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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
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    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    豪枢機卿の「罪と罰」と「事件の核心」

     フランシスコ法王の信頼を得て財務省長官を務め、バチカン・ナンバー3の地位を享受してきたオーストラリア出身のジョージ・ぺル枢機卿(78)に対し、ビクトリア州高裁は21日、同枢機卿から提出された控訴要求を棄却した。それを受け、未成年者への性的虐待で今年3月に下った禁固6年の実刑判決は変わらず、ぺル枢機卿は刑務所に再拘留された。ローマ・カトリック教会最高位の聖職者の性犯罪としてぺル枢機卿の裁判の行方に注目が集まっていた。

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    控訴が棄却されたぺル枢機卿(バチカンニュース公式サイトから)

     バチカンニュースは21日、ペル枢機卿の控訴審が棄却されたことを大きく報道する一方、「ぺル枢機卿の刑が最終決定し次第、枢機卿の聖職をはく奪する方向」と報じた。聖職のはく奪は教会法では最大の処罰だ。公判が開始する直前、バチカンは同枢機卿の財務省長官ポストを一時停止状況に置いたが、昨年、正式に解任している。現地からの情報によると、ぺル枢機卿は早ければ2022年10月には出所できる。

     ペル枢機卿はメルボルン大司教時代の1996~97年、大聖堂聖歌隊に所属していた2人の少年に性的虐待を行った容疑で公判を受けてきた。1人の少年は後日、麻薬中毒で死去したが、もう1人(当時13歳)はペル枢機卿に性的虐待を受けたことを地裁の陪審の前に証言した。それを受け、地裁はぺル枢機卿を有罪とした。

     地裁では、犠牲者の証言は信頼性が持てるとして、ぺル枢機卿に有罪判決が下されたが、ぺル枢機卿の弁護団は、「1人の犠牲者の証言だけでは十分ではない」として、裁判のやり直しを強く求めてきた経緯がある。なお、ぺル枢機卿は事件が報道されて以来、一貫として「自分は無罪だ」と主張し、地裁の判決後、即控訴を要求してきた経緯がある。

     当方はこのコラム欄でぺル枢機卿の性犯罪問題が表面化して以来、一貫して同枢機卿の容疑は間違いないという立場で書いてきた。その確信を揺るがす情報はこれまでのところ出てこない。しかし、「自分は無罪だ」と主張し続けるぺル枢機卿の叫びを完全には無視できない。枢機卿まで上り詰めた聖職者が嘘を言い続けることができるか、という素朴な思いがあるからだ。

     ぺル枢機卿の性犯罪はオーストラリア教会の過去の性犯罪に関する報告書が公開された直後に浮かび上がった。同教会の聖職者の性犯罪を調査してきた同国性犯罪調査王立委員会は2017年、同教会の性犯罪を公表したが、それによると、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、全聖職者の少なくとも7%が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで少なくとも1880人の聖職者の名前が挙げられているのだ。すなわち、100人の神父がいたら、そのうち少なくとも7人が未成年者への性的虐待を犯しているという数字だ。

     同報告書が公表されると、世界の教会内外に大きな衝撃を与えた。教会側は事件が発覚すると、性犯罪を犯した聖職者を左遷するなど、組織ぐるみで事件を隠蔽してきた実態が浮かび上がってきたからだ。

     その直後、上述したように、1人の犠牲者がぺル枢機卿に性的虐待を受けた体験をカミングアウトしたのだ。2014年までメルボルン大司教だったぺル枢機卿は2016年2月、事情聴取を受けている。その際、同枢機卿は、「教会は大きな間違いを犯した」と証言したが、自身が事件を隠蔽したことはないという。当時、同枢機卿が全く事件を知らなかったとは到底考えられない。そのぺル枢機卿がその後、自身の性犯罪で起訴されたわけだ(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。

     オーストラリアでは聖職者の性犯罪報告が公表されて以来、教会への風当たりは一層強くなり、教会は信頼を失った状況下でぺル枢機卿の問題が浮かび上がってきたわけだ。陪審制の裁判では枢機卿の性犯罪を訴える犠牲者の証言を疑う者はもはやいなかった。同国の社会全般に、反教会、反聖職者の風が吹き荒れていたのだ。

     繰り返すが、教会側のいう「この世の裁判」でぺル枢機卿に有罪判決が下された。バチカンとしては教会の信頼性に大きなダメージを与えた同枢機卿のスキャンダルに一刻も早く決着をつけたいところだろう。しかし、ぺル枢機卿が罪を認め、犯行を認めない限り、枢機卿の不祥事は本来、幕を閉じることはできないのだ。枢機卿がなぜ13歳の少年に性的虐待を行ったのか、その背景を解明してこそ、事件は幕を閉じることができるはずだ。ぺル枢機卿自身にとっては辛いことだが、事件の解明に貢献すべきだ。

     ぺル枢機卿の「罪と罰」は「最後の審判」を下す神のみが決定する領域かもしれない。カトリック作家グレアム・グリーンの小説「事件の核心」(The Heart of the Matter)ではないが、ひょっとしたら、ぺル枢機卿の「事件の核心」はまったく別のところにあるのかもしれないからだ。

    (ウィーン在住)

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