«
»

安倍首相とウイグルと企業、寄り添う心を引き継いで

yamada

 

 安倍首相の辞意表明の翌日、在日ウイグル人の「日本ウイグル協会」は、「安倍総理への感謝の言葉」という声明を出した。「安倍首相は第1次政権期からウイグル問題に果敢に取り組んでくれた。日中首脳会談で、ウイグル人留学生投獄の問題を提起したり、ウイグルの人権問題で働きかけたりしてくれた。画期的出来事だ」と感謝した。安倍退陣でこれほど強い謝意を表した声明は他になかった。

 ジャーナリストの有本香氏が夕刊フジで、今年1月に安倍夫人の強い希望で夫人と在日ウイグル人の会食をセットした話を書いている。会食中、電話をかけてきた首相はウイグル人出席者一人一人と話し、励ました。皆「最近落ち込むことが多かったが、また頑張れる」ととても喜んでいたという。

 日本の新型コロナ水際対策が当初不徹底だった裏に、習近平・国家主席の来日問題を抱えた政府の対中忖度(そんたく)があったのは間違いない。中国への対応は気を遣う。でも中国の被抑圧民族からこれほど感謝された。大きな勲章だろう。拉致問題と同様、安倍首相には理不尽な抑圧や国家犯罪の被害者に寄り添う心があった。

 その日本ウイグル協会は、人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)と協力、先ごろ「ウイグル人強制労働への日本企業の関与」問題で、記者会見やオンラインセミナーを開いた。

 ウイグル人が強制労働させられている中国の工場が、有力外国企業のサプライチェーンに入っている問題は、昨年から米紙などで報じられてきた。今年3月、オーストラリア戦略政策研究所がまとめた調査報告書は、①新疆地域に加え9省の工場で、ウイグル人らがひどい賃金で監視付きで働かされている、②ナイキ、アディダス、アップル、アマゾン、ニトリ、任天堂、日立、GM、BMW、サムスンなど83の有名企業が、そこから利益を得てきたと見られる、③また54企業に、新疆での強制労働への関与の疑いがある――と指摘した。

 7月には世界の人権NGO、ウイグル人組織など187団体が、特に世界の38のアパレル企業に、この強制労働と絶縁するよう訴えた。世界の綿供給の20%は中国産で、中国綿の80%以上を占める新疆綿は高級品とされている。

 日本ウイグル協会は上記の83企業の中の日本企業11社に質問状を送った。同協会とHRNによれば、10社が回答してきたが、報告書で指摘された内容に触れていないとか、「調査したが確認できなかった」とかで、どんな調査をしたかも不明だった。米企業や業界団体には、指摘を受けて強制労働断固排除を明快に約束しているものが少なくない。欧州でも、企業の指導責任を法制化する動きが活発化している。それに比べ「日本企業は問題の深刻さに見合う受け止め方をしていない」という。

 1960~80年代、人種隔離の南アフリカに国際社会が経済制裁を強める中で、日本は対南ア貿易を存分に拡大、日本企業駐在員は「名誉白人」扱いを受けた。名誉白人。何とも嫌な語感だった。

 中国・天安門事件の翌90年、日本が対中経済制裁網から早々にぬけた時、駐米記者の私は米議員から「日本ももう少し人権を考慮すべきだ」と苦言を呈された。そんなことも思い出す。

 新疆綿が上質でもウイグル人労働者の涙が滲(にじ)んでいたら、ブランド品の着心地も悪い。企業には「強制労働無関係」を完全徹底してほしい。

 そして政府と企業の連携、政府の姿勢がもちろん重要だ。

 新首相にはぜひ、前任者の「寄り添う心」を引き継いでほしい。人権や民族の問題も含めて、中国にはっきり物を申してもらいたい。

(元嘉悦大学教授)

3

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。