ワシントン・タイムズ・ジャパン

「現金給付」でジャブ放った岸田首相の真意見守るべき

 岸田文雄政権がスタートしました。岸田首相は昨日の会見で、さっそく、「女性、非正規、学生」などの方に対する現金給付の可能性に言及したようですが、果たしてこれは岸田首相自身の指導力なのでしょうか、それとも自民党の党内における議論を踏まえた「コンセンサス型政治」なのでしょうか。いずれにせよ、我々有権者としては、岸田政権を巡っては過度に楽観せず、過度に悲観せず、是々非々で見守っていくのが正しいのではないかと思う次第です。


有能な働き者?無能な怠け者

 あくまでも個人的な持論で恐縮ですが、ある人物が出世するかどうかは、その人が持って生まれた才能、その人の後天的な努力、そしてその人の運という、少なくとも3つの要素が重要だと思います。

 当然、生まれついて大変有能な人物であるにもかかわらず、組織で評価されずに埋もれている人材というのはそこここにいるでしょうし、大した才能を持っているわけではないものの、その後の凄い努力でやたら難しい試験にだけは受かってしまい、出世してしまうという人物もいます。

 こうしたなか、世の中に「有能な者」「無能な者」という軸と、「働き者」「怠け者」という軸があり、すべての人間が次の4つのいずれかに区分されると仮定しましょう。

①有能な働き者
②無能な働き者
③有能な怠け者
④無能な怠け者

 この①~④で、組織にとって最も害をなす者は②である、とは、昔から組織論ではよく提唱される説ですが、これには一理あります。著者自身もビジネスマンとしての経験はたかだか30年弱ですが、それでも「無能な働き者」が組織をおかしくしていく現場は数多く見てきたつもりです。

 これについてはいずれ、あと30~50年ほど経過し、当時勤めていた会社についての情報を公開しても良いタイミングが到来するならば、そしてそのときに自分自身が元気に生きていれば、具体的な実名とともに実際の事件の内幕について執筆してみても良いかもしれません。

デジタル型の「決めつけ」は良くない

 ただ、それと同時に、この「有能/無能」な「働き者/怠け者」というモデルは、必ずしも日本社会における組織の在り方を規定するうえで万能のものではない、というのが、もうひとつの個人的見解です。

 というのも、日本型の組織においては、トップダウンではなくボトムアップの方がなじみやすく、また、少数のリーダーが決断を下すのではなく、多数のメンバーが総意を形成していくパターンの方が多いような気がするからです(後述するように、自民党などその典型例でしょう)。

 こうしたなか、世の中のサイトなどを眺めていると、どうも「デジタル思考」というのでしょうか、「良い」、「悪い」の2軸でしか判断しない人が多いという気がします。

 以前からときどき報告している、菅義偉総理のことを「コロナ対策を何もしなかった極悪人」などと断じている某自称専門家の方がその典型例ですが、ご自身で客観的な情報を入手しようともせず、テレビなどで得られたと思しき限られた情報ですべてを判断しようとするから、そのような思考になってしまうのでしょう。

 大変、残念な方だと思います。

 そして、その方から以前、とあるルートで私信をいただいたことがあるのですが、2015年12月の日韓慰安婦合意に関して、当時は外相だった岸田文雄首相について呼び捨てにしたうえで、舌鋒鋭い(というか罵詈雑言に近い)批判がしたためられていました。

 そのなかに、「岸田文雄は無能な働き者だ」という表現が含まれていたのですが、さすがに、ちょっとこれは書きすぎだと思います。

 あくまでも個人的な感想ですが、たしかに2015年12月の日韓慰安婦合意自体、1993年の河野談話を下敷きにしたと思しき表現も出てきますし、明らかな与太話である自称元慰安婦問題を日本政府自身が事実であるかのごとく認めてしまったという意味では、ずいぶんと酷いことをしたものだと思います。

慰安婦合意には「良い面」もあった

 ただ、それと同時に、物事には常に良い面と悪い面があります。

 自称元慰安婦問題自体、ありもしない歴史問題を捏造して日本を貶めるという意味においては、たしかに日本国と日本人に対する誣告(ぶこく)であり、名誉棄損という一種の犯罪でしょう。それをきっぱり否定しなかった点において、当時の岸田外相、あるいは安倍晋三総理には失望した人も多かったに違いありません。

 しかし、この慰安婦合意があったからこそ、そして日本が10億円を韓国側にさっさと払い込んでしまっていたからこそ、韓国が政権交代後、この合意をあっけなく覆したことで、日韓の立場は完全に逆転しました。そのうえで、あくまでも結果論かもしれませんが、次の3つの効果を日本にもたらしました。

 1点目は、日本としては韓国に対し、「ウソをつくな」、「約束を守れ」と言い続けるだけで良くなったということ。

 2点目は、日本が米国との関係で、「日韓間に歴史問題は一切存在しない」と主張できるようになったこと。

 そして3点目は、爾後、日本が歴史問題で韓国に対し下手な譲歩を一切しなくて良くなったことです。

 (※もう少し正確に言えば、今後日本政府がありもしない歴史問題で韓国に譲歩しようとする動きを見せたならば、私たち日本国民はそんな政権に抗議の声をあげて良いし、そもそも政権のそんな行動を許してはならない、という意味でもあります。)

とある活動家の方が、慰安婦合意を「全面的な悪」、「安倍(氏)と岸田(氏)は売国奴だ」などと舌鋒鋭く批判していることは有名ですが、怒りのあまり思考が単線的になるのはいかがなものかと思う次第です。

経済が大事:とくに財政政策

 さて、岸田文雄政権の先行きを占ううえで、「これを外してはならない」というものの筆頭が経済です。

 当ウェブサイトでは『2000兆円に達する日本の家計資産:国債増発が急務』等を含め、これまでに何度も何度も申し上げてきましたが、日本経済の本当の問題点は、国家が税金を不必要に取り過ぎ、結果として日本経済がデフレから脱却できないでいる、という点にあります。

 というよりも、世の中で「日本は国債を発行し過ぎれば財政破綻する」、「日本銀行が日本国債を買えば日銀が経営破綻する」などと平然と荒唐無稽な主張をする人もいるにはいるのですが、それらの人たちの頭からスッポリ抜けているのが日本の資金循環構造図です。

 そもそも論ですが、金融商品の世界では、「金融資産」が存在すれば、それとまったく同額の「金融負債」が存在します。銀行の貸出金が社会全体で800兆円あれば、社会全体の人が銀行から借りているおカネが800兆円ある、という意味です。

 当たり前ですね。

 そして、中央銀行に「現金」、民間銀行に「預金」などの形でカネを貸している人はおもに家計部門であり、その家計部門が保有している現金・預金の額は1000兆円を優に超えていますし、企業も同様に、300兆円を超える額を「預金」などの形で銀行に貸し付けています。

 その際、銀行等金融機関にとって大切なのは、資産と負債がバランスすることです。

 つまり、銀行が預金者から1500兆円ほど預金を預かっているにも関わらず、貸出金が800兆円しか存在しなければ、大変困ったことになってしまいます。700兆円ほど「浮く」からです。

現在の日本は増税原理主義者の実験場だ

 現在の日本では、その「浮いた」700兆円は、日銀当預などに化けていますが、かりに政府が500兆円ほど国債を追加発行すれば、おカネが「浮いて」困っている預金取扱機関にとっては干天の慈雨のようなものであり、あっという間に国債が売れてしまうでしょう。

 もちろん、国債を購入する主体は銀行だけではありません。

 保険・年金基金、社会保障基金、日銀など、いくらでも投資家はいます。厳密にいえば、デフレから脱却するためには500兆円では足りず、800兆円ほど必要かもしれません。

 ただ、それでもとりあえず「お試し」で300兆円ほど国債を発行し、3年間ほど法人税・所得税・消費税の徴収をやめてしまえば、日本経済は間違いなく良い方向に変わります。

 このあたり、「自国国債はいくら刷っても問題ない」とする「MMT理論」なる考え方と似ていると指摘する方もいらっしゃいますが、当ウェブサイトの場合は「自国国債をいくら刷っても問題ない」とは考えていませんし、「MMT」などの考え方を使わなくても、「国債発行でデフレ脱却」というロジックは十分に説明可能です。

 また、「日本をMMTの実験場にするつもりはない」とは、昨日まで副総理兼財相を務めていた麻生太郎総理の発言だったと記憶していますが、それを言えば、現在の日本は、まさに「緊縮財政・増税原理主義」の実験場と化しているのではないでしょうか。

<首相の現金給付案

 さて、岸田首相は昨日、就任後初の記者会見h4>岸田に応じました。

岸田総理大臣の記者会見


―――2021/10/04付 首相官邸HPより

 このなかで岸田首相は「女性、非正規、学生」らに対する「個別の現金給付」などの可能性に言及しました。現実の金額、支給対象などについては、今後、与党などとの協議を経て決めていくということだとは思いますが、財務省寄りと見られている岸田氏から発せられた「ジャブ」としては十分でしょう。

 もちろん、現金給付もないよりはあった方がマシですが、本来ならばやはり、消費税の税率の引き下げ、地方消費税の廃止などにも言及してほしいところです(『立憲民主党の目玉公約「減税」潰しを自民党に期待する』等参照)。

 ただ、ここでもうひとつ感じるのは、「コンセンサス」の存在です。

 自民党総裁選で高市早苗氏が拡張的な財政政策の必要性に言及したことなどをあってか、岸田首相の現金給付などの方針は、自民党内の政策論争の結果、現金給付を含めた拡張的財政政策の必要性を反映しているという側面もあるのかもしれません。

あるいは、自民党政調会長に就任した高市早苗氏が岸田氏の「次の総理」を目指すという意味でも、自民党内から政権に対し、必要な政策をどんどんと投げかけていくというスタイルが定着すれば、結果的に日本が良くなるのかもしれない、と期待したいところです。

 この点、岸田首相自身が前任者である菅義偉総理や安倍晋三総理のような「強いリーダー」ではないことが、吉と出るか、凶と出るかについてはわかりません。

 しかし、岸田政権は昨日始まったばかりです。

 これについては過度に楽観視も悲観視もせず、是々非々の姿勢で見守るという態度が、私たち有権者の側にも必要なのだと思う次第です。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20211005-02/

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