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濱口和久の「防災・減災」対談 リーダーには強靭さが必要

2発目以降の地震にも警戒 大西
リーダーには強靭さが必要 濱口

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 震度7の地震が同一地域で連続して発生し、多数の死者や住宅被害、土砂災害などを出した熊本地震から来月で5年が経過する。昨年、熊本県では球磨川の水害を経験した。これらを踏まえ、市長として災害対策をどう進めているのか、災害の教訓をどう活(い)かすべきかなどについて濱口和久拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授が大西一史熊本市長と語り合った。

 濱口 まず、熊本地震の復興状況を簡単にご説明いただけますか。

 大西 発災後は最大で約1万2千世帯が仮設住宅で生活しました。しかし、現在は、恒久的な住宅がほぼ確保され、残り1%以下となり、来年には住宅再建がほぼ完了する予定です。インフラについても、ほぼ復旧が完了しました。

 濱口 市長にとっても、経験したことのない地震だったと思いますが、発災時に陣頭に立って対応に当たられた時の率直な感想をお聞かせください。

大西一史氏

 おおにし・かずふみ 昭和42年生まれ。熊本県出身。日本大学文理学部心理学科卒、九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得退学。熊本県議5期。平成26年、熊本市長に当選し、現在2期目。全国市長会防災対策特別委員会委員長。

 大西 発災直後は、全容が分からないので、被害の全体像をつかむのに時間がかかりました。選挙の時は「皆さん、74万市民の生命、財産を守るために責任を持ってやります」と言います。しかし、実際に被災して、完全には住民を守れないという状況が起こりました。あれだけの大規模災害が起こると、行政が公助として働くまでには非常に時間がかかります。その間、皆さんが自力で凌(しの)いでいただく部分が出てきます。ですから、皆さんには自助としての備えをしていただいて、自分の命は自分で守るという意識を持ち、地域の皆さんが支え合って、数日間を乗り切っていただくことが必要だと痛感しました。

 濱口 市民に対する情報発信はどのようにされましたか。例えば、東日本大震災以降、SNS等の活用とかもありますよね。

 大西 指揮を執っているリーダーの姿を市民の皆さんにできるだけ露出していくことが必要だと思いました。私はTwitterをやっていますが、SNS等でどんどん発信したことで、市民の皆さんは、ああ動いているという安心感を持つことができたと思います。

 濱口 リーダーが先頭に立って難局に対処しているということを市民の皆さんに実感してもらう工夫は大切ですね。

 大西 発災後、三日三晩ほとんど寝ずに指揮を執っていましたので、災害対策本部会議の冒頭のあいさつをする時、ふらっときました。メディアの前でしたが、右の副市長の方に倒れた方がいいのか、左の副市長の方に倒れた方がいいのか、どうしたら皆さんにダメージを与えないように倒れるかまで考えたくらい張り詰めた状況になりました。

 濱口 リーダーは常に精神的にも肉体的にも強靭(きょうじん)さが求められます。同時に、周りに動揺や不安を与えるような行動は避けなければなりません。4月14日、16日と続けて同規模の地震が起こりましたが、その時の心境はどうでしたか。

 大西 前震が起きた4月14日の夜は市役所のすぐ近くにいました。ドーンという揺れが来て、これは大きいぞと思って、市役所に急いで戻ると、「熊本が震度7」という数字が出ていました。ただ、震度7が1回来たら、次は6か5かと思っていました。それまでの常識ではだんだん揺れは低減していくとの思い込みがあったからです。

 ところが、28時間後にもっと強いマグニチュードの地震が起きたことには驚きました。そこで2度あることは3度あると思い、私は3発目が起きるかもしれないという覚悟をしました。

 少なくとも1発目が来たら、次はもっと大きいのが来るかもしれないというのを熊本地震の教訓として活かさなければならない。

継続して国土強靭化を 大西
災害の記憶を残す必要 濱口

 濱口 最悪の事態も想定されていましたか。東日本大震災では司令塔となる市役所や役場が機能麻痺(まひ)の状態に陥った自治体が数多く見られました。

大西一史熊本市長(右)と対談する濱口和久拓殖大学防災教育研究センター長=熊本市役所(森啓造撮影)

大西一史熊本市長(右)と対談する濱口和久拓殖大学防災教育研究センター長=熊本市役所(森啓造撮影)

 大西 今だから話せますが、3発目が起きれば、熊本はパニックになるだろうと。市役所で災害対策の指揮が執れなくなった場合は、福岡市とかにお願いするしかないとまで覚悟しました。

 濱口 その教訓は全国の首長たちが共有すべきではないでしょうか。この経験をされた首長は大西市長だけですからね。そして、熊本の人にとって、熊本城は熊本のシンボルであると思います。熊本城の復興状況はどうですか。

 大西 熊本城は、石垣も含めて、地震前の姿に戻すにはまだ十数年の時間がかかります。ただ、天守閣については4月26日から内部に皆さんが入っていただける状態になります。

 濱口 熊本城が完全に元の状態になるのにはどのぐらいの費用が必要ですか。日本全国からも支援があると聞いていますが。

 大西 基本的には文化庁や国交省からいろいろな国費を入れていただいていますが、熊本城を元の状態に戻すためには、震災直後の時点で634億円かかるとの試算が出ました。実際には、それ以上の額が必要になると思います。熊本城は熊本市民の誇りでもあり、熊本県民の宝でもあるのですが、日本の皆さんにとって非常に価値のある文化財でもあり、ぜひとも日本全国から熊本城のご支援をお願いしたい。

 濱口 熊本県では熊本地震以外でも風水害の被害がたびたび起きています。昨年も球磨川が氾濫し、流域では甚大な被害を出しました。熊本市も過去に白川の氾濫などで被害が出ています。災害の記憶を残していく必要性があると思います。

 大西 熊本市内の被害で言えば、平成24年に白川が氾濫した豪雨、昭和28年の6・26水害があります。6・26水害は、子供の時からずっと教育の中で教えられてきています。球磨川でも過去に繰り返し氾濫しています。そういう危険エリアに自分たちは住んでいるのだという認識を持つことが必要だと思います。

濱口和久氏

 はまぐち・かずひさ 昭和43年生まれ。熊本県出身。防衛大学校材料物性工学科卒、日本大学大学院総合社会情報研究科修了。防衛庁陸上自衛隊、栃木市首席政策監などを経て、現在、拓殖大学大学院特任教授、同大学防災教育研究センター長。

 濱口 日本全国の自治体では特に風水害についてはハザードマップを活用し、住民に危険性の喚起を促しています。熊本市の場合はハザードマップの活用はどのようになっていますか。それに併せて風水害に対する取り組みも。

 大西 熊本市では、デジタル版のハザードマップを公開しています。いろいろと分析し、どのくらいのスピードでここまで水がたまるかということが一定程度分かるようにハザードマップを作っています。パソコンを開いて見る余裕はありません。ですからスマートフォンやタブレットで簡易に見える形にしました。

 濱口 私は日本全国で防災教育をしていますが、ハザードマップの意味を理解していない人も多いようです。熊本市でも、ハザードマップは万能ではない。あくまでも避難の目安として活用するということを、市民の皆さんに徹底して教えてほしいと思います。

 自助、共助、公助という関係の中で、熊本市では共助を担う自主防災組織の体制はどのようになっていますか。多くの自治体で自主防災組織について悩みを抱えています。

 大西 熊本市は以前から、校区の自主防災組織、以前は自治会、自治協議会ごとに自主防災クラブをつくっていました。組織率は高かったんですが、熊本地震ではあまり機能しませんでした。そこで改めて市民の皆さんが地域で考えながら、防災組織をつくっていただこうと、校区防災連絡会を立ち上げました。現在、小学校校区を単位として校区防災連絡会(93%設置済み)が活動しています。また、避難所運営委員会を設置して、指定避難所に熊本市の職員を避難所担当職員として派遣し、地域の皆さんと連携を図れるようにしています。

 濱口 昨年の台風10号の時はどうでしたか。

 大西 この時も避難所を開設しましたが、地域の避難所担当の職員がすぐやって来て、開設してくれたということで、住民の皆さんに安心していただきました。まだまだこれからスキルアップしていかないといけませんが、私たちの取り組みを全国の自治体にも紹介しながら広めていけたらと思っています。

 濱口 大西市長は全国市長会防災対策特別委員会委員長も務められており、市長会の場でも、熊本市の取り組みを紹介してほしいですね。それから、熊本地震、昨年の水害、コロナ禍の中で、地域防災計画の見直しは進んでいますか。

 大西 地域防災計画はわれわれも法律に基づいて作っていました。熊本地震の時に全くそれが役に立たなかったとは言いませんが、どこの備蓄倉庫に何があるかを引きちぎって指示していくことしかできませんでした。最初から読んでいられない。ところが、読むと、実は必要なことは全て書いてあるのです。備えの段階からの強固な体制に見直しました。

 濱口 新型コロナウイルスの感染収束のめどが立たない中、感染症対策についての見直しは進んでいますか。多くの自治体で感染対策については苦労していますね。

 大西 河川の増水などでの課題を整理している最中に、新型コロナの感染症が広がりました。避難所で感染症が広がるのは最悪なので、保健避難所を新たに設定することにしました。

 昨年から運用を始める中で、昨年の台風10号の時に保健避難所の開設をするかどうかを検討しました。実際にはそこまでしなくて済みましたが、そういう体制を取ったという意味では地域防災計画を現実に即して大きく見直しました。

 濱口 全国市長会の防災対策特別委員会委員長として、国に対しての要望はありますか。

 大西 災害時、自治体が最初に心配するのは財源の問題です。初めて経験する災害の場合は、何が必要なのかが分からない。国には財源の手当てをきちんとやっていただく。それから国土強靭(きょうじん)化の計画をしっかりとやっていただくことで確実に防災力が高まっていくと思いますので、長期的に継続していただきたい。

 濱口 財政的支援以外もありますか。

 大西 国からいろいろな支援を頂きますが、非常時ですからある一定程度は自治体に任せ、全体として手厚くバックアップしていただく体制があれば、被災自治体の首長は安心して市民の状況を見ることができます。熊本市の場合、約11万人が避難所にいたため、物資を配るだけでも非常に大変でした。現場の状況は現場で対応している方が分かるものもある。自衛隊の支援などは大変心強いので、さらに充実していただくことが非常に重要だと思っています。

 濱口 熊本地震を風化させないためにも、大西市長から貴重なお話を伺うことができ、ありがとうございました。

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