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米国に根付いた無神論 キリスト教文化の破壊を狙う

《 記 者 の 視 点 》

 政治哲学者アラン・ブルームの著した『アメリカン・マインドの終焉(しゅうえん)』(1987年)は、米国社会が建国精神を離れて内面から崩れつつあることを描いた名著。三十数年たったが、精神の空洞化はより深刻になっている。それを印象付けた大統領選挙だった。

 バイデン大統領は「米国を一つにし、国民を団結させるために全霊を捧(ささ)げる」と語ったが、何を軸にして団結させるのかは語らなかった。

 私たちが想像もしなかった運動が米国で展開している。同性婚が連邦最高裁で合法化され、「建国の父」ジョージ・ワシントンの記念プレートがゆかりの教会から撤去され、独立宣言を起草したトマス・ジェファーソンまで偽善者として断罪された。

 米国にもマルクス主義を信奉する人たちはいて、自由と人権の名を掲げ、民主主義のルールに従って、社会変革の活動を展開している。

 ロシア革命後、西欧各地で共産主義革命が試みられた。が、労働者階級は動かなかった。聖書とキリスト教的思考が免疫となって、革命の種子は芽吹かなかったのだ。パトリック・J・ブキャナン著『病むアメリカ、滅びゆく西洋』(宮崎哲弥訳、成甲書房)によれば、新たな道を示した共産主義者らがいた。

 ハンガリーのジョルジュ・ルカーチはその一人。「旧(ふる)い価値の根絶と、革命による新しい価値の創造なくして世界共通の価値転覆は起こりえない」と主張し、1919年のハンガリー革命に加わり、政権の教育相に。過激な性教育を実施したが、革命は挫折。その50年後、彼の思想は米国の「性革命」で根付いた。

 イタリアの共産主義者アントニオ・グラムシは、ロシアに亡命中、「恐怖政治でしか体制を維持できないレーニン主義は失敗に終わる」と結論付け、マルクス主義者が西洋を攻め落とすには、西洋の非キリスト教化が必須と考えた。その青写真を『獄中ノート』に記した。

 権力を掌握してからではなく、まず文化を替えよと主張。そうすれば熟した果実のごとく権力は自然と手中に落ちてくる。それには芸術、映画、演劇、教育、新聞、雑誌、ラジオという新媒体と、長い道のりを要する。グラムシのこの考えは今、米国で実りつつあり、トランプ氏がメディアを批判したのはそのためだった。

 もう一つ、重要な学者グループがある。ナチス時代にドイツのフランクフルト大学から移住してきたユダヤ系学者らのフランクフルト学派だ。マックス・ホルクハイマー、ウィルヘルム・ライヒ、ヘルベルト・マルクーゼその他だが、彼らは古い闘争マニュアルを捨てて、新しいマニュアルを執筆した。

 昔の敵は資本主義だったが、今の敵はキリスト教文化そのもの。権力掌握に暴力は不要で、キリスト教精神を捨て去らせれば手中に入る。これが米国で進行している。

 マルクスとエンゲルスは『共産党宣言』で共産主義を「ゴースト」と呼んだ。幽霊、怪物、妖怪。政治的概念というより、神なき世界をつくろうとする妖怪なのだ。

 客員論説委員 増子 耕一

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