに執務を行う」と居残り宣言。ファースト党党首のフィアメ氏も独自に首相就任を宣言し、2人の首相が誕生する膠着(こうちゃく)状態に陥っている。

 総選挙の争点の一つは、5期連続の親中派ツイラエパ政権下で進んだ中国傾斜だった。軍隊を持たないサモアは、ニュージーランドとの友好条約に基づき、有事の際はニュージーランドが支援する。外交も従来、ニュージーランドおよびオーストラリアとの緊密な関係を維持してきたものの、4半世紀近く続いたツイラエパ政権で中国との関係を深め、今では中国への債務が約1億6000万ドル(約174億円)と、対外債務の約40%を占めるまでになっている。

サモアの国旗

サモアの国旗

 これに対しフィアメ氏は、中国が支援する1億ドル(約109億円)規模の港湾開発計画を棚上げする方針を表明した。

 国内総生産(GDP)8億2000万ドルというサモアの経済規模からすると、過大すぎるインフラ整備は国のためにならないというのがフィアメ氏の主張だ。何より同氏が懸念するのは、「債務の罠」に陥ったスリランカの教訓があるからだ。スリランカ政府は南部のハンバントタに中国資金で港湾や国際空港を建設したものの、たちまち対中債務返済に窮したことで、99年間に及ぶ同港の運営権を中国に渡さざるを得なくなった。

 「秘境と楽園」のイメージが強い南太平洋だが、サモア旅行には注意事項がある。「渡航前に現金の準備をお忘れなく」というものだ。島にATMはなく、クレジットカードを使える場所も限られているからだ。だが前政権のサモア政府自身が、中国と言う財布を持ってしまった。そのしっぺ返しを回避しようというのがフィアメ氏の政治的信念だ。

 また、中国がシルクロード経済圏構想「一帯一路構想」で世界の主要港を押さえにかかっている世界戦略を考慮する時、ポリネシアの主要国サモアのアサウ港とバイアス港の2港に多額の資金を投入して整備するのは、中国が太平洋における軍事的存在を高めようとしているのではないかとの疑いも浮上している。

 サモアの国旗は、旧宗主国のニュージーランドの国旗を参考にデザインされた五つの星と赤と紺の下地だ。星は南半球のシンボルである南十字星。赤は勇気、紺は太平洋と自由を表している。

 今回の騒動は、サモアが同国の国旗にも似ている中国の五星紅旗の下に入るか、太平洋の自由を守る砦(とりで)になるか「赤と青」の戦いでもある。

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