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世界に先駆けコロナ制圧 台湾 2期目の蔡英文政権

 1月の台湾総統選挙で地滑り的勝利を果たした蔡英文氏は20日、2期目の民進党政権をスタートさせる。世界を震撼(しんかん)させている新型コロナウイルス感染対策では、世界に先駆けほぼ制圧を果たし、求心力を高めた。2期目の課題は、世界的なコロナ不況の渦に呑(の)み込まれないための経済対策と、「武力行使も放棄しない」と公言する中国の台湾併合への野心をどう牽制(けんせい)するかだ。(編集委員・池永達夫)

課題は世界不況下の経済対策
中国の併合野心 どう牽制

 台湾は5月18日時点で新型肺炎の感染者数が440人、死者は7人にとどまり、国内感染は1カ月近く発生ゼロのままだ。先月12日にはプロ野球も(無観客)開幕し、今月8日からは観客入場も可能となった。米欧などではプロスポーツの開幕のメドが立っていない中、先行事例として注目される。

蔡英文総統

1月11日、新北市で、台湾総統選の投開票日を迎え、投票所で有権者に手を振る蔡英文総統(時事)

 台湾の世論調査機関「台湾民意基金会」が2月24日に発表した調査結果では、蔡総統の支持率は68・5%だった。これは4年前の蔡総統1期目の就任時の69・9%に続く、2番目に高い支持率だ。以後も蔡総統の支持率は60%以上をキープし続け、地元テレビ大手TVBSの3月末の最新世論調査でも、蔡政権のこれまでの新型コロナ対策に「満足している」と答えた人が84%に達したほか、今後についても「政府の対策を信頼している」との回答が87%に上った。新型コロナウイルス感染に対する迅速な危機管理に加え、マスクの配給制導入など政府の対策が奏功し、感染拡大を効果的に封じ込めていることが国民から広く支持されていることを示した。

 無論、蔡政権への評価は国内だけにとどまらない。企業活動の規制や外出禁止措置など厳しい対応を余儀なくされている国際社会からも、新型コロナ感染防止に成功した台湾を評価する声が絶えることはない。

 とりわけ称賛の声が高いのは、迅速な水際作戦を敷いたスピード感だ。

 蔡政権は昨年12月31日より中国武漢から訪台した旅客の検疫強化を開始している。さらに1月22日、新型コロナウイルスの発祥地、中国武漢からの旅行者入国を禁止。その後、事態がさらに悪化すると2月6日から中国人の入国を全面禁止とした。また、翌日からは中国本土はもちろん、香港・マカオなど中華圏地域を訪問した外国人の入国まで禁止した。

 中国で働く台湾人は80万人とされる。台湾企業の対中ビジネスや中国人観光客の経済効果を考慮すれば、痛みを伴う措置だった。しかし、パンデミックを引き起こせば台湾の死活問題にもなりかねないとの大局的判断が働いた。

 今回は、皮肉にも中国からの政治的圧力および世界保健機関(WHO)未加盟という「負の遺産」がプラスに働いた経緯がある。

 中国は昨年8月、「一国両制」(1国家2制度)での「中台統一」に距離を置く蔡政権への締め付けに動き、台湾への個人旅行を禁止した。今年1月の総統選を見据えて、経済を腰折れさせ、蔡政権続投を阻もうとしたのだ。しかし、結果的に中国人旅行者は減少し、新型コロナ感染リスクが減少した。また「人から人への感染の可能性を排除しない」ものの「証拠は発見されていない」と否定し続けた中国のメッセージをそのまま垂れ流したWHOの見解に振り回されることもなかった。WHO未加盟の台湾はいざというとき、国際社会への過度な期待に寄り掛かることなく、自分の身は自分で守るという覚悟があった。その自立心が奏功した格好だ。

 適材適所の人的貢献も特筆される。

 陳時中・衛生福利大臣は、その献身的な働きぶりが「1日で3日分働く男」とされるほどで国民を感動させた。

 また、唐鳳デジタル担当大臣は、マスク在庫マップアプリを導入し国民へ過不足のないマスク配布に貢献している。何よりSARS流行時に台北県長として行政対応した経験を持つ蘇貞昌・行政院長(首相)の陣頭指揮ぶりも見事だった。要は危機に的確に対応できる人材が豊かなのだ。

 蔡総統は4月1日、新型肺炎の感染拡大が深刻な米国や欧州連合(EU)諸国などに対し、マスク1000万枚を提供すると表明するとともに、感染対策やワクチン開発などで海外との協力を進める方針も示した。WHOから排除されていながら「世界の防疫体制に穴を開けてはいけない」と自助努力で新型肺炎封印に成功すると同時に、世界の保健衛生に貢献しようという「しっかり者の台湾」は国際社会から「よき隣人」としての評価を高めている。

 なお、2期目を迎える蔡政権の課題は、世界的なコロナ不況の渦に呑み込まれないための経済対策と、「武力行使も放棄しない」と公言する中国の台湾併合への野心をどう牽制するかだ。

 1~3月期の実質経済成長率は前年同期比1・54%だった。2月前半時点の予想を0・26ポイント下回った。テレワーク(遠隔勤務)など在宅需要の恩恵で電子部品の輸出は伸びたが、新型肺炎の影響で民間消費が想定以上に落ち込んだためだ。中国進出企業が台湾回帰を果たしやすい優遇措置を適用して、次の経済成長の受け皿づくりに成功した蔡政権が世界的なコロナ構造不況に巻き込まれることのない対応に期待が集まる。

 さらに中国の脅威が高まる中、どう安全保障を担保するかという課題を突き付けられている。中国の軍事行使の敷居は低く、「政権は銃口から生まれる」と言った毛沢東を信奉する習近平中国国家主席の台湾併合策は軍事路線に傾く可能性がある。

 とりわけ米中摩擦などによる中国の在米資産凍結や中国共産党政権の正当性を保障してきた経済成長が止まるなど習政権の求心力が危うくなった場合、外部に敵を求めて内部矛盾の転嫁を図ろうとするのは共産党政権の常套(じょうとう)手段だ。

 事実上、台湾との軍事同盟を意味する台湾関係法を持つ米国は3月、台湾同盟国際保護強化法などを制定し、台湾の後ろ盾として立ちはだかってはいるが、新型肺炎の感染に苦しむ第7艦隊の空母など中国人民解放軍にすれば隙をつく好機とみえるかもしれない。

 台湾とわが国は、民主主義や法の支配といった価値観を共有する運命共同体であり、安全保障を絡めた日米台のトライアングルを強化する必要がある。

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