«
»

菅総理続投というシナリオが狂って大慌ての立憲民主党

衆院選は「与党選び」であるとともに「最大野党選び」…有権者の見識が問われる

 もうすぐ、9月も終わります。少し気が早いですが、本稿では、これから近いうちに予想される最も大きな政治イベントのひとつである衆議院議員総選挙と最大野党・立憲民主党の関係について考えてみたいと思います。「野党利権」を大いに謳歌してきた立憲民主党。菅総理が続投することを想定して選挙の準備を進めていたのに、菅総理が事実上の退陣を表明したことで大慌て、というわけです。


コロナ禍とリーマン

●衆院選は任期満了後に実施か

 コロナ禍は世の中のさまざまな面に影響を与えましたが、国内政治という観点から興味深いのは、衆院選でしょう。

 政府はすでに、臨時国会を10月4日に召集することを閣議決定していますが、この日は10月21日の任期満了日の17日前でもあります。

 この国会では、9月29日に選ばれるであろう自民党新総裁を新たな首相に指名し、その後は所信表明演説などが行われるとみられることから、衆院総選挙は任期満了後に実施される公算が強まっているようです。

 この点、調べてみると、現行憲法下で衆議院が解散されず、任期満了で選挙を迎えた事例は、1976年12月5日に行われた第34回衆議院議員総選挙だけであり、それ以外はすべて衆院の解散に伴って総選挙が行われています。

 また、第34回衆院選も、任期満了日である1976年12月9日よりも前の時点で選挙が行われていますので、もしも今回、衆院選が任期満了日である2021年10月21日以降に実施されれば、まさに現行憲法下で初めての事態でもあります。

●「2009年政権交代選挙」とそっくりな面

 さて、今回の衆院選、2009年の衆院選と「そっくりな部分」と「まったく異なる部分」が混在しています。

 前回、2009年8月30日の衆議院議員総選挙のときには、ときの麻生太郎総理大臣が率いる自民党が、鳩山由紀夫代表が率いる民主党に惨敗し、自民党は政権を失いました。

 著者自身の見立てによれば、「民主党政権」を生みだした最大の原動力は、新聞、テレビなどのマスメディアによる、全力を挙げた「麻生叩き」「民主党推し」にありました。

 実際、『立憲民主党の先祖返り、今度のポスターは「変えよう」』でも報告したとおり、たとえば投票に先立ち「21世紀臨調」が主催した、麻生太郎総理と当時の鳩山由紀夫・民主党代表との討論会について、マスメディアが一斉に「スルー」したことは、その大きな証拠でしょう。

 リーマン・ショック直後に金融システム崩壊を防ごうと獅子奮迅の活躍をした麻生太郎総理を「漢字が読めない」、「高級バーに通う」、「カップラーメンの値段を知らない」、「ホッケを煮つけにして食う」などと本筋と無関係なところで批判しまくったことは、忘れようとしても忘れられない「メディア禍」でしょう。

 今回も、菅義偉総理大臣に対し、メディアによるバッシングは常軌を逸していました。

『産経・FNN調査でも「立憲民主党に投票」が9.4%』などでも取り上げたとおり、新型コロナウィルス感染症(武漢肺炎)拡大の全責任が菅義偉総理大臣に負わされ、有権者の怒りの矛先が政権に向かうなどしたためでしょうか、政権支持率が軒並み不支持率を上回っている状態にあります。

 もちろん、『データで見る、「テレビ局員らこそ感染拡大の主因」説』『徹底して自分に甘いテレビ朝日:説明は明らかに不十分』などでも触れたとおり、テレビ局員自身が感染拡大につながりかねない行動を取っていたという「オマケ」もつきました。

 つまり、メディアが印象操作だけで政権を攻撃し、政権交代を成し遂げようとした、というのが、2009年と2021年の大きな共通点ではないかと思うのです。

●「2009年」と「2021年」の大きな違い

 ただ、2009年と2021年で大きく異なる点がいくつかあります。

 ひとつは、新聞、テレビなどのマスメディア(あるいは「オールドメディア」)の社会的影響力が急落していることです。

 この10年あまりでスマートフォンが社会の隅々にまで普及したことの影響もあるのか、インターネットの社会的影響力はずいぶんと増大しました。実際、当ウェブサイトのような「弱小零細サイト」でも、下手な地方紙を上回るアクセスを得ています。

 一方、オールドメディアの側は、「自分たちの報道が批判される」という憂き目に遭っており、それらの批判が年々強まることはあっても弱まることはありません。相対的にオールドメディアの社会的影響力は凋落の一途をたどる、というわけです(もちろん、テレビの社会的影響力はまだ根強いですが…)。
 このあたりの事情は、けっして見逃せません。

 ただ、相違点はそれだけではありません。

 2009年当時、民主党は「マニフェスト」を掲げ、自身に政権担当能力があると有権者に対し強くアピールしたことも事実でしょう。

 もちろん、これらの「マニフェスト」は、あとから「詐欺フェスト」などと揶揄されたほど、内容はろくに実現しませんでしたが、それでも2009年8月時点に立ち返り、「なぜ民主党が政権を獲得したのか」を考察すると、この包括的な政権公約の存在というものが、要因としては大きかったのではないでしょうか。

●立憲民主党の「政権公約」…なのか?これ…

 では、現在ではどうなのでしょうか。

 現時点のの最大野党といえば、その民主党の後継者(?)である立憲民主党です。ただ、これまでに当ウェブサイトでしばしば取り上げて来た、立憲民主党の「政権公約(っぽいもの)」については、あらためて振り返っておくと壮絶です。

■「枝野幸男内閣」が初閣議で直ちに決定する7項目


・2021年度補正予算の編成
・新型コロナウイルス感染症対策司令塔の設置
・2022年度予算編成の見直し
・日本学術会議人事で任命拒否された6名の任命
・ウィシュマさん死亡事案における監視カメラ映像ならびに関係資料の公開
・「赤木ファイル」関連文書の開示
・森友・加計・『桜』問題真相解明チームの設置

(【出所】立憲民主党HP『枝野代表が「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」7項目を発表 福山幹事長会見』
■市民連合と立憲民主党など野党4党の共通政策


・憲法に基づく政治の回復
・科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化
・格差と貧困を是正する
・地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行
・ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現
・権力の私物化を許さず、公平で透明な行政を実現する

(【出所】立憲民主党HP『市民連合と立憲民主党をはじめ野党4党が共通政策で合意』
■#政権取ってこれをやる Vol.2


・選択的夫婦別姓制度を早期に実現
・LGBT平等法の制定/同性婚を可能とする法制度の実現を目指す
・DV対策や性暴力被害支援など、困難を抱える女性への支援を充実
・インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し、差別に対応するため国内人権機関を設置
・入国管理・難民認定制度を改善・透明化するとともに、入国管理制度を抜本的に見直し、多文化共生の取り組みを進める

(【出所】立憲民主党『枝野代表「 #政権取ってこれをやる Vol.2」で多様性や人権に関する政策を発表』

…。

立憲民主党という有害な存在

●現時点でVol.5まで

 いちおう、この「#政権取ってこれをやる」シリーズが政権公約っぽいのですが、本稿執筆時点において、立憲民主党のトップページからつながっている『衆院選2021特設サイト』を眺めると、現時点で「Vol.5」まで存在するようです(ちなみに「Vol.1」が「初閣議の7つの項目」だそうです)。

 こう申し上げては大変失礼なのですが、立憲民主党が発表した政権公約は、体系的でも計画的でもありません。

 個人的な理解に基づけば、議院内閣制において求められる最大野党の役割とは、「現在の与党がだらしない/ふがいない」と多くの国民が感じた際に、いつでも政権を奪取できるように準備しておくことであり、また、そうすることで国政の場に健全な緊張感をもたらすことにあるはずです。

 それに、遅くとも「第49回衆議院議員総選挙」が、どんなに遅くとも今年秋には行われることなど、4年前の時点で確定していたわけです。

 前回、2017年の第48回衆議院議員総選挙では、当時の最大野党だった民進党がいきなり「敵前逃亡」するというハプニングもあり、また、民進党が「小池百合子旋風」に便乗して「希望の党」に合流しようとして「排除」された人たちが急ごしらえで立憲民主党を作ったという「ドタバタ」がありました。

 しかし、今回の総選挙に関していえば、立憲民主党が昨年9月の時点で旧民進党勢力を糾合し、名実ともに最大野党の地位を回復した状態にありますし、その時点から現在まで1年以上の時間もあったわけです。

 山ほど時間があって、なぜ体系的な政権公約を準備することができていないのか、上記「Vol.1」~「Vol.5」のような順番で公表した理由はなんなのか、など、立憲民主党の政権公約を眺めていると、頭に「?」マークがいくつもいくつも浮かんできます。

●まったく伸びない、立憲民主党の政党支持率

 いずれにせよ、リーマン・ショック直後の2009年とコロナ禍直後の2021年で政権支持率が低いという共通点はありますが、「政権交代の可能性」という観点からの最大の違いは、立憲民主党に対する政党支持率がまったく伸びていない、という点ではないでしょうか(図表)。

■図表 政党支持率(2021年9月)
210927-1

(【出所】各社報道より著者作成)

 どのメディアの調査でも、立憲民主党に対する支持率は「ヒトケタ台」であり、自民党に対する支持率と比べれば、5分の1から、下手をすれば10分の1少々に過ぎないのです。ある意味では「なかなか達成できない偉業」なのかもしれません。

 もちろん、これらの調査は「政党支持率」であり、現実の小選挙区でどの政党の候補者に投票するか、比例区でどの政党に投票するか、という数値ではありません。

 実際、『「立民に投票」10.8%の皆さん、公約読んでます?』『産経・FNN調査でも「立憲民主党に投票」が9.4%』でも触れたとおり、「比例区では立憲民主党に投票する」と答えた割合は、政党支持率よりは高いことが一般的です。

 しかし、もしそうだとしても、この得票率だと「最大野党」の地位を維持することはできるかもしれませんが、政権与党になることは、おそらくは不可能でしょう。

●立憲民主党の本質は「利権野党」

 では、立憲民主党にとって、政権交代が実現しないことは、何を意味するのでしょうか。

 当ウェブサイトではかなり以前から報告してきたとおり、おそらく立憲民主党にとっての「最大野党」の地位は、一種の利権のようなものなのかもしれません。つまり、立憲民主党にとってはその「最大野党利権」さえ守れるのであれば、何をやっても良い、という割り切りのようなものが感じられるのです。

 考えてもみていただきたいのですが、国会議員になれば、大変高額な金額が国庫から支払われます。

 ここでは、『国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律』の規定を確認しましょう(いわゆる「ヒラ議員」の場合)。

『国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律』の規定
①「歳費月額」(俗にいう月給)が1,294,000円(第1条)
②非課税の「文書通信交通滞在費」が毎月100万円(第9条)
③「期末手当」(俗にいう賞与)(第11条の2)

 この「期末手当」の具体的な金額は法律には記載されていませんが、一説によると年間600万円を超えるのだそうです。

 ただし、①と②の合計だけでも27,528,000円に達しますし、これ以外にも秘書を3人、公費で雇うことができる(政策秘書、公設第1秘書、公設第2秘書)ほか、その議員が政党助成法上の「政党」に所属していれば、人数に応じて政党交付金が国から政党に支払われます。

 さらには新幹線の乗車券・特急券・グリーン券、一定条件を満たした場合の航空券などが支給されますし、わりと豪奢な議員宿舎に安い家賃で入居可能だったりもします(もっとも、豪勢さではNHKの社宅には負けるようですが…)。

 このため、議員1人あたりで見て、下手をすると年間1億円前後の金額が支払われているわけですから、何とも恐ろしい話です。そして、こうした高額の歳費に見合った働きをしてくれているのならば問題ないのですが、立憲民主党の議員を眺めていると、どうもそうは見えません。

 それに、立憲民主党の皆さんが大好きなのは、「野党合同ヒアリング」と称してときどき開催する「ヒアリング大会」でしょう。

 たとえば、本日も『【国対ヒアリング】9月27日(月)14:00~ 野党合同国会第5回「コロナ対策ヒアリング」』なるものが予定されており、「新型コロナウイルス対策などについて、厚生労働省、内閣府、内閣官房よりヒアリング」と説明書きがあります。

 しかし、この手のヒアリングを実施して、なにか役に立っている(たとえば何らかの具体的な政策に結実させる、など)という話は聞きません。ただたんに、現場の忙しい官僚を呼びつけてパワハラ大会をするというだけの話です。

 問題は、それだけではありません。

 そもそも国会では質問時間が野党に対して多く配分されており、野党に割り当てられた膨大な質問時間を具体的にどの政党に割り振っていくかの采配は、国会の慣例上、最大野党に委ねられています。極端な話、立憲民主党が日本維新の会に質問時間を割り振らない、といったイジメをすることも可能です。

 つまり、立憲民主党は「最大野党」として、国会運営でも不当に大きな権限を握り、法的根拠もなく官僚を呼びつけてパワハラ大会を実施して「王様気分」を味わい、それでいて多額の歳費などのカネを国庫からむしり取っていく…。

 そんな有害な存在なのです。

●劣化が目立つ立憲民主党のワントラック思想

 ただ、2009年の民主党と比べてさまざまな点で劣化が目立つのも事実でしょう。

 先ほど挙げた「マニフェスト」と「政権取ったらこれをやる」の違いもさることながら、やはり最も大きな特徴のひとつが、「ワントラック」思考、すなわち単線的な発想にあります。

 当ウェブサイトの見立てで恐縮ですが、立憲民主党にとって最も都合が良いのは、オールドメディアの尻馬に乗って、「とにかく与党のコロナ対策を批判しまくる」、「菅義偉総理を悪者に仕立て上げる」ことでその菅総理との全面対決を有利に制する(が、与党になるだけの票はギリギリ取らない)ことです。

 現有勢力を維持ないし微妙に拡大し、高額の歳費を受け取りつつ、引き続き王様気分を味わうことが最大の目的だったわけですが、その戦略が大きく狂いました。

 菅義偉総理大臣が今月3日、自民党総裁選に出馬しないと述べたからです。

 「アベは辞めろ」だの、「スガは辞めろ」だのと叫んでいた「反アベ・反スガ」界隈が、菅総理が事実上の退陣を表明したことに対し、今度は「いきなり辞めるのは無責任だ」、などと大騒ぎしていたのには、個人的には大変に驚き、また、「面黒い」と感じた次第です。

 ただ、立憲民主党が慌てたのは、菅総理が退陣し、自民党総裁選の話題で盛り上がるという展開を、彼ら自身がまったく想定していなかったからではないでしょうか。

 その証拠が、立憲民主党のウェブサイトに掲載されていた、こんな記事です。

 これは、立憲民主党の平野博文選対委員長が党本部で小沢一郎衆議院議員と意見交換を行ったとするものですが、これがなかなかの噴飯物です。

「菅総理が続投することを想定して選挙の準備を進めていたが、総裁選に出馬しなかったため、『新しい総裁が生まれるので、状況が変わってくる可能性が大きい。そういう意味では大変厳しい選挙になる』との認識を両者で共有した上で、平野選対委員長から『小沢先生の50年の議員活動(で積み重ねてこられた)諸々の知見をぜひ貸していただきたい』『選挙対策委員会の組織としても、ぜひその枠組みの中で力を貸してほしい』と要請したと明かしました」。(※下線部は引用者による加工)

 平野さん、記者団に対し、少々ざっくばらんに打ち明け過ぎでは?(笑)

 すなわち、先ほども紹介した「政権公約」(っぽいもの)についても、立憲民主党が「菅総理続投」を前提に政権公約づくりをサボっていたところ、菅総理が続投しないと表明したことで慌てて作り始めたもの、という可能性が出てきたのです。

 なんだか、たっぷりと夏休みがあって、最終日に慌てて夏休みの宿題をやり始める小学生みたいですね。

 いや、そんな言い方をすれば、「宿題をサボっていた小学生」に対して失礼ですが。

有権者の見識が問われる

 もっとも、非常に残念なことに、現時点で著者自身は、今年の衆院選ではやはり立憲民主党が最大野党の地位に留まると予想しています。

 ただ、それと同時に、立憲民主党が衆院の現有110議席(※昨日時点で著者調べ/赤松広隆・衆議院副議長を含む)を増やすか、維持するか、減らすかについては、有権者の見識が問われる場面でもあります。

 くどいようですが、衆議院議員総選挙とは、「政権与党とその勢力を決める選挙」であるだけでなく、「最大野党とその勢力」を決める選挙でもあるのです。

 そのことを、改めて強調しておきたいと思う次第です。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210927-01/

6

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。