ワシントン・タイムズ・ジャパン

軍関与する東南アジア政治

落ちる民主化度ランキング

 世界銀行が毎年公表する「民主化度ランキング」で、21世紀に2度の軍事クーデターがあったタイは20年前の80位から161位へ順位を下げた。民政復帰したものの、軍人が議席の4分の1を占めるミャンマーが156位。昨年の総選挙前に最大野党党首を国家反逆罪で投獄した上に解党に追い込み、フン・セン首相率いる与党カンボジア人民党(CPP)が全議席を獲得したカンボジアに至っては、172位と共産党独裁政権・中国の188位と大して変わらないポジションだ。東南アジアでは未(いま)だ強権統治で、軍が直接か間接かを問わず主要プレーヤーを演じる国が存在する。懸念されるのは欧米がこうした軍の政治介入を嫌い制裁を科す中、統治形態を一切問わずこれらの国々をバックアップすることで政治的影響力を高めつつある中国の擦り寄りだ。
(池永達夫)

欧米制裁逆手に中国擦り寄り

 2014年のクーデター以降、軍事政権が続いたタイで16日、3月の総選挙を経た新政権がやっと発足した。5年ぶりの「民政復帰」となるが、プラユット首相をはじめ軍政の枠組みは温存されたままで、形だけの「民政復帰」となる。軍政の枠組みというのは、軍が全議員を指名できる250議席の上院が首相選出に関与できるとともに、プラユット首相や治安担当のプラウィット副首相ら軍出身の主要閣僚がそのまま居残る形となったからだ。

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タイの首相府で記念撮影に臨むプラユット首相(前列中央)ら新内閣のメンバー=16日(タイ政府提供・時事)

 ただ、タイ国内では深刻な政治対立の末の軍の政治介入を「リセットボタン」として容認する声も多い。民主政治が深刻な政治対立などで機能不全に陥ったとき、軍に「リセット」してもらうのが一番だという認識が、庶民の間には今なお残っているからだ。何よりタイ軍部には、共産化したベトナム、ラオス、カンボジアがインドシナ地域を共産化ドミノで押し流そうとした際、防波堤となってその波を押しとどめた実績がある。共産主義者を都市部から一掃して山岳部に押しやることができたのも、強力な実行部隊を有する軍隊なしにはできなかった。バンコク市民がクーデター実行部隊の兵士に花を贈るというのも、軍に対する基本的な信頼があるからだ。

 こうしたタイ型民主主義を、一概には否定できない。とりわけタイの軍部は、国防だけでなく王政護持という二つの責務が頭に叩(たた)き込まれている。立憲民主主義を国是とするタイでは、国王の下での民主主義という基本構造がある。2014年にクーデターを主導したプラユット陸軍司令官(現首相)は、シリキット王妃の親衛隊司令官を務めたことがあり、親衛隊軍人OBらがつくる「東の虎」グループのリーダーでもあった。

 なお東南アジアにおける国軍の政治関与のモデルは、開発独裁型政権に率いられたかつてのインドネシアだ。1966年から32年間の長期独裁を敷いた軍出身のスハルト元大統領は、国会議員(下院議員)の15%を軍の任命枠とした上で、大統領の指名選挙に軍が事実上任命する追加議員(上院議員)が加わる仕組みとし、権力基盤を盤石にした経緯がある。国会運営と国家元首選出の両面で、軍の政治関与を制度化したのだ。

 2011年に民政移管したミャンマーは軍人議員枠を、指導者選出に上院が関与する手法をタイが模倣した。

 ただ、こうした民主主義を否定するような軍の政治への関与を欧米が嫌い、制裁の対象となっている。欧米とのこの政治的溝を奇貨とし、東南アジアへの政治的影響力を強めたい中国が埋めようとしている。中国は軍政だろうがお構いなしに首脳に働きかけ、経済的支援を申し出るのが常だ。

 中国は4月、タイ、ラオス両政府と雲南省昆明からラオスを経由してタイの首都バンコクまでを結ぶ高速鉄道建設に関する覚書を交わしている。また、ミャンマーのアウンサンスーチー国家最高顧問は4月下旬、中国を公式訪問し「一帯一路」国際会議に参加。ロヒンギャ問題で欧米諸国から制裁を科される中、バングラデシュとの仲介役を中国が担うことで合意している。

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