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広がるムスリム観光客への対応

 訪日外国人数が昨年、初めて3000万人を突破した。インバウンドのさらなる拡大を目指す日本にとって、訪日ムスリム(イスラム教徒)への対応は重要な課題の一つだ。ハラル(コーランで食べることを許された食材)以外にも礼拝用スペースの確保など、ムスリム観光客を意識した対応が全国に広がっている。
(社会部・石井孝秀、写真も)

駅・飲食店で礼拝室など新設
「おみやげ」も工夫の取り組みを

 ムスリムの多い東南アジアからの観光客は年々増え続けている。日本政府観光局によると、2017年の訪日観光客数はインドネシアが前年比30%増の約35万人、マレーシアは前年比11・5%増の約44万人だった。18年の観光客数はさらに増える見込みだ。

「ふく紗」の伊東信二社長

着物をムスリムドレスにリメイクしている「ふく紗」の伊東信二社長=2018年12月7日、東京都江東区の東京ビッグサイト

 ハラル関連のビジネスサポートなどを行うハラル・ジャパン協会(東京都豊島区)の佐久間朋宏代表理事は「世界人口の約4分の1(約15億人)がムスリムだ。2100年には3分の1になると予想されている。人口と所得は今も増えており、今後の旅行市場で大きな伸びしろが見込まれている」と指摘する。

 現在のムスリム観光客の状況について、インドネシアから年間約2000人のツアー客を受け入れている旅行会社「賀矢インターナショナル」(東京都中央区)のリリス・アリワティ社長は「一日のうちにどこかでモスクに行きたい。ただ、どうしてもスケジュールに合わないのでバスの中で祈ったり、レストランで誰もいない部屋を使わせてもらっていた」と説明する。

 モスクは都内でも渋谷区や台東区など限られた場所にしかないが、全国的には空港やショッピングセンターなどで礼拝施設の新設が進められている。東京駅では17年6月から丸の内北口に「祈祷室」がオープンし、1日約30人、年間1万人以上が使用しているという。

ファイル名

店内に設置された礼拝室=2018年11月26日、東京都台東区の和食折紙浅草

 昨年7月末に開店したばかりの和食レストラン「和食折紙浅草」(東京都台東区、運営・藤田観光)でも礼拝室を設置。部屋の壁にはコーランの一節が掲げられ、部屋の隅にはウドゥ(祈りの前に手足を清める洗い場)が備えられている。

 また、外国語対応を含め、訪れたムスリム観光客が安心感を持ってもらえるよう、スタッフの約3分の1はムスリムを採用。中にはムスリムの女性が頭に被るスカーフ「ヒジャブ」を付けたスタッフもいる。

 さらに「和」の雰囲気を楽しんでもらう工夫として、「あめつち乃清き善きものを食し善き行いをしなさい」と和訳した、「食」に関するコーランの言葉(23章51節)を書道家に揮毫してもらい店内に飾っている。同社企画グループの山口慎一郎・事業推進料飲統括担当部長は「ムスリムの方々に説明すると、興味を持って写真を撮る風景もよく見られる」と語る。

 ハラル食材や礼拝室のほか、ムスリム受け入れに必要な取り組みとして、アリワティ社長が指摘しているのは「おみやげ」だ。カップラーメンなどは人気商品だが、ブタ由来のエキスが入ってるかもしれないと心配する人が多い。「大丈夫かどうか会社に問い合わせても分からない。ムスリム向けのおみやげがあれば楽なのだが」とアリワティ社長は話す。

 洋服や小物の製造・販売を行っている「ふく紗」(愛媛県松山市)では2014年から、日本の着物をヒジャブやムスリム女性向けのドレスにリメイクし販売している。高品質の“今治タオル”を使った礼拝マットはモスクの外観をデザインに採用し、マットの周りには桜の花のマークを散りばめている。

 これらの商品は現在、ムスリム観光客よりも海外に出かける日本人に好評で、東南アジアへのおみやげ用にまとめて買っていく人が多いという。観光名所で知られる飛騨高山でも販売しているが、2020年のオリンピックを見据え、将来的には成田空港での販売も視野に入れている。

 同社の伊東信二社長は「ムスリムの人たちはイスラム国(IS)などでイメージが悪くなっているが、人間的にとても良い人たち。海外に着物の良さを伝えつつ、国内の悪いイメージを払拭(ふっしょく)して友好の輪を拡げることに貢献していきたい」と意気込みを語った。

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