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神様、仏様、ワクチン様 自民、単独過半数割れの崖っ縁

政界の風を読むー髙橋利行

 ヒトは誰しも、何時(いつ)かは、己の人生において「究極の決断」を迫られる時がくる。市井の民であろうが、位人臣を極めた人物たるとを問わない。コロナ禍に蹂躙(じゅうりん)されている日本列島の惨状を目の前に遅々として捗(はかど)らないワクチン接種状況を勘案すると、宰相・菅義偉にはふたつの選択肢しかない。

 ひとつの途(みち)は、あくまでも政権担当に固執し、衆院解散であろうが任期満了であろうが、断固として己の手で衆院選を断行するという選択肢である。恐らく宰相は心中深く「この道を突き進む」と決めている。ワクチン接種が思うように運べば世間の空気も劇的に好転すると踏んでいるらしい。「神様、仏様、ワクチン様」の心境にあるらしい。宰相の座に在る者が、一旦こうと決めてしがみ付いてしまえば、引き摺(ず)り降ろすのは至難の業である。「菅降ろし」を強行すれば、コロナ禍に内紛が重なる。「自爆解散」をするような事態になれば自民党もろとも吹き飛びかねない。

 仕方がない。その進退を衆院選の結果に委ねる。だが、それでもいまの極めて低い内閣支持率から判断すると、自民党が現有議席を大幅に割り込むことは避け得ない。単独過半数(233議席)を維持できるか否かも定かではあるまい。赤信号が灯(とも)っている。

 立憲民主党、国民民主党から共産党まで野党全部をひっくるめると、単純計算では、自民党は前回の衆院選(2017年)の獲得議席から64議席減るという。そこまで落ち込むことはないと予測する識者もいる。カギとなるのが共産党の向背である。共産党との連立政権は真っ平御免という勢力は国民民主党に限らず支持母体の連合(日本労働組合総連合会)にも根強くある。官公労主体の総評と民間産別主体の同盟が合体して結成しただけに、原子力発電などをめぐってはソリが合わない。

 仮に、共産党が表向き政権に加わらないとしても、政権交代を実現するには、その組織力、集票力を借りなければならない。共産党にとって候補者を擁立しないで他の野党候補を支援するくらいの芸当は朝飯前である。とはいえ共産党の影がちらつく。政策の擦り合わせをしないまま政権の座に就くと細川護熙政権、鳩山由紀夫・菅直人・野田佳彦政権の二の舞になりかねないと逡巡(しゅんじゅん)する空気もある。

 自民党も公明党の力を借りて、辛うじて政権維持が出来たとしても、単独過半数を割り込むようなら明らかに「敗北」である。「惨敗」と言えるかもしれない。宰相や幹事長の責任は免れまい。中央突破に展望が開けないとなると、もはや「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」という手段しか残されていない。菅義偉は潔く退陣し手早く自民党総裁選を実施、少しでも新鮮味のある宰相を選び出し、その期待が大きいうちに衆院選に臨み、いくらかでも議席減に歯止めをかけることである。とどのつまり、宰相・菅義偉の命運は、どちらの道を選ぼうと尽きる可能性が高いことになる。

 前任の安倍晋三は、元々、菅義偉の任期は己の残任期間だったはずじゃないかと思っている。小此木彦三郎の秘書からとんとん拍子に出世の階段を駆け上がり望外ともいえる宰相の座に就いたのである。それだけでも良しとしなければならないとでもいうのだろう。「茂木敏充、加藤勝信、下村博文、岸田文雄」と、いち早くポスト菅の候補者に言及したのも、身の程を弁(わきま)えさせようとしたに違いない。外された石破茂は異を唱えたが、下村博文はお礼の電話を掛けたと言われる。

 政局は「院政」では収まらず再々登板を密かに狙っているとも取り沙汰される、この生臭い人物と、菅義偉を宰相の座に押し上げたドン・二階俊博が自らの進退を賭けて睨(にら)み合っている。コロナ禍もなんのその、水面下では熾烈(しれつ)なバトルを演じている。その睨み合いの中で大志を抱く面々がバトルロイヤルに参戦している。コロナとの戦争に脆(もろ)くも敗れた菅義偉の後だからハードルは低いと野心を漲(みなぎ)らせているのである。

 厄介なのはリング外にジョセフ(ジョー)・バイデン(米国大統領)と習近平(中国国家主席)というふたりの巨人が双方のセコンドについていることである。「いいか、敵は二階だぞ、とっとと斬ってしまえ」とバイデンが檄(げき)を飛ばせば習近平も二階俊博に「怯(ひる)むな、一歩も退(ひ)くな」と応じる構図である。「政治」に陰りが見えたとみて頭を抑えられていた「官僚群」も復権にそろっと蠢(うごめ)き出していると聞く。

(文中敬称略)

(政治評論家)

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