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非核化見返りは独裁維持資金? 米朝首脳会談めぐり諸説紛々

 来月12日にシンガポールで開催予定だった米朝首脳会談。双方が取り止(や)めや延期などに言及しながら駆け引き、応酬が続いたが、米国は24日に中止を発表した。しかし、米ホワイトハウスやシンガポール政府は報道機関向けに取材申請の案内を出すなど準備も進めていた経緯があり、予測困難な両首脳のキャラクターもあって会談見通しは諸説紛々だった。(編集委員・上田勇実)

予測困難な両首脳の行動
北は「原状復帰」に余地

 金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談に臨むトランプ米大統領について最近、ワシントン界隈(かいわい)では心配する声が上がっていた。

トランプ氏(右)と金正恩

トランプ米大統領(写真右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(AFP=時事)

 「トランプさんはどうも北朝鮮の核に対する完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄、いわゆるCVIDが何のことか知らなかった ようだ」

 先週、駐米日本大使館のある関係者は懇意にしている国際政治学者にこう漏らした。

 ある韓国大手紙は先日、ワシントン発の記事でボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が北朝鮮に短期間の完全非核化、いわゆる「リビア方式」を求めていることと関連し、トランプ氏がリビア式の北朝鮮適用は検討していないと発言した真意について、次のように指摘した。

 「トランプ氏はリビア式をリビアが核を完全廃棄した2003年のことではなく、どうもカダフィ政権が『アラブの春』で倒れた11年の状況とはき違えて認識しているようだ」

 その証拠にトランプ氏は「当時の米国はカダフィ大佐(の命)を守るといういかなる合意もしなかったが、金正恩の場合は違う」と述べたという。

 北朝鮮が本気で完全非核化に踏み出すか否かを占う“世紀の会談”を目前にし、トランプ氏の大雑把さが気になる話だった。

 米国は「大陸間弾頭ミサイル(ICBM)の実戦配備凍結、2年以内の非核化、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れ」などを北朝鮮が受け入れれば、見返りに応じる可能性があるとの見方が出ていた。その時、トランプ氏は正しい判断を下せただろうか。

 一方の金正恩氏。北朝鮮情勢をウオッチし続けてきた韓国大手シンクタンクの幹部は一つの仮説を立てていた。

 「金正恩氏にとって一番重要なのは仮に非核化に応じた場合、自分がトップとして生き続けられるかだ。そのために金氏一族が引き続き北朝鮮を治め続ける莫大(ばくだい)な資金を米国に要求するのではないか。独裁延命の資金こそが非核化の本当の見返りであり、それ以外に完全非核化に応じる道はない」

 だが、ある高位脱北者は「金正恩氏が本当にパンツまで脱いで真っ裸になる完全非核化に応じるとは誰も思っていない」と断言していた。あくまで米国の出方を見極めながら、非核化の速度を調整し、いつでも「原状復帰」できる準備を怠らないはずだという。

 これまで政府交渉団の一員や金日成総合大学との教授交流などで北朝鮮を10回以上訪れたことのある南成旭・高麗大学行政専門大学校長は査察の難しさをこう指摘する。

 「北朝鮮は国土の8割以上が山岳地帯。おまけに体制維持のため70年間も反米路線を取ってきたため、査察団の自由往来は容認できないだろう。よっぽど正直に自己申告しない限り、査察は表面的なものに終わらざるを得ない」

 首脳会談では非核化ロードマップを盛り込んだ共同宣言文が発表され、各国のメディアはこれを「歴史的合意」と報じたかもしれない。トランプ氏は11月の中間選挙に向けこれを追い風にし、金正恩氏は制裁緩和や体制保証につなげようとしただろう。

 さらに来月27日の朝鮮戦争停戦記念日をメドに終戦宣言がなされれば、休戦協定の平和協定転換に向けた協議がスタートする可能性があった。秋のノーベル平和賞にはトランプ氏や金正恩氏、ひょっとすると韓国の文在寅大統領の名前まで候補に挙がっていたかもしれない。

 結局、首脳会談は中止になり、政治的思惑を優先させるようなショーにもならなかった。北朝鮮情勢はさらに混迷を深めるだろう。

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