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なぜモンゴルはコロナ防疫に成功しているのか?

迅速な水際対策、政府と国民一丸の危機管理

 中国湖北省武漢市から新型コロナウイルスが出た直後、中国に隣接する国ですぐに国境を封鎖したところが2つあった。北朝鮮とモンゴルだ。

カザフ族のイヌワシ祭も中止となった

カザフ族のイヌワシ祭も中止となった

 中国とは「唇歯の関係」「血盟」を謳っているはずの北朝鮮は、おそらくその脆弱な防疫体制、そして「絶対尊厳」護持のため、ある意味必死の迅速な対応だったのだろう。一方、モンゴルの際立った水際対策には、政府と国民が一丸となった危機管理意識が背景にあった。

 モンゴルは普段から中国との人や物の往来が多いが、3月29日までに国内感染者数はわずかに12人、死亡者数に至っては0にとどまっている(28日発表)。これは驚くべき数字だ。WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「パンデミック」発言をした前日に当たる3月10日に現地企業勤務のフランス人男性の陽性反応が確認されるまで、国内感染者数は0を保っていたほどだ。

 「空港に着くと出迎えもタクシー運転手も皆マスクをしていて、物々しい雰囲気でした」。1月末にモンゴルに渡航した日本人男性(46)によると、首都ウランバートルではすでに多くの市民らがマスクを着用しており、男性がマスクなしでデパートに入ると不審な目で見られるほどだったという。銀行の入り口にはマスク着用を促す貼り紙。テレビを点けると出演者らは皆マスクを着けており、国会中継では議員らがマスクを着けて討論する姿が映し出されるといういささか異様な光景だった。男性が車で地方へ向かう道中でも、すれ違う車の運転手は皆マスクを。人々は「コロナが流行している中国はお隣だから怖いよね」と話していたという。

 男性が地方からウランバートルに戻った2月4日には早くもレストランが休業し始めており、食事する場所も限られていた。更に別の地方に行った後、同月12日にウランバートル入りする際には「検温と検問」が行われたという。その後、帰国してみて男性が驚いたのは成田空港では、「普段と変わらないカメラによる体温チェックのみで、日本の水際対策の弱さを感じました」と語る。

ウランバートルの中心にあるスフバートル広場

ウランバートルの中心にあるスフバートル広場

 国内総人口の3分の2近くに当たる約220万人(2018年時点)が暮らす首都ウランバートルは、市内と地方間の道路を2月23日~3月3日と3月10日~16日の2回にわたって封鎖。1年で最大の祝事であるチベット仏教圏の旧正月「ツァガーン・サル」も、厳格な感染対策の中で迎えられた。

 今年は2月24日に当たっていたツァガーン・サルは、元来、親族が集まり年長者を囲んで祝う一大行事だが、ハルトマー・バトトルガ大統領は1週間前の2月17日、 国民に対して「伝統的なツァガーン・ サルで年配者の方々が健やかで平穏に過ごすことを優先に考え、オンライン挨拶を交わす」ことを呼び掛けた。

 新年の挨拶に関して「うちの子供にキスさせない」とした子供を持つ若い世代の投稿が行き交った。生後5カ月の息子を持つ母親のタミルさん(26)は、「今年のツァガーン・サルは家から一歩も出なかった。こんなことは初めて」と話す。2009年の新型インフルエンザのパンデミックが起こった際も、全国的に中止されたことはなかったという。

 それ以後も食品市場以外の商店などはほとんど閉店している状態で、「買い物に行く時は、帽子とマスク、手袋で全身を隠して出掛ける。子供は外には出さず、免疫力を高める果実のジュースを飲ませたり、家中の物をアルコール消毒している」という。国民の意識については「モンゴルでは若い世代がより責任感を持って、予防に気を配っていると思う」と誇らしげだ。

 全国的には、1月27日から始まった幼稚園や保育施設を含む教育機関の休校措置が4月30日まで延長され、教育・文化・科学・スポーツ省はテレビ局の協力を得て国公立学校向けにモンゴル語、カザフ語、トゥヴァ語、手話の4言語でオンライン授業を配信、就学前教育や受験対策講座にも対応している。

 地元からは、「昔から伝染病で多くの家畜を失ってきた遊牧民族であるモンゴル人は、感染症に対する危機意識が人一倍高い」という見方もある。

 政界では、
▲2月27日の日帰り訪中から帰国したバトトルガ大統領の自主隔離の他、
▲オンライン国会の実施など、徹底した策が講じられた。

 ただ、現地事情を知る日本人の間では「モンゴルは人口が少ないから統制できているが、医療体制に不安があるので、政府も国民一人一人も危機感を持っているのでは」といった声も少なくない。

 現地企業の代表を務める日本人男性(27)は「政府は今年行われる総選挙に向け、国内で感染者をゼロにして夏の観光シーズンでモンゴル需要を高める狙いがあったのでは」と分析する。

 ウランバートル市ではさらに、3月30日まで娯楽施設は営業停止、飲食店の営業は22時までと制限したが、「学校が休校中なので渋滞は解消されているものの、娯楽施設が休業しているのでカフェやショッピングモールは普段より人が多い気もする。しかし個人事業主が多く、長期の休業に耐えられる資本力のあるレストランはないだろう」と冷静だ。

 また「首都閉鎖時の管理の徹底がなされておらず、山道を通って入ってきている人もいたので、詰めは甘いと感じる」とも指摘する。

 海外からの帰国者の隔離期間は21日間に延長され、現在も隔離者が一定数いるとみられるが、モンゴルの関心は経済に向き始めている。国営モンツァメ通信は、3月25日付で日本を含む13カ国における経済救済策を紹介したほか、26日付でカシミヤの国内加工促進に関する取り組みを取り上げ、「人やカシミヤの流通が止まることで、遊牧民らは(これまで外国に流れていた)カシミヤをすべて国内業者に販売する可能性が開けた」として、「どんな弱点も自分の利益になるように巻き返すことのできる人や国こそが勝つ」と解説している。コロナウイルスによるピンチを国内産業の活性化というチャンスに変えようという思惑らしい。

 一方、SNSでは、「コロナウイルスは長くは保たないよ」という投稿も見かけられる。理由は「“メイドインチャイナ”だから」と。一般的に壊れやすい中国製の粗悪品を揶揄してのことだ。それならばコロナが“メイドインジャパン”でなくて良かったと、胸をなでおろしたい。
(辻本奈緒子)

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