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北も揺さぶる異端大統領

米朝決裂 (2)

 トランプ米大統領は北朝鮮の非核化を諦めたのではないか――。ベトナム・ハノイでの2回目の米朝首脳会談が近づくにつれ、こんな見方が広がった。トランプ氏が非核化を「急がない」と繰り返し、「(核・ミサイル)実験がない限り、われわれは幸せだ」とまで言い放ったからだ。

金正恩朝鮮労働党委員長

ベトナム出発を前に、中越国境にある北部ランソン省のドンダン駅で、沿道の人々に手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=2日(時事)

 保守系シンクタンク、フーバー研究所のマイケル・オースリン研究員は、会談当日の先月27日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で「トランプ氏は北朝鮮の核兵器を受け入れたように見える」とし、北朝鮮との関係正常化を優先する方向に舵(かじ)を切ったと分析した。

 実際、米朝首脳会談1日目と2日目の冒頭で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との良好な関係を積極的にアピールするトランプ氏の姿は、その印象を改めて強くした。ところが、会談は一転して決裂。「ジェットコースター」(同紙)のような展開に、世界各国の報道陣が集まるハノイ市内の国際メディアセンターには大きな衝撃が走った。

 「正恩氏は非核化に前向きだったが、われわれが望むより重要度の低い部分での非核化だった」。会談後の記者会見でトランプ氏はこう語り、北朝鮮が提示した非核化措置が不十分だったと明かした。会談を成功させることに前のめりになっていると見られていただけに、非核化の中身を吟味して合意見送りを決めたことは、もう一つの驚きであり、非核化を諦めていないことを示す上で重要な意味を持つ。

 決裂という予想外の結果は、米国内で賛否両論を巻き起こしているが、「悪いディールを結ぶよりはノーディールの方がいい」という見方が支配的だ。この見方は普段、トランプ氏と激しく敵対する民主党議員からも出ており、同党上院トップのシューマー院内総務は「交渉から立ち去り、記念写真撮影のためにひどいディールを結ぶのを避けたのは、正しかった」と評価した。

 共和党からは称賛の声が上がっており、マイケル・マコール下院外交委員会筆頭委員は、レーガン大統領が1986年に行われたソ連のゴルバチョフ書記長とのレイキャビク会談を決裂させた判断が「長期的には米国の戦略目標を実現し、冷戦を終わらせるのに役立った」と指摘し、トランプ氏の判断も同様の効果をもたらすことに強い期待感を示した。

 米朝の協議が重要な局面を迎えるのはこれからであり、今回のトランプ氏の判断に対する本当の評価は、今後の交渉をどれだけ有利に進められるかにかかっている。それでも、ワシントン・タイムズ紙は「(トランプ氏は)不成功に終わった首脳会談の勝者になったかもしれない」とし、中途半端な取引を拒否したことで「今後の交渉で強い立場に立つだろう」と報じた。

 世界が注目する会談でちゃぶ台をひっくり返すのは並大抵のことではない。常識にとらわれないトランプ氏という「異端児」の行動が世界を揺さぶり続けているが、北朝鮮のような国を相手にするには強みとなるかもしれない。

(ハノイ・早川俊行)

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